日本二輪車普及安全協会が、安全啓発を目的とする第四回シンポジウムを実施。幅広い講師陣が講義とパネルディスカッションを行い、様々な面から安全に関する興味深い実態が見えた。
バイクの死亡事故者は近年増加傾向、悲惨な事故を1件でも減らすために
ライダーが安全かつ快適に過ごせる環境作りを目指す非営利団体「一般社団法人 日本二輪車普及安全協会」(略称:日本二普協)が9月11日、都内で業界関係者を招き「第四回シンポジウム~二輪車の安全運転を考える」を開催した。
バイクの安全啓発を目的に毎年行われており、4名の講師が講義とパネルディスカッションを実施。講師は千葉県警察、高校教頭、ホンダのエンジニア、JAFロードサービスのスタッフと非常にバラエティ豊かで、様々な立場からの安全と今後の課題について議論した。
各講義とディスカッションで、ポイントなる部分を抜粋してお伝えしたい。
まず日本二普協安全本部長の荒井龍介氏がシンポジウムの趣旨について説明した。
「二輪乗車中の死亡者数が近年減少傾向にありましたが、一昨年の令和5年は580人、昨年は487人でした。令和4年の435人と比較すると増加しており、まだまだ厳しい状況です。年齢層については、いまだ若年層、特に20歳から24歳が突出しており、50歳前半から60歳代の中高齢者の事故も増加しております。
このシンポジウムを通じて、いかにして二輪車を安全に楽しく、永きにわたってバイクライフを送れるかを皆様方と共に共有し、さらなる安全運転の普及活動として訴求展開していきたいと考えております」と説明した。
続いて、今年から専務理事に就任した日本二普協の高橋 亮氏が挨拶。
「悲惨な死亡事故を1件でもなくすよう、これまで関係各位が活動してくださっていますが、死亡事故ゼロに向けて、より一層の尽力が必要であると認識しております。今回のシンポジウムを通して、関係団体が連携した安全啓蒙活動への昇華、そして安全啓発活動が社会や運転者の目に留まるだけでなく、その先の行動変容に繋げられるよう、新たなアイデアや観点が見出されればと考えております」
バイク通学OKの北杜高校では原付免許取得率が40%超!
どの講義も興味深かったが、筆者が最も興味を惹かれたのが山梨県立北杜高等学校 坂本教頭の講義「高等学校における二輪車安全運転教育指導」。パネルディスカッション後の質疑応答でも来場者から質問が相次いだ。
山梨県ではバイク通学を認めているケースが多い。坂本氏は2003~2011年、山梨県立笛吹高校勤務時に二輪車安全運転特別指導員の資格を生徒指導担当時に取得。長年、高校での安全教育に携わってきた。今年から北杜高校に教頭として着任。生徒たちに安全運転を実践させ、悲惨な事故に遭遇しないよう日々尽力されている。
北杜市は漫画&アニメで有名な『スーパーカブ』の聖地で、ツーリングの目的地として訪れる人も多いとのこと。41年前、自身も高校時代に原付で通学しており、現在もバイクに乗っている。
公共交通機関の少ない山梨県では、保護者の同意があれば原付免許、普通免許ともに取得が許可される。北杜高校では生徒数500人弱のうち125人が原付免許を取得。108人が原付で通学している。これは7月末の数字で、2、3年生の38%が原付免許を取得し、3割強の生徒が原付通学している計算。夏休みが明けて1年生も加わると、原付通学者の割合は4割以上になる見込みという。
これは3ナイ運動が猛威をふるった一昔前からすると驚くべき数字。全国的に見ても高く、全国の高校生原付免許取得率が2.15%なのに対し、山梨県では11.1%、北杜高校では40.8%と圧倒的だ(2022年時の統計)。
なお、通学に使われている車種はスクーターが大多数で、スーパーカブは8名が利用している。これまで価格や安全面からスクーターが推奨されてきたが、カブの方が安全という保護者の意見もあり、見直しているという。また、電動キックボードなどの特定原付は許可されていないが、今後検討する余地はあるという。
高校生ならではの“特性”を踏まえた指導が大事
とはいえ、事故が起こっているのが現状。調査してみると「“自分はまだ運転に慣れていない”という自覚が薄い、“友達と同じように乗れるはず”という過信、“事故は起きないだろう”という根拠のない安心感」が高校生の事故の特徴という。
「自身の未熟さを理解してもらい、高校生の特性をしっかりと踏まえた上で指導に活かす必要があると考えています」と坂本氏。ただ、「ヒヤリハットの振り返りしてもらったところ、生徒たちは“なぜあの状況で事故が起きなかったのか”といったことをきちんと分析しています。生徒たちがきちんと考えていることに安心感を覚えました」と話す。
そして「高校生の特性を理解した安全教育が必要」と話す。「大人が“これはルールだから守りなさい”と言っても、高校生はそうしたことはわかっています。しかし、それを実際の行動にどう落とし込むか、どのような指導が必要か、という点が重要。指導において最も大切なのは、子供たちの身近な大人がしっかり日常で正しい行動を示すことが基盤になります」と語った。
なお、アンケートでは通学以外にも、部活動で遠征に行く時に使ったり、近くのコンビニに行ったりしていると回答。また、卒業後にもバイクに乗りたいか尋ねたところ、100人中35人が「乗りたい」という気持ちはあるものの、進学する生徒が多く「すぐにではない」との回答だった。
高校生の時に「先生と一緒にツーリングに行きたい」と言っていた子もいるが、卒業してから実際にツーリングした経験はまだないとのこと。とはいえ、バイクに触れ、バイクを楽しむきっかけにはなっているようだ。
電動キックボードなど新モビリティに対する安全対策を強化
千葉県警察本部の石山孝明氏は「電動モビリティに係る交通安全対策」をテーマに講義した。
石山氏は、1997年に千葉県警察官として任命され、約15年間交通警察に従事。現在は県内における交通事故防止対策、交通安全教育など多岐にわたって統括しており、今回のテーマである電動モビリティを含む自転車対策も担当する。
2023年7月1日から、電動キックボードなどの一部を「特定小型原動機付自転車」と定義し、通行方法などに関する規定が整備。免許不要で16歳から運転でき、定格出力0.6kW以下、20km/h超の速度が出せないといったルールがある。
2024年では全国で338件の人身事故が発生。1名が亡くなり、負傷者数は350人だったという。「今後、利用者の増加に伴い、交通事故も増えることが予想されますので、益々交通安全対策が重要になってくると考えております」と話す。
また、6km/h未満で歩道を通行できる「特例特定小型原動機付自転車」も登場している。千葉県警としては、原付の車種区分が複雑で交通ルールも分かりづらいことから、積極的な周知が必要であると考えており、若者世代や在留外国人などにも様々な機会を通じて安全教育を実施。チラシを配布したり、交通ルールの再確認などの広報啓発を行うとともに、乗車用ヘルメットの着用促進を呼びかけている。
中高生に対しては、県の教育委員会と連携を図りながら、自転車と合わせて学校教育の一環として交通安全教育を実施。千葉県内では千葉市、習志野市、成田市、勝浦市がシェアリングサービスを行っているが、事業者との協議・連携をしているという。
ABSやコンビブレーキから、車両同士のネットワークへ
本田技研工業のエンジニアである谷 一彦氏は「ホンダ二輪車安全技術の取り組み 先進ブレーキ編」と題して講演を行った。谷氏は、1983年に本田技研に入社し、世界初の機械式ABSやスーパースポーツ向けの電子制御式コンバインドABSを開発。以降、全ての先進ブレーキシステム開発に携わってきた人物だ。
ホンダは安全目標として、2050年に交通事故死者ゼロを目指しており、2030年以降は、ABSなどのベーシックな技術から、通信を活用したインフラとの協調といった技術を開発していく予定という。二輪先進ブレーキは、各国の法規導入もあり、約85%の普及が進んでいる段階という。
ホンダにおける先進ブレーキの歴史としては、1969年にCB750フォアに搭載された世界初のバイク用ディスクブレーキが端緒。1976年には耐久レースでのライダー疲労軽減を図るため、前後連動のコンビブレーキを初めて試作したほか、量産車初のコンビブレーキを1982年のゴールドウイングに搭載した。
「ディスクブレーキによって、二輪車の大型化、高速化に対応するブレーキが実現できたと考えています」と谷氏。また、コンビブレーキはグローバル市場で普及している。特に150cc以下の経験の浅いライダーは、後輪ブレーキしか使わない傾向があるという調査結果が出ているが、コンビブレーキによってライダーを問わず、停止距離の差が小さくなる。
次のステップとして、これまで取り組んできた技術の提供拡大に加え「安全安心ネットワークに関する技術開発」を提供していく。具体的には、ITS(高度道路交通システム)における車車間通信、路車間通信、緊急通報といった技術の開発を進める予定。これらの技術を活用し、2030年以降の死者ゼロに向けて技術を提供するという。
さらに、ITSのデモンストレーションビデオを披露。障害物があり、四輪車と二輪車がお互い見えない場面では、四輪車に「二輪車が来ている」という通知が伝わり、お互いに通信することで見えない場所の存在を知らせ、事前に危険予知をしていた。将来はこんなことが可能になるのかもしれない。
よりスムーズな二輪ロードサービスに向けてアタッチメントを開発
日本自動車連盟(JAF)の菅原氏は「二輪車のロードサービスと二輪アタッチメントの開発について」講義を行った。
お世話になった人もいると思うが、JAFは24時間365日ロードサービスを実施している社団法人だ。「年間約230万件の出動要請があり、時間にしますと13.7秒に1件の割合で出動を行っております」と菅原氏。1963年に創設され、2005年からバイクのロードサービスが開始された。
「二輪車の安全運転を考える」という視点から考えると、一般道ではバッテリー上がり、高速道路では燃料切れに注意することで多くのトラブルを防ぐことになる。
このように増えている二輪車のロードサービスに対し、JAFでは2022年から「二輪アタッチメント」を全国で導入した。
これまでJAFでは現場で応急処置ができないバイクのトラブルがあった時に、車両積載車や多目的車で運搬していたが、搬送可能な車両は全体の約17%だった。そこで、JAFの主力であるレッカー車を使って二輪の牽引をするために開発されたのが「二輪アタッチメント」。これによって対応可能車両を2.5倍に増やすことができたという。
「開発を進める中で、海外製品の一部に牽引できるものもありましたが、日本の法令に対応するものがありませんでした。そのため、この法令に対応するものを作ることに時間がかかりました」と菅原氏。
対象車種は原付から大型バイクまで。ホイールベースは1145~1700mmまで幅広く対応。車種を問わず、万一の際のトラブルにも安心というわけだ。
「回避より停止」「前後の割合」ブレーキの安全な操作方法は?
4つの講演の後、各講師が参加するパネルディスカッションと質疑応答が行われ、活発な議論が交わされた。
中でも筆者の印象に残ったのは、坂本氏から谷氏に向けた質問だ。坂本氏が「生徒たちはブレーキ操作が苦手。危険が目の前に迫った時に回避するのではなく、まず止まるよう指導しています。それで合っていますでしょうか」と質問すると、谷氏は「はい、それが非常に大切だと思います。当然、回避しようとするとブレーキ操作がおろそかになってしまうので、間違っていません」と答えた。
坂本氏は「子供たちには、なぜ前輪ブレーキも必要なのかを実技で見せるのが最も説得力があると思います。しかし、前輪ブレーキをかけるのが怖いと感じる子もいるため、運転に自信がない子やパニックブレーキが怖い子には、コンビブレーキが付いている車両を推奨します」と続けた。
また「前後ブレーキの割合」に関して菅原氏から谷氏への質問も。谷氏は「晴れた日のアスファルトの上でしたら、前輪ブレーキは8、後輪ブレーキは2くらいの割合で使うのが最も効率が良いと考えます。雨の場合は路面の摩擦係数が下がるため、前輪4、後輪6くらいの割合を推奨しています。このバランスをうまく取るには経験が必要ですが、それを簡単にしたのがコンビブレーキやABSです」と回答していた。
海外でバイクの自動運転を法制化する動きもアリ!
事故ゼロを実現するために抱えている課題として、谷氏が自動運転について言及。事故を防ぐために完全自動運転もあるが、仮にクルマは出来たとしても、バイクで自動運転は難しい。ところが、インドやタイでは「四輪の自動運転技術があるのだから、バイクも自動運転できるだろう」として法制化する動きがあるという。「二輪は違うということの説得に苦労している」とのことで「今後、二輪としてどういうことができるかは考えていかなければならない」と語った。
来場者から坂本氏に「子供たちにバイクを教える際の心構えやポイントはありますか」との質問も。「交通社会には相手がいるということを伝えています。周りの大人たちが高校生だからといって守ってくれるわけではありません。交通社会の一員というのはそういうものだと教えています」と話していたのも印象的だった。
―――こうしてシンポジウムは閉会。13時から17時に及ぶ長丁場だったが、安全について深く考え、新たな視点を与えてくれる、いい機会だった。
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