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2025年8月7日、「キリン」の作者である漫画家東本昌平氏が7月27日に亡くなられていたということが発表された。SNS上には多くのライダーたちの悲しみと、東本氏への感謝の言葉が溢れた。筆者も東本氏の作品の愛読者であり、少なからず影響を受けた世代である。26歳の時に「ビッグバイククルージン」というマニアックなバイク誌の編集者となった筆者は、ニンジャの特集をしたNo.37「Ninja最速の血統」で、東本氏のインタビューを当時の編集長であった故・高橋矩彦氏とともに行なわせていただいた。平成9年、つまり1997年、今から28年も前のことである。

当時東本氏は「キリン」の第二部となるマサキ編を連載中で、その主人公たちはニンジャに乗っていた。このビッグバイククルージンNo.37もとうの昔に絶版となってしまっており、今回、スタジオ タック クリエイティブの許可をいただいて当時のことを思い起こしつつ、追悼の意味を込めてこの原稿を再掲載させていただくことにした。文字を書き起こしていると当時の記憶が蘇ると共に、編集一年生の自分の能力の低さに頭を抱えることとなった。少し読みやすいように一部を修正してみたものの、文意が変わってしまう可能性のある部分はそのままにしてある。今改めてインタビューさせてもらえるのであれば、もっと良いものができるとは思うがそれももう叶わない。読みにくい部分もあるかとは思うが、そこはお許しいただきたい。

※収録されている表現は、作品の執筆年代・執筆された状況を考慮し、紙面発売当時のまま掲載しています

最悪のニンジャとの出会い

ビッグバイククルージン編集部(以下BBC) まず、ニンジャに初めて遭遇したときのことを教えてくだい。

東本昌平氏(以下東本) 関越を東京に向かって走っているときに抜かれちゃったのが最初ですね。

BBC そのときバイクは何だったんですか?

東本 カタナの1100に乗ってて、まあ、230km/hいったかいかないかで、あっ怖いなって思ってたらついてくるバイクがいたんです。ついてくるんだからカタナだろうと思っていたら、抜かれた後に赤かったんです。それも『シュッ』っていう感じで抜いていって、それがニンジャだったんですよ。それがずっと尾を引いちゃって。

BBC それは夜だったんですか、朝だったんですか? 周りに車は多かったですか?

東本 車は・・・あまり多くなかったですね。時間は午後3時頃です。

BBC その時のカタナというのは、改造してあったんですか?

東本 ノーマルです。

BBC じゃあ、風やら何やらで結構必死の状態ですか?

東本 いやもう、カタナの200km/h以上は怖かったですよ。だから、200km/h以上出して出して、これは怖いなって思っている時に抜かれたんで相当スピード差があったように感じたんです。で、追いすがってきたときに、このままじゃ抜かれそうだったんでメーターを見た覚えがあるんですよね。そしたら220km/hぐらいだったんで、ああもうちょっといけるかなっと思ったらそこからの引き離され方がもう尋常じゃなかったんで、何キロ出してんのかなぁって。それがニンジャに遭った一回目で、最初がそんなだったんで街中でニンジャ見るとやたらムキになったりして。

BBC それはお幾つくらいのときですか?

東本 24、いや24か25ぐらいのときですよね。見てても信用できないくらいの速さなんで、それだけ速いってのは特別なことだったんですよね。だから、あのニンジャだから速いっていうのがわからないんですよ。それで、わかるまでずいぶんかかりましたからね。

BBC それで、その後ニンジャには乗られたんですか?

東本 ええ。でも、ずいぶん後ですね。で、ニンジャが出てからいろいろなバイク出ましたよね。ハリケーンとかいろいろ出たんだけど、そこでリッターバイクを買い繋いでもこれはキリがないなって思って、一回カタナをやめた後あんまり速いバイクに乗らなかったんです。そのきっかけがニンジャだったんですよね。それからずっとCBばっかり乗っていたんです。でも、あんまり遅いとまた何かつまんないですよね。で、何年かぶりで現行車のZX-9Rを買ったんですよ。

BBC 以前に撮影させていただいた車両ですよね。9Rを買うきっかけは何だったんですか?

東本 9Rを買うきっかけは・・・そうですね、仲間とツーリングに行くときにK0なんかだと楽しくないんですよ。それで、何かちょっと速いのに乗ろうかなって思ったときに、候補がGSX-R1100かZX-7ですか、ナナハンのやつが候補だったんです。それでカワサキのナナハンを買おうかと思っていたら、今度900が出るっていうんでそれにしたんです。

BBC なるほど。

東本 いや、ニンジャも候補に上がったんですが、せっかく買うんだったらと思って。

BBC ZX-9Rが出たときには、イレブンもあったでしょう? なぜZZ-Rじゃなくて9Rだったんでしょう? 軽いのが欲しかったんですか?

東本 うーん・・・。

BBC (9Rも)あんまり軽くもなかったんですよね。

東本 結果的にはね。でも、重いといっても昔のバイクほどじゃないだろうと思ったんで。

BBC ええ、まあそうですね。けっこう気に入ってらっしゃるんですね。手放してないところを見ると。

東本 いや、気に入ってるわけじゃないんですけどね。どうしてもZZ-Rとかファイヤーブレードと比べちゃうじゃないですか。結局、今度新しいのが出るときにブレーキが効きにくいのが6ポットになったりいろいろしているんで、ああメーカーさんもそう思ったのかと思って、じゃあいいやこのまま乗り続けちゃおうかなって思っているんです。カタナっていうのは結構クセがあるじゃないですか。それはカタナに乗ってる者同士じゃないとわからない類のもので・・・。それで9Rもこれだけクセがあるんで、乗りこなせたらそれはそれでマンガのネタでも増えるんじゃないかと思って。

インタビューが掲載されたスタジオ タック クリエイティブ刊行の「ビッグバイククルージン No.37」。ニンジャ特集の一環として東本氏にインタビューさせていただいた。©スタジオ タック クリエイティブ

ニンジャというバイクの今いる位置

BBC お電話で『ニンジャは今速いバイクじゃないからマンガに描いてる』とおっしゃっておられましたが、その辺のことについてお話ししていただけますか。

東本 いや、遅いわけじゃないんですけどもね、一番速いバイクじゃないってことですね。ウチらが知ってるニンジャはとてつもなく、一番速かったですからね。だから、今だったらブラックバードぐらいの衝撃でしたからね。

BBC 空冷のギクシャクしたような車両から比べると、ものすごく洗練されたバイクでしたよね。なんてスムーズなんだと驚きました。

東本 エンジンもビックリしましたが、サスが良かったですよね。他のメーカーが同レベルの争いをしているときに、一人だけ先に出ちゃったでしょう。だから、ちょっとイヤでしたね(笑)。

BBC イヤでしたか(笑)。

東本 どこか欠点があればいいんだけど、なんか街中カジュアルで走ってもいいし、ツナギ着てもいいし、ツーリングもいいし。名前もちょっとうらやましかったですね。

BBC お話を聞いていて思ったんですが、一番速いバイクはイヤなんですか?

東本 そんなことはないですよ。そんなことはなくてですね・・・。

BBC 選択肢として最初から外してしまうようなところがあるんですか?

東本 その選択肢っていうのは自分が買う選択肢ですか? それともマンガのですか?

BBC そうですね、両方です。

東本 うーん、いいのかな、これ言っちゃって。あのー、どっか自分が踏ん切りつけたバイクじゃないとマンガに描かないんですよ。自分が大切にしているものは、ちょっと出しにくいっていうか。

BBC もっと具体的に言うと?

東本 基本がCBの最初のナナハンから始まっているから、CBのナナハンは世界のトップだったじゃないですか。そこからZ1が出てナンバー1になっちゃうと、『あれっ』って思いながらZ1に乗らないんですよ。ずっとCBに乗っちゃうんですよね。最終的にZ1とかZ2にCBが勝てなくなって、間をあけて跨ると『ああなるほど、これじゃ勝てないな』と思うんです。それまでは、自分の基準がCBなので、他のバイクっていうのは皆と楽しくやるためにはちょっと速めのほうが楽かなっていう感じだったんです。で、CBのK0から始まってどんどんカタナまでいって、これはキリがないってんで一旦やめてCBだけ乗ってたんです。そうしたら、それはそれで楽しくなさすぎるんで、なんか探してたら9Rが出るっていうのを聞いたんです。ちょうど40歳の私としてはああいうバイクを乗るのの境目だったんですよ。で、これは乗っておきたいなと。ラジアルタイヤのバイクに乗ったことがなかったですから。そういったことで9Rが全てにおいてちょっと革新的だったのと、ZZ-Rだとちょっと違うなと思ったのと、9Rがもうちょっと性能が良くてもっと速いんじゃないかと思っていたんです。そこらへんが、ナンバー1を買わなかった訳じゃなくて、9Rももしかしたら300km/h行くんじゃないかと思って買ったんですよ。だから、自分が大切にしているものは別にK0でいいんだけれども、マンガに描く場合はそれ以外も必要ですし。

BBC なるほど。

東本 例えば、今『ファイヤーブレードの話を描け』って言われてもちょっと描けないんですよ。納得する時間が無いじゃないですか。ファイヤーブレードとZZ-Rとの違いは乗ればわかるんですが、絵とか話で組み立てるには自分で納得していなければ敬遠しちゃうんです。ニンジャの場合には今は目が慣れたっていうのかな、あまり構えなくても乗れるんですよね。そこらへんが、自分の納得の仕方の好き嫌いなのかな。

BBC 路上において、ナンバー1のものに乗る時の心構えがなくて、もうちょっとフランクに乗れるということですか。

東本 いろいろと楽しめるんで、今はニンジャがスタンダードなのかなと。息も長いし。

BBC 自分の中での決着のつけかたと、マンガの中というのはイコールなんですか?

東本 いや、自分とマンガは全然違いますね。

BBC なるほど。カタナのときはどうだったんですか?

東本 カタナのマンガを描き始めたときも、もうオレは乗らないって思ったときからカタナ描いてるんですよ。

BBC カタナのマンガを描かれていた頃は、ニンジャをすごく敵視していらっしゃいましたよね。これでもかっていうぐらい。

東本 そうです。あのマンガの通りです。あれだけの差を見せつけられると。

BBC 許せなかったんですか?

東本 ウチらの世代ってモンスター信仰なので、排気量がでかくて大きければ一番だっていう世代なんですよ。峠でどうのこうのではなくて、でかけりゃいいっていう世代ですから。排気量の数字が少ないのにめちゃくちゃ速いっていうのは納得しないんですよ。あれは、カタナがいいなって思っているのが、ガラガラと音を立てて崩れていきましたからね。だから、あれはマンガに描いてある通りです。

BBC 今の主人公のマサキがニンジャに乗っているのも、同じような感じなんですか?

東本 いや、あれはストーリー性の理由が大きいですね。前のキリンという主人公が、当時最速のニンジャじゃなくてカタナでポルシェを追いかけたのと同じ設定を生み出すためには、ニンジャが妥当だろうと思ったんです。例えば、ブラックバードでGT-Rを追うっていうのはストーリー上ちょっと・・・。GT-Rよりも速くて安全性の高い車が出てくれば、公道での時代が変わってブラックバードぐらいの性能でってことになるんでしょうけど。今、ブラックバードでっていうんだったら、マンガ上そんなに手こずらないんじゃないかと思うんです。

当時の誌面。『新たなる「キリン」がニンジャに乗る理由』というタイトルだった。インタビューは当時の東本氏のスタジオで行なわれた。

ニンジャはバイクの一つの区切りだった

東本 ニンジャが出る前のバイクと、その後のバイクって明らかに違いますよね。

BBC ええ、そうですね。あそこはひとつの区切りでしたよね。

東本 カタナに乗ってて、VFシリーズも相当速かったじゃないですか。それでも『ああ、速いのね』ってまだ余裕があったんですよ。ニンジャはねぇ・・・。もう見たくもなかったですよ。カタナ乗りにとってのニンジャは、本当につらかったですよ。今はそのセンセーショナルさも薄れて、主人公が乗るにはちょうどいいかなって思ったんです。手を入れようと思ったら、手を入れただけ速くなる可能性があるでしょう?

BBC そうですね。実際速いニンジャもいますよね。

東本 今見ると(ニンジャは)スリムに見えますよね。

BBC そうですね。痩せすぎなくらい。

東本 あらためて見て、『ああ、こんなに細かったんだなって』。びっくりしますね。

BBC ニンジャは実は今でもお嫌いなんじゃないですか?

東本 いや、そんなことはないですよ。出た当時は大嫌いでしたよ。でも、カタナもそうだったんですから。

BBC 当時、あれも意見が真っ二つに別れましたからね。

東本 ドカのデスモぐらいだろうと思っていたんですよ。写真とかピンナップを見てね。月光仮面みたいだねとか言って。ところが本物を見たらぶっ飛んじゃって、こんなデカいバイクにこんな短いハンドルで乗っていいんだって。じゃあ欲しいってなったんです。

BBC なるほど。カタナにはそれだけのインパクトがありましたよね。

東本 それまではGSXのEが欲しくて、ずっとお金を貯めていたんです。でも、カタナの本物を見てどうしても欲しくなったんです。

BBC 最初はとりあえず嫌ってみると言うか、反骨精神みたいな感じでしょうか?

東本 いや、反骨精神というよりも、私の基本はCBナナハンなんでそこからズレないんですよ。全てのバイクがCBよりも速いとか、軽いとかっていう感じなんですよ。K1以降は音が静かになるでしょう? 例えば今度出たCBの1300にしたって、あの音は多分出ないでしょう。

BBC そうですね。国が認可しないでしょうから。絶対に。

東本 マンガで唯一、音の音量だけは描けないですからね。

BBC ただ、改造車の規制は最近緩くなってきてますよね。

東本 そうですよね。ニンジャの人気もその辺にあるんじゃないですか? ハンドル上げたり、集合に変えたりいろいろと遊べるようになったじゃないですか。そのへんの素材としてニンジャは魅力的ですよ。カタナなんて、ハンドル一本で狩られていたんですから。集合も狩られたし。

BBC これはやはり時代と言うべきでしょうか?

東本 そうですね。昔、『いつか300km/h出せるバイクが絶対に出る』って言ったら大笑いされましたからね。それが今は平気な顔をして走っている。そういう時代ですから。

BBC ニンジャはSRやカブに近い存在だと思っているんですよ。水冷並列4気筒の基本であって、永続するものじゃないかって思うんですよ。

東本 そのへんは、カワサキさんがどう思っているかで変わるんじゃないですかね。

BBC 売れるうちは出し続けると思うんですけれども、ヨーロッパではもうただの旧いバイクと思われている。あとはもう、日本市場だけの判断じゃないですか。

東本 私は乗る方ですからね。造って売るメーカーの方の考え方次第じゃないですかね。

BBC 実際、年間でまとまらないと造れないですからね。

東本 これはいつも思うんですが、どこでどうなるかは分からないんですが、もしSRであったりカブであったりしたいのであれば、バイク一台を文化にするかどうかの問題だと思いますよ。メーカーがもしそれを考えているのであれば、見た目はまったく同じでちょっとずつの質や精度の向上を考えれば長生きしていけると思うんですよ。フレームをZZ-R風にするとかそういうことではなく。そうすれば文化になっていくと思うんですよ。

BBC そうですね。ニンジャはそれだけの資質を持っていると思いますよ。カワサキの大根だと思いますよ。味噌汁にしてよし、おでんにしてよし・・・あんまり例えが良く無いですね。

東本 いやいや、大根でいいでしょう。

BBC ニンジャに乗っている方たちに、最後に何か一言お願いします。

東本 そうですね、長く楽しく乗ってください。

BBC お忙しいところ、どうもありがとうござました。

このインタビューが掲載されたのは1997年で、ちょうど「キリン」の第二部がヤングキング誌で連載されていた頃だ。

2時間ほどのインタビューにお付き合いいただいた後、当時東本氏がハマっていたというスノーボードの話題で盛り上がったことを思い出す。「キリン」の中にスノーボードのシーンが出てくるのは、そんなこともあってのことだろう。そして、第三部ガルーダ編で武道のシーンが出てきた時は、読みながらきっと東本氏がその頃武道にハマっていたのかなと思ったりもした。

東本氏の新作を読むことはもうできないが、「キリン」をはじめとする氏の著作の数々は、これからも多くのライダーたちが読み続けることだろう。

【追悼】ビッグバイククルージンNo.37「Ninja最速の血統」より、東本昌平氏インタビュー (3枚)

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