
クルマやバイクの工場といえば、ベルトコンベアの生産ラインで同じ製品が次々と流れる大量生産の現場を思い浮かべるだろう。フォードが確立したこの生産システムから100年を経て、ヤマハが全く異なる多品種少量生産をバイクでいち早く実現した。
全く異なるカテゴリーのモデルが同時に組み立て可能
ヤマハは世界で年間約480万台のバイクを生産している。日本ではそのうちの4%ほどの割合となるが、生産の効率化と高品質化を追求する役割がある。ヤマハは2021年からスマートファクトリーの構築に着手し、2023年にAGVバイパス方式の本社組立工場が完成した。
AGV(Automated Guided Vehicle)は無人搬送車のこと。バイクの作業台や部品を運ぶパレットがAGVとなって工場内を自走し、ベルトコンベアを撤去することに成功した。ラインの本数を絞りモデルによって異なる工程に迂回するバイパスラインの設定も容易となる。
AGVは1モデル分がセットで自走するので公開された動画ではWR450Fの次にTMAX560という異なるジャンルが混流。その時々の需要に合わせて様々なモデルを少しずつ生産する多品種少量生産が可能で、従来は1ロット40台以上だったのが今では1台からでも需要に応えられるのだ。
床に貼られた特殊なテープに沿って自走するAGVの導入で生産の自由度は大幅に向上し、迅速な納期や在庫コスト削減に貢献。ライバルのホンダは熊本製作所を2008年にリニューアルして生産能力を高めたが、ヤマハは一歩先を行く「スマートファクトリー」に進化を果たした。
9月のヤマハモーターサイクルデーで展示された車体を運ぶAGV。下の台が自走し工程によって高さを自在に調整できる。全長2400×幅1300×高さ400mmで135台が導入されている。
工場内でのAGV。この工程では中央部分で車体を保持している。右がWR450F、左がTMAX560で混流生産が行われているのが分かる。クルマではマツダが同方式を採用している。
ヤマハの本社工場は従来4つのラインが設定されており、カテゴリーの異なる車種を他のラインに混ぜるのは難しかった。現在は2本のラインがどのモデルにも対応する。
車体を運ぶAGVは工程によって車体の支え方や作業する高さ、向きを調整し、作業性を追求。部品を運ぶAGVが車体のAGVと一緒に移動するようになっている。
ラインをバイパスすることで作業工数の異なる様々なモデルに対応するバイパス方式を採用。YZ85からYZF-R1まで同じラインを使って多品種少量生産を可能としている。
前を行くTMAX560と違う方向に曲がっていくWR450F。バイパス方式によって異なるラインを設定しているのが分かる。工具は運ばれず自動で設定が変わるようになっている。
こちらはホンダのバイクを生産する熊本製作所。こちらも車体の台は高さを調整できるようになっているが部品も含めてラインは固定式だ。同じモデルを同時に流しているのが分かる。
この記事にいいねする