サスペンションのショーワ・ブランドなどを手掛ける日立アステモ(日立Astemo)が、2輪車用ADAS(先進運転支援システム)を開発中。自動車関連の技術展示会「人とくるまのテクノロジー展2024 YOKOHAMA(2024年5月22日〜24日・パシフィコ横浜)」で、ホンダ・CRF1100Lアフリカツインに搭載したシステムを披露しました。
衝突被害軽減ブレーキやACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)など、4輪車では普及が進むADASですが、バイクの搭載例はまだまだ少なく、機能も限定されているのが現状。そんな中、日立アステモが開発しているのは、コンパクトで低コストの小型カメラを使ったシステムです。
2028年に、東南アジア向けスクーター用ユニットが量産予定というこのシステム。まずは、前後の衝突警告機能の搭載を予定していますが、将来的には、大型バイクなど向けに、さまざまなADAS機能も開発中。なかには、いわゆる自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)も検討しているといいます。
では、実際に、日立アステモが開発している2輪車用ADASとはどんなものなのか? 会場で取材したので、主な内容を紹介します。

ADASとは?

ADAS、いわゆる先進運転支援システムは、カメラやレーダーなどのセンサー類を車体に装備し、それらの情報からアクセルやブレーキ、サスペンションなどを制御したり、運転者に危険を警告するなどで、安全性や快適性を向上するシステムのことです。

前述の通り、4輪車では普及が進んでおり、高速道路などで車間距離を保ちながら前車を自動で追従するACCや、先行車や歩行者を検知し、衝突するおそれがあるときにブレーキをかける衝突被害軽減ブレーキ(いわゆる自動ブレーキ)などが有名ですよね。

ほかにも、車線の中央を走るようにサポートする車線維持システムや、一時停止・進入禁止など道路標識を認識して運転者に注意を促す交通標識認識、アクセルの踏み間違いなどによる事故を低減する急アクセル抑制機能など、現在、4輪車には多様な機能が搭載されています。

コストが安く小型のカメラを採用するワケ

バイク向けには、搭載車や機能などがまだまだ少ないADAS。その背景には、4輪車と比べ、バイクの車体はかなりコンパクトなので、センサーやユニットなどを搭載するスペースが少ないという課題があります。また、あまり高度な機能を搭載すると、製造コストが高くなり、車両価格が跳ね上がってしまうというのも問題点です。

一方、日立アステモが開発中のADASでは、担当者によると「小型の単眼カメラを複数台搭載する」ことが特徴。これにより、高機能ながら、コストの高いステレオカメラやミリ波レーダーなどを使わなくても、同等の性能を発揮できるそうです。

ちなみに、単眼カメラとは、日常でよく目にする一般的なカメラのこと。例えば、4輪車の場合、バックするときに後方をセンターモニターに映し出すバックカメラといった、後方や側方の死角を補うビューカメラなどに使われています。

一方、ステレオカメラは、人間の眼のように2つのカメラで対象を測定し、より精度の高い距離測定などを可能とするもの。ADASだけでなく、4輪車で開発が進んでいる自動運転システムなどにも使われています。

もちろん、例えば、日産のミニバン「セレナ」に搭載しているADAS機能「プロパイロット2.0」では、単眼カメラを使用。高速道路などでのハンズオフ(一定条件下での手放し運転)も可能です。セレナの場合、ステレオカメラなしでも高い機能を持つので、単眼カメラと比較し、どちらに優劣があるのかは一概にいえないといえます。

でも、日立アステモの担当者が言うように、「単眼カメラの方が、バイクに搭載するには小型だし、コストも安い」のは確かでしょう。そこで、開発中のシステムでは、今回展示したCRF1100Lアフリカツインのように、フロントカウルに2つのカメラを採用。これに、ADAS専用のECU(電子制御コンピュータ)をマッチングすることで、ステレオカメラを使ったADASのような機能を持たせているそうです。

東南アジア向けに前後の衝突警告機能を予定

そんな日立アステモのADASは、まず、前述の通り、2028年に、東南アジア向けスクーターやコミューターなどに搭載されるユニットの量産が始まるといいます(搭載バイクのメーカーは非公開)。

なぜ東南アジア向けかというと、これも同社の担当者いわく、「バイク販売台数の伸びが著しい反面、事故も多い」ため。しかも、例えば、「平気で歩道を走るバイクがいるなど、マナーも悪い」らしく、交通環境は劣悪なのだとか。そこで、事故低減を目的に、ADASの開発を進めているのだといいます。

東南アジア向けバイクに搭載するADASMの機能は、例えば、前方認識。デモカーのCRF1100Lアフリカツインのように、フロント2か所にカメラを設置し、前車と衝突しそしそうなときにメーターなどにアラートを出す「衝突警報」や、車線をはみ出しそうなときの「逸脱警報」、標識や信号を認識して知らせる「標識認識」「信号認識」といった機能になるといいます。

また、後方にもカメラを付けることで、後方の死角から自分のバイクを追い越そうとするクルマを知らせる「死角検知」、急ブレーキなどで後方のクルマに衝突されそうなときに警告する「衝突警報」なども搭載が可能なのだとか。

いずれにしろ、元々の価格が安い小排気量のスクーターにADASを搭載するため、あまり車両価格を上げないようにするには、低コストなシステムが不可欠。そういった背景もあり、先述した低コストの小型カメラを使ったシステムを採用するのだそうです。

ちなみに、こうしたADAS機能は、まずは東南アジア向けとなりますが、国内モデルへの導入はあるのでしょうか? 例えば、最近の125ccや150ccのモデルなどには、海外で生産され、国内でも販売されているモデルも多いですよね。そうしたバイクにADASが搭載されれば、国内でも販売されそうです。

この点について、日立アステモの担当者は「可能性はあります」と言及。となれば、近い将来、ADAS付きスクーターなどが、日本の道路を走るシーンを見られるかもしれません。

上級バイク向けADASはより多機能に?

一方、CRF1100Lアフリカツインのような大型モデルなど、より排気量の大きい上級バイクには、どんなADAS機能を持たせるのでしょうか? これについては、ブレーキやエンジンなどのパワートレイン、サスペンションといった各部の電制デバイスと連携した機能を考えているようです。

例えば、カメラで検知した前車との車間距離を保つ「車間距離制御」、衝突の危険がある際に減速をサポートする「緊急時ブレーキアシスト」、標識の法定速度を自動で守る「車速制御」、バイクにとって危険な路面(凹凸など)がある際に警告する「路面検知」など、さらに多くの機能を開発中だといいます。

ただし、おそらく、4輪車に採用されている衝突被害軽減ブレーキのように、バイクでは完全停車は難しいのだそうです。理由は、バイクの場合、車両が自動で停車まで行うと、転倒の危険性があるため。

確かに、ライダーが意図していないのに、バイクが急に停車しまうと、最悪の場合は、体が前方に投げ出されてしまう可能性もあり、危険だといえます。このあたりは、どの程度の機能が必要なのかも含め、今後さまざまな実験や開発を行うことが予想されます。

実用化の時期も「中期」としか明言しておらず、具体的にいつになるのかは不明ですが、バイクの安全性向上のためには、ぜひ実現して欲しいものです。また、コスト面でも、今回のようなシステムを活用することで、ADASを搭載したらいきなり車両価格が高騰しないことを願いたいですね。

通信システムによる安全性の向上も検討

ほかにも、日立アステモでは、長期ビジョンとして、研究や開発が進んでいる車体などの姿勢制御技術の進化に合わせ、車載カメラの情報を加えることで、転倒防止など、より高度な機能を持たせることも考えているようです。

将来的な実用化が期待できる2輪姿勢制御技術には、例えば、ホンダの「ライディングアシスト」、ヤマハの「AMSAS(アムサス)」などがあります。

これらは、主に、渋滞や信号での発進・停止時など、バランスが取りづらい極低速走行時に、立ちゴケなどを防ぐことを目指して開発。いずれも、2輪姿勢制御に関する独自の技術を活用することで、不測の転倒や事故を防ぐバイクのシステムを開発しています。

つまり、日立アステモが開発中のADASでは、将来的にこうした機能とカメラの情報をマッチングさせることで、さらに進化したバイクを安定して走らせるための機能を考えているということですね。

また、V2Xを活用した安全システムの構築も検討しているといいます。V2Xとは、「Vehicle to X」の略で、通信機器の装備により、車両とさまざまなモノとの間の通信や連携を行う技術を意味します。

これについては、4輪車とバイク、それに信号などインフラに装備された交通監視カメラなどが、それぞれに通信でつながることで、右直事故などを低減する効果が考えられます。

たとえば、右折待ちする4輪車ドライバーに、直進するクルマの直後を走り、存在を気づきにくいバイクを知らせる機能などが考えられています。

ちなみに、こうしたシステムについては、ホンダ、ヤマハ、スズキ、BMWモトラッド、KTMなど日欧の2輪メーカーなどで構成するCMC(Connected Motorcycle Consortium)というコンソーシアムでも、大学や交通安全研究機関などと共同で研究開発を進めています。日立アステモでも、こうした活動を視野に入れながら、より安全なバイク環境の構築を進めていくのかもしれませんね。

ともあれ、課題も多く、普及がなかなか進まない2輪車のADASですが、死亡事故などの低減に向け、できるだけ早期の実用化を期待したいものです。

低コストの2輪ADASを日立アステモが開発! ギャラリーへ (14枚)

この記事にいいねする


コメントを残す

ホンダ CRF1100L アフリカツインの価格情報

ホンダ CRF1100L アフリカツイン

ホンダ CRF1100L アフリカツイン

新車 20

価格種別

中古車 2

本体

価格帯 163.9~174.9万円

169.95万円

諸費用

価格帯 5.36~5.9万円

5.08万円

本体価格

諸費用

本体

139.84万円

価格帯 99.88~179.8万円

諸費用

8.84万円

価格帯 7.87~9.81万円


乗り出し価格

価格帯 169.26~180.8万円

175.03万円

新車を探す

乗り出し価格


乗り出し価格

148.68万円

価格帯 109.69~187.67万円

中古車を探す

!価格は全国平均値(税込)です。

新車・中古車を探す