黄色だ。いや赤だ。
きちんと止まった。いや止まっていない。

警察官の現認、判断で違反を告知されたけど納得いかなかったので青切符へのサインと反則金支払いを拒否。その後の刑事裁判で無罪が確定したとします。この場合、違反点数はどうなるのでしょうか?

バイク歴38年を数える私、行政書士ライダーが解説いたします。

まずは基本の反則通告制度から

 

たとえばバイクの信号無視で警察の取り締まりを受けても逮捕されることはまずないですよね。でも、信号無視も道交法違反(同法第7条)であり犯罪であることは間違いありません。

しかも、罰則は意外に重く「3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金」です。

ですが、交通違反は件数も膨大で強盗や詐欺などの一般の刑法犯罪と比べると軽微なものが多いため、それらと同じように『逮捕→起訴→裁判』の刑事手続きに乗せるのはマンパワー的にも現実的ではありません。

そこで交通違反を迅速に処理しつつ違反を抑制するための制度として『反則通告制度』が運用されています。

交通反則通告制度は、運転者が反則行為(比較的軽微な道路交通法違反行為)をした場合、一定期間内に反則金を納めると、刑事裁判や家庭裁判所の審判を受けないで事件が処理されるという制度です。

現場で違反を告知された運転者には2つの選択肢があります。

一つは違反を認めその場で青切符にサインし同時に交付される反則金納付書で期限内に反則金(刑罰としての罰金と混同されがちですが両者は全然違います)を納付。

そうすれば刑事手続きに移行せずそれで手続きは終了です。

もう一つの選択肢はサイン拒否。

サインを拒否すると道交法違反による刑事手続きに移行します。サインを拒否し刑事手続きを選ぶか違反を認めてサインし反則通告制度で終わらせるかは運転者が自由に選択できます。

ただしその結果、起訴され刑事裁判で有罪が確定すれば前科がつくことをお忘れなく。

ちなみに司法統計(2021年)によれば、第1審での無罪率は0.2%ですのでご留意ください。

刑事責任と行政責任

運転者は刑事上の責任と行政上の責任を担っていて、その2つはそれぞれ別の制度ということを教習所で習われたかと思います。(さらに民事上の責任もあります)

刑事上の責任については前述の通りですが、交通違反にはそれとは別に点数制度がありますよね。

違反の種類別に点数が決められており違反者には点数がカウントされます。そして、その点数が基準に達すると免許停止や最悪免許取消しになることはご存じですよね。

これらは公安委員会(≒警察)という行政機関が行う処分なので、刑罰ではなく行政処分と言います。

とはいえ、免許停止や取消しの方が罰金や反則金よりも辛いという方も多いのではないでしょうか。

このように行政処分は一般市民に多大な不利益をもたらすため、不利益処分に対しては不服申し立ての制度が用意されています。(後述します)

違反点数はどうか?

交通違反を警察官が現認した場合は、たとえサインを拒否(=刑事手続きを選択)しても警察官が現認している以上、それに構わず点数処理をされてしまうのが普通です。

でも、その後の裁判で無罪になったら当然点数も連動して消えるはずと思ってませんか?

実は僕も以前はそう思っていました。しかし、残念ながらそれは違います。

刑事責任と行政責任はあくまで別の制度なので、無罪の確定など刑事責任は問われなくても点数カウントという行政責任は問われる、ということはあり得ますし両者は連動しません。

連動しないのは仕方ないとしても、無罪になったことを警察に報告して点数を消してもらえばいいでしょ?

残念ながらそれも基本的には無理。そのような手続きの仕組みがそもそもないからです。

ただし、警察署等から点数を担当している部署に対し一旦カウントされた点数を抹消してもらうように伝達する手続き(抹消上申というらしいです)は存在するようです。抹消上申については興味のある方は『違反点数 抹消上申』でググってみて下さい。

ところが、この手続きは何らかの理由で点数を抹消すると警察自ら判断した場合にするあくまで内部手続き。

無罪を理由に当然に抹消を要求できる手続きではありません。

注目を集めた『譲られても歩行者妨害?』事件

 

引用元:弁護士ドットコムニュース https://www.bengo4.com/c_1009/n_14793/

 

横断歩道を渡ろうとしている歩行者が一旦停止した運転者に対し「先に行って」と譲る意思を明確に示したのでそれを確認した上で発進した映像記録が残っているのに違反処理され点数もカウントされたという事件。

世間の注目を集めた事件なのでネット上にもたくさん取り上げられています。覚えておられる方も多いのではないでしょうか?

この事件はかなり大きく報道され猛烈な世間の批判を浴びたせいか、結果的に警察が謝罪。違反処理を取消し点数も抹消されました。

下のⅩ(旧ツイッター)の投稿が一度切られた青キップを撤回する実際の是正通知書です。

ただし、この事例はサインを拒否し裁判で無罪を勝ち取ったモノではありません。

『外圧の影響?』とはいえ、最終的には警察が自ら抹消処理を決断した事例であることはリンクが示す通りです。

では、違反者本人など外部の者が「抹消せよ」と警察に対して要請する手続きはあるのでしょうか?

残念ながら『ない』が結論です。

違反点数と行政処分

突然ですが、保健所が飲食店に対し『営業停止命令』を出したというニュースを聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。

この命令も不利益な行政処分の一種。免停などと同様、市民が不利益な行政処分を受けた場合、行政機関や裁判所に対して「処分を取消せ」と不服を申し立てる制度があります。

行政機関に対するものが行政不服審査、裁判所に対するものが行政訴訟です。

ところが、次の理由によりその両制度は点数については使えないとされているのです。

打つ手がない訳では…

難しい理屈は省略しますが、点数のカウントそれ自体は行政上の手続きの一種ではあるものの不利益な行政処分には該当しないとされています。

一方、行政不服審査も行政訴訟も不利益処分に対抗する制度。

その結果、処分ではない点数のカウントそれ自体の抹消を違反者側から求める方法は事実上封じられています。

先ほどのように警察自ら抹消を決断すれば別ですが…。

と、ここまでお読みいただいて諦めそうになったそこのあなた。ちょっと待って下さい。

打つ手が全くない訳ではありません。

先ほど点数それ自体は行政処分ではないから抹消せよと言う方法はないと言いましたよね。

勘の良い読者の方はもうお気付きかもしれませんが、点数カウントによって行政処分がなされた場合はどうか?

はい、その通り。

免停や更新時にゴールドからブルーになるといった行政処分があったものの、あの点数さえなかったら処分されずに済んだという場合。

こちらも難しい理屈は省略しますが、これらの場合は行政処分を理由に行政不服審査や行政裁判が可能です。その中で納得いかない違反点数を争うのです。

ただし、勝てるかどうかは別。

いや、別どころか警察官の現認には強い証拠能力が認められているため明確で強力な証拠がなければ勝つのは至難の業というのが実際のようです。

また、行政不服審査や行政裁判は一般の方がひとりで戦うにはハードルが高いと言われており、そのため弁護士に依頼する方がベター。

そうなると2桁~3桁万円レベルの出費だけでなく、かなりの時間や労力が必要になるでしょう。

以上の理由により警察官による違反告知が明らかに不当で、しかもクリアなドラレコ映像などの強力な証拠がある場合を除きサイン拒否はおススメできない、というのが筆者の立場です。

ただし、一つだけ確実に言えることはどちらを選ぶかは運転者の自由だという点。

その時どちらを選ぶかはあなた次第です。

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コメント一覧
  1. 匿名 より:

    行政書士ライダーの話は陰気なものばかりで,うんざりする。
    バイクライフがもっと楽しくなるような,明るいテーマはないの?

  2. 学ぶ姿勢 より:

    行政書士ライダーさんの記事は制度を客観的に紹介してくれるので大変勉強になります!
    バイク・クルマを楽しむうえで必要な知識ばかりなので、今後もよろしくお願いします!

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