クラッチレバーを「使う/使わない」を常に選べる世界初の技術がホンダE-クラッチ。なんと10年もの歳月を要し、ギリギリの開発でついに市販化されるに至った。小型軽量化の切り札となったのが、なんと「アシモ」の技術だったという! インタビューから浮き彫りになった苦節の開発ストーリーをお届けしよう。

発進から停止までレバー不要、でも瞬時にマニュアル操作もできる!

クラッチレバーを備えながら、使っても使わなくてもOK。そんな世界初の技術がホンダ「E-クラッチ」だ。発進から半クラッチ、停止までレバーを握らなくて済み、いざレバーを使いたい時は瞬時にマニュアル操作に移行できる。ラクチンながら、操る楽しさを一切損なわないシステムだ。

2024年型のCB650R/CBR650Rに搭載され、国内仕様も登場する見込み。既存エンジンへの搭載も可能で、今後はさらに採用拡大が見込まれる。※詳細は別記事を参照。

都内で行われたプレス向け発表会で開発陣にインタビューを実施。社内の反対という“逆風”の中、「コストも重量もスペースも半分」を達成し、市販化に至ったエンジニア達のアツい思いを聞くことができた──。

マニュアルでもっと色んなことができる、源流にはSR400が?

「SR400は全ての操作を基本的に自分でやる必要があります。そんなところは今回のE-クラッチに繋がっている部分はあるかもしれないですね」と話すのは、E-クラッチ開発責任者の小野氏だ。愛車は2005年式SR400。大学生の時に購入し、今も通勤に使っている。SRはクラッチが重く、キックスタートしかない。そんなアナログなバイクを愛する気持ちがE-クラッチの根底にあるようだ。

小野氏はDN-01に搭載されたHFTのような新しい二輪駆動システムの開発を希望し、2009年に入社。二輪駆動系の先行研究に配属され、やがて開発責任者を務めるようになった。

E-クラッチの開発がスタートしたのは2014年頃。2011年に登場したバイク用のDCT(デュアルクラッチトランスミッション)がようやく普及し始めた頃だ。しかしDCTは搭載機種が大型のみ。クラッチレバーの操作が要らないシステムの搭載機種を広げ、「マニュアルミッションでもっと色んなことができるんじゃないか」との要求から、最終的にたどり着いたのがEクラッチだった。

「DCTはエンジンのオイルポンプを回して、その発生した油圧でクラッチをコントロールする機構があるので、どうしても重さやロスが発生します。そういう部分を払拭して、もっとマニュアルトランスミッションに適用できないかみたいなところを考えていきました」(小野氏)

DCTはオートマが主な機能だが、E-クラッチはクラッチをコントロールして、より様々な操作が可能なのがポイントだ。

「コスト、重量、大きさを半分」という無理難題が!

しかし、社内からは反対の声も多かった。現在、DCTとマニュアルが併売されるモデルでは、DCT仕様を選ぶユーザーが60%にまで達している。しかしE-クラッチの開発が始まった2014年当時はなかなか普及せず、販売の割合は20~25%に留まっていた。

大型モーターサイクルの事業企画を担当する坂本氏は「当時、大型バイクの購入中心層がブーマー層と言われる、現在60歳超えたお客様が多く、“五感で全身を使って楽しむスポーツ”をバイクに求める時代でした」と話す。

DCTもかなり普及に苦労し、“クラッチレバーの操作なしでスポーツが楽しめる”提案をした時点で、なかなか社内の理解が得られなかったという。

当初から試作版が存在し、初期の段階ではリヤシートに載せるほど大きく、重かった。ただ社内でも乗った人からの評判は良好だったそう。坂本氏自身も「試作車に乗せてもらった時、“これはいける”と思いました」と語る。

しかしセールスが見込めるか判断が下されず、2020年代に入ってもゴーサインが出ないまま開発が継続された。そして、ついに上層部からゴーサインの指示が。

「ただし“コストも重量もスペースも半分に”という指示がありました。今思えば“もう諦めろよ”っていう意味だったのかもしれないです」坂本氏は笑う。

市販化に向けて動き出した背景として、近年バイクを購入する中心層がジェネレーションY(1980年代~2000年代初頭に生まれた世代)にかなり置き換わってきたことがあるという。つまりイージーな操作も受け入れるライダー層が増えたということだ。また、長く開発を続け、社内で試乗会を続けるうちに応援や後押ししてくれるメンバーも 増えていった。

このタイミングを逃せば、次のチャンスはないかもしれない。しかし量産までの期間は非常に限られている……。そこで「非常に短期間で市販版の開発を進めました。せっかくバッターボックスに立ってボールが来たけど、振るのが間に合わない事態は避けたい。そこに間に合わせるのは非常に苦労でした」(小野氏)。

アシモのモーター制御技術がシステムの軽量小型化と簡素化に貢献!

それにしても「コスト、重量、スペースを半分」にすることは並大抵ではない。重量と大きさに関して、大きな転換点となったのが「ホンダロボティクスのエッセンス」だ。システム構成やアクチュエータの制御に、ホンダが培ってきたアシモに代表されるヒューマノイドロボの技術が大いに役立っている。

E-クラッチは、まずモーターがあり、リダクションギヤ、最後にエンジン側のクラッチレバーを回す構成。油圧でクラッチを制御するDCTとシステムが全く異なり、モーターでダイレクトにコントロールを行うため、制御の仕方が大きく違う。

「何かをモーターで制御する技術はロボティクスと基本的には同様。精密な位置の制御であったり、人間と接触する時に力をうまくコントロールしたりといった所がロボティクス技術の基本です。

E-クラッチにはモーターからクラッチまでに様々なフリクションがありますが、ロボティクス技術を応用することで、予測したり学習したりして上手くコントロールすることが可能になりました」(小野氏)

これによってシステムの小型軽量化、簡素化を実現できたという。

社内の反対もあったが、タイ生産でコストを削減

技術面はクリアできても、コスト面のハードルは高かった。

E-クラッチの制御設計プロジェクトリーダーである竜崎氏は、クラッチを制御するモーターコントロールユニット(MCU)を主に担当。

コストを下げるため、今まであまり付き合いのないサプライヤーと協力。コントロールユニットには高度なソフトウェアを膨大に用いるが、新たなサプライヤーのため、今までの資産が生かせない。また、コントロールユニットの電子基盤を新設計する必要もあった。

「上司からも反対されるぐらいの開発スパンの中でやってきたので、かなりプレッシャーがありました」と竜崎氏。また、全くのブランニューではない既存の車両に適合させる難しさもあったという。

MCUは別体式で、タンク下の樹脂製トレーにエンジンコントロールユニット(ECU)と一緒に搭載されている。大きさは名刺より少し大型で、最も厚い部分で3cm程度という。

駆動系研究プロジェクトリーダーの伊東さんも「日程が厳しかった」と話す。上記の新しいサプライヤーのほか、生産がタイ工場だったことも要因。交渉や日程の調整に苦心し、「誰かが拾いきれない分を誰かがカバーする感じで、よく取りこぼさなかったなと思います。毎週もう無理だと言ってました」と話す。

また、これまでホンダは新機構に関しては日本発信がセオリーだったため、社内からタイ生産に対する反対意見も。ただし「タイでなければコストを下げるのは難しかった」(伊東氏)。

CBR650R/CB650Rはタイから部品を運び、日本の熊本工場で組み立てるノックダウン方式で生産。E-クラッチのユニットもタイホンダで保証したものを改めて日本で完成車確認するという。

さらなる小型化や、電脳との連携で性能アップも?

こうして2023年11月、欧州のショーでE-クラッチは正式発表される運びとなった。

しかし今のシステムに近い形となったのはかなり最近という。
「たくさん社内で試乗会を行い、最終的にはヨーロッパに持ち込んだりして、味方をどんどん増やしていき、最後は押し込んでゴールしたみたいな。まさに出せる時が来たことで、開発陣には苦労や申し訳ない思いをさせたなと思います。でも諦めずに10年も世の中に日の目を見ることないままやり続けてくれました」(坂本氏)

大きさ、重さ、コスト……様々な課題を乗り越え、ようやく実現したE-クラッチ。それだけに今後さらなる搭載車種の拡大が期待される。今後の展望に関して小野氏に尋ねてみた。

「私の希望だけで言うのであれば、エンジンにもっとフィットできるようなシステムをつくりたい。今のE-クラッチは既存のエンジンに搭載する形ですけど、最初から搭載することを前提にした場合、うまくやれる部分があると考えています」

例えば、専用設計によってさらに小型化できる可能性もあるという。またIMU(慣性センサー)などの電子デバイスを多数搭載する1000ccスーパースポーツでは、電脳と協調することで、より性能を高められると話す。

なお、油圧クラッチの場合、構造が異なるので、システムの変更が必要になるようだ。

ちなみに耐久性に関してはマニュアルクラッチと同等。既にユーザーが使用している車両に関しても後付けできる可能性があるというから夢が広がる。

――世界初技術の実現に向け、エンジニア達の執念にも似たアツい話が訊けた今回のインタビュー。既に何度も乗っている開発陣は「マニュアルクラッチの楽しさを何一つ損なっていない」と自信を見せる。E-クラッチを実際に試せる日が俄然、楽しみになってきた。

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