
1990年代に国内外のロードレースでその名を轟かせた青木三兄弟の次男、青木拓磨氏。全日本で王座に輝いた後、世界グランプリの500ccクラスにステップアップし、これからという時に1998年のテスト中の事故で下半身の自由が効かない身体になってしまいました。
その後4輪レースへ転向し、最近ではル・マン24時間耐久レースにも参戦。また、ハンドシフトのバイクでサーキット走行を楽しむなど、2輪での活躍も再び注目されています。この連載では、青木拓磨さんの今でも溢れ続けるモータースポーツへの情熱を語ってもらいます!
「青木拓磨のモータスポーツライフ」前回はコチラから!
まだまだ日本であまり知られていないトライクの魅力
ちょっと前の話になりますが、冒険家でパリダカなどに参戦をしてきた風間深志さんに誘われて、石川県の千里浜まで気ままなツーリングをしてきました。実は初めてのロングツーリングでした。今までツーリングって100kmとか150kmくらいのもの、2~3時間で終了する、全行程を合わせても半日ちょっとくらいのショートトリップですね。そんなツーリング(とも呼べないかもしれませんね)しかしたことはなかったわけです。
風間さんが「拓磨おいでよ」と誘っていただいたおかげで、「じゃ、いこう」ってことになりました。今回その旅のお供となってもらったのが、BRP Can-Am RYKER RALLY(カンナムライカ―ラリー)です。小型ジェット機などの製造でも知られるボンバルディア社のレクリエーショナル車両部門から独立したボンバルディア・レクリエーショナルプロダクツ(BRP)が製造する3輪モーターサイクルです。
カンナムはフロント2輪、リア1輪のトライク(細かく言うとリバーストライク)と呼ばれる3輪車両です。トライクといえば 古くはオート三輪からあり、歴史もあるわけですが、これ、実に微妙な分類だったりします。バイクやクルマって、運転免許の区分(道路交通法)、そして道路運送車両法の2つの制度によって分けられていますが、カンナムの場合、運転免許区分はクルマという立ち位置です。でも道路運送車両法では「側車付き自動二輪」となりバイクと同じ扱いになります。つまり普通免許でヘルメット不要で乗れますが、高速道路はバイク料金ですし、車検証上はバイクだからフェリーの料金ももちろんバイクと同じ料金です。まさにバイクとクルマのいいとこどりをしているのが、トライクの魅力とも言えますね。
で、今回のカンナムは、通常フットブレーキしかないモデルですが、そのブレーキを右手ハンドル側に移植してもらって足が不自由な方でも乗れるような仕様にしてもらいました。さらに、横浜にある「LIRICA(リリカ)」というショップがリリースしている車いすを乗せられるアタッチメントを使用させてもらいました。使い勝手もいいし、ひとりで積み下ろしもできるし、これならソロでツーリングにも行けますね。もちろん、もっと手を加えていけば、さらに快適な一台になりそうな予感です。

今回の旅のお供をしてもらったのはBRP Can-Am RYKER RALLY(カンナムライカ―ラリー)。フットブレーキをハンドル側に移設し、下半身での操作を不要とした仕様です。ライカーラリーに車いすアタッチメントを装着したので、車いすから移乗し、その車いすをバイクに載せて一人で旅ができるようになっています。
「いきなり大丈夫か? オレ!?」
車いす生活になって、まさか自分がバイクみたいな乗りもので、街中であったり、首都高速を走れるなんて夢にも思わなかったです。カンナムに乗ると、オープンカーとも違う、何とも言えぬ開放感がありました。上を見上げれば空が見えるってことはオープンカーでもできますが、囲まれている中で天井を開けているのと違って、全然解放感が違いますし、操っている感じはバイクだし、ミスしたら転んでしまうっていう軽い緊張感もあるし、それがすごく面白いし、わくわくするバイクに久しぶりに出会えたな、と思っています。
で、今回はカンナムで実際に500km、初めてのロングツーリングとなりました。「いきなり、そんなロング、大丈夫か? オレ!?」状態です。6時間以上バイクに乗っているわけですし、途中では雨、晴、風と天気の変更にも遭いました。道中、タイヤはパンクするわ、携帯落っことすわ、実にさまざまなことがありました。
パンクをしたのは、車いすのタイヤのほうです。トイレに立ち寄った際に突然のパンクです。その日は土曜日だったこともあり、車いす用のタイヤを仕入れることができません。そこで某自転車チェーン店に駆け込み、24インチのママチャリ用のタイヤをつけて、なんとか、その週末は乗り切りました。
また、スマホをナビとして使用していましたが、千里浜を目指すツーリングの後半、金沢森本インター近くで運悪くホルダーからスマホが落下してしまいました。目を離していたタイミングで、まさに「えっ」という瞬間でした。画面も割れてるだろうし、カメラも粉々だろう、と思いましたが、データだけでもなんとか回収したい、という思いで引き返しました。目を皿のようにして反対車線から探しながら引き返してみると、まさに道路わきに落ちているのを奇跡の発見。そのルートをもう一度走行して無事に回収できました。
長距離ツーリングって色々なことが起こるんだなぁ、と改めて実感しました。でもこういった思いもよらない出来事が発生するからこそ楽しいし、これこそツーリングの醍醐味なんだ、と、ロングツーリングにはまってしまいそうな自分がいます。

片道500kmの旅ですから、いろんなことがあります。ケータイを落としたり、車いすがパンクしたり。でもそういったトラブルも旅の楽しさのひとつ、ですよね。
参考URL
青木拓磨のモータースポーツチャンネル
(https://www.youtube.com/channel/UC6tlPEn5s0OrMCCch-4UCRQ)
takuma-gp
(http://rentai.takuma-gp.com/)
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