
9月9日に開催されるウェビックフェスティバルで「飛燕」の実物大レプリカを初公開するドレミコレクションの武浩(たけ ひろし)社長。2017年に「飛燕」の実機をヤフーオークションで落札し、今回レプリカを初公開するに至る経緯はいったいどんなものだったのか。
写真:ドレミコレクション目次
「本気で落札する気はなかった」
「そもそも落札する気なんてなかったんです。日本人の方が仲介していて、有名な実業家の方が落とそうとしていると聞いていたので、競ってまで欲しいとは思わなかったんですよね」と話を切り出した武氏。結果的に1500万円で「飛燕」を落札して当時大きな話題になったことは記憶に新しい。一体何が起きたのだろうか?
「オークション終了日にパソコンの前に座って画面を眺めていたのですが、誰も入札する気配がない。それでも買う気はなかったのですが、残り1分になってポチっと押してしまったんですね」。武氏としてはその後誰かが入札すると考えていたそうだが、そのまま落札者になってしまった。
そこからが大変。事前に準備もなく落札してしまったため、倉庫にあった50台ほどのZ1やパーツを売りに出して資金調達に奔走。これが1週間ほどで処分できて、保管場所も確保できた。「古いバイクがなくなり、今度は飛行機の残骸と入れ替わりました」というドタバタのスタートになった。

1500万円で落札した「飛燕」キ61-I甲のエンジン部分と武浩氏。武氏が跨っているのはこの落札のきっかけとなったZ900RS改(詳細は後述)。右は「飛燕」と同じカワサキ製のZ1だ。
アメリカでの出会いから約30年、「運命なのかなと思いました」
「落札する気はなかった」と言うが、武氏がヤフーオークションで入札ボタンをクリックしたのにはそれだけの理由があった。武氏は落札したことを「運命なのかなと思いました」と振り返ったが、そこに至る経緯を聞くと、運命のめぐり合わせと言うべきストーリーがあった。
大学を辞め、サラリーマン時代に通っていた倉敷の喫茶店「ドレミ」からのれん分けをしてもらい開業した武氏は、店に愛車の750SS H2とZ1000MKIIを置いていた。すぐにバイク好きが集まるようになり、1987年にバイク店「ドレミコレクション」に転換した。
旧車専門店と言えば欧州車が主だった時代に、武氏はいち早くカワサキZ1などの国産車の旧車販売に乗り出した。ほどなくして武氏はアメリカへ直接車両の買い付けに行くようになり、日本人バイヤーとして道を切り開く。そこで出会ったのが「飛燕」だった。
トラックでアメリカ中を走り回っていた際に立ち寄った航空博物館で、武氏は飾られていた日章旗をあざ笑う若者を咎めようとした。そこで老人に呼び止められ「彼らの無礼を許してくれ。代わりにいいもの見せるからついておいで」と案内された工房に「飛燕」があったのだ。

1988年、23歳の時にアメリカで立ち寄った博物館で出会った老人との一枚。古い飛行機をレストアする人たちをみて「こういう仕事がしたい」と強く思うようになった。
カワサキにも認められ再び「飛燕」に原点回帰
老人は博物館の館長だった。「Do you know?(この戦闘機を知っているか?)」と聞かれ「もちろん!」と答えた武氏。工房ではイングリッシュローラーでボディを成形しており、「レストアしてTony(連合軍による飛燕のコードネーム)を飛ばすんだ」と館長は話してくれた。
この出会いが武氏の道を決定づけた。元々カワサキ好きだった武氏の趣味が使命に変化し、カワサキ車のレストアが生業となったのだ。1995年の阪神淡路大震災以降は純正パーツが欠品するようになり、ドレミコレクションはリビルトパーツの生産にも乗り出している。
複数の金型を必要とするZ1の4本出しマフラーを復刻するなど、現在ではZ1をほぼ新車レベルに復元できるほどパーツ点数は拡大。ドレミコレクションは旧車ブームをリードする存在になった。この成功から再び「飛燕」に回帰したのはZ900RSのデビューがきっかけだった。
2017年の東京モーターショーでドレミコレクションはカワサキとコラボしZ900RSカスタマイズ車を出品。「水冷のZ1」にマークをデザインしようと考えた時に武氏が思い浮かべたのが「液冷の飛燕」が活躍した244戦隊のマークだった。これをネットで調べるうちにヤフオクの出品物に遭遇したのだ。

「飛燕」が活躍した244戦隊の部隊章を参考にしたマークを尾翼に見立てたZ900RS改のテールカウルに配置。244戦隊は首都圏防衛の任務を主とし、B-29の迎撃に活躍した。

2017年10月の東京モーターショー、Z900RSが初公開された日にカワサキブースに展示されたドレミコレクションのZ900RS改は、同社製の4本出しマフラーを装着してZ1ルックに。カワサキがドレミを認めた瞬間でもある。
「ピカピカの機体で当時を思い出して欲しい」
「まさか、あの時の飛燕!?」と思いアメリカで出会った「飛燕」を調べると現在はニュージーランドでレストア待ちの状況だった。だが、武氏が落札した「飛燕」はその僚機である可能性が高いという。これにも武氏は「運命を感じた」という。
そして、機体がドレミコレクションに届くと近所は大騒ぎとなり、「会社の前は見物する車で大渋滞。飛燕の組み立て工員や部品を作っていた方、そのご家族もやってきて、“よくぞ取り返してくれた!”とみなさん見るだけで元気になって下さいました」と武氏は振り返る。
この時「生産当時のピカピカの機体を見せたい」という思いが武氏に芽生えた。余命が長くない方々のために早くレストアする方法を調べたところ、武氏の地元である水戸(しかも友人宅の前)に、鶉野(うずらの)飛行場跡に展示されている「紫電改」の実物大レプリカを製作した会社があることを知った。
そこから実機はそのままにレプリカと一緒に展示することにし、「紫電改」を製作した齋藤裕行氏に製作を依頼した。これがついに完成し9月9日にウェビックフェスティバルで晴れてライダーに公開されるが、齋藤氏の日本立体は会場の茨城空港までわずか10kmほどの目と鼻の距離。この偶然も武氏の持つ運命の強い導きかも知れない。
※天候不良の場合は展示を見送る場合があります。

3月に執り行われた「飛燕」の鋲打式。武氏は落札費、レプリカ製作費を含め億に迫る資金を投じて浅口市に飛燕の展示場を建設中。奥様は「本来は国がやるべき良い行い」と認めてくれているそうだ。
ドレミコレクション武社長のトークショー開催!
ドレミコレクションの「飛燕」実物大レプリカが初公開される9月9日のウェビックフェスティバルでは、武氏の「飛燕」ステージトークショーが開催される。時間は10:30~11:00を予定しているので、ぜひ「日本一のカワサキバカ(自称)」の熱い想いを直接聞いて欲しい。

完成に近づくドレミコレクションと日本立体による「飛燕」キ61-I甲の複製プロジェクト。実機とともに実物大レプリカが語り部となり、戦争の歴史を後世に伝えていく。

完成に近づくドレミコレクションと日本立体による「飛燕」キ61-I甲の複製プロジェクトの実物大レプリカ。9月9日のウェビックフェスティバルで茨城空港に展示される。
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