
1990年代に国内外のロードレースでその名を轟かせた青木三兄弟の次男、青木拓磨氏。全日本で王座に輝いた後、世界グランプリの500ccクラスにステップアップし、これからという時に1998年のテスト中の事故で下半身の自由が効かない身体になってしまいました。
その後4輪レースへ転向し、最近ではル・マン24時間耐久レース、そしてアジアクロスカントリーラリーにも参戦。ハンドシフトのバイクでサーキット走行を楽しむなど、2輪での活躍も再び注目されています。この連載では、青木拓磨さんの今でも溢れ続けるモータースポーツへの情熱を語ってもらいます!
「青木拓磨のモータスポーツライフ」前回まではコチラから!
「レン耐」も19年目に突入して絶好調
みなさん、こんにちは。青木拓磨です。今回は僕が主宰している「Let’s レン耐!」のことを書いてみようと思います。このサイトのファンの皆さんなら、よくご存じの方も多いと思います。「レン耐」はその名の通り、レンタルバイクを使用した耐久レースです。バイクだけではなく、革スーツやグローブ、ツナギ等の装具もレンタルが可能となっており、レース仲間を誘うのもありですし、レースなんてしたことがないという初心者でも気軽に参加できるレースです。また、レースの内容も、決して目をサンカクにして速さを競うものでもありません。速く走った人ではなく、いかにこのレースで楽しんだか、を競うレースです。
レースの途中には順位が大きく変動するハンデがつけられたり、チームの平均体重により最低ピット回数が決まっている上に、ピットインの際には数回に一度ミニゲームが課されたり、仲間とワイワイと楽しくレースをエンジョイできればという趣旨で行っています。またできるだけ皆さんの都合に合わせ、いつでも参戦ができるよう、2023年は東日本では27回、西日本では9回の年間36戦を予定しております。また、いきなりレースは怖いという方のために練習会も用意しています。
このレースに、昨年末から参戦しているチームがあります。「チームSSP(サイドスタンドプロジェクト)」というチームで、障害のあるパラモトライダーでチームを編成されています。チーム名からわかるかもしれませんが、弟の治親が代表理事として活動している一般社団法人SSP(サイドスタンドプロジェクト)がそのきっかけとなりました。
SSPの主たる活動として展開をしている「パラモトライダー体験走行会」は「障がい者にもバイクの楽しさを」と、事故や先天性の障がいによってバイクに乗れなくなった方々に、バイクに乗ってもらおうという活動です。この場を通して、障がいを持ちながらもバイクに接し、そしてさらにステップアップをしていこうとするメンバーによりチームが結成されました。それもパラモトライダーだけではなく、「パラモトライダー体験走行会」を支えているボランティアスタッフからも「しレースに出るなら手伝うよ」とサポートを申し出るメンバーも現れ、「一緒にレースに出よう」という話が盛り上がりました。
僕もSSP専属パラモトライダーとし、弟の活動には関わっていますが、その現場でメンバーたちから「Let‘s レン耐!」に参戦をしたいという申し出を受け、エントリーを受理。昨年末から彼らも積極的に参戦をしてくれています。

昨年12月に開催されたレン耐ハルナ4時間耐久レースに初挑戦。その後、2月の筑波4時間、3月の明智4時間、4月と5月のハルナ150分と、これまで5戦を戦い、3月の明智戦ではクラス優勝も果たしている「チームSSP」。

参戦するライダーの障がいもさまざま。まがり美和さん、丸野飛路志さんがともに右足大腿部切断、関口和正さんと古谷 卓さんが脊椎損傷の完全麻痺、という障がいを持つが、このパラモトライダーが中心になってレン耐参戦中である。

サポートに回るチーム員には、SSPの活動を通じて知り合ったボランティアスタッフが集結する。今回の8時間耐久ではパラモトライダー8名に、ボランティアスタッフ6名にメカニック2名という体制で参戦することとなった。

レン耐ではマシンのレンタルが基本。ただ、「チームSSP」は、下半身での操作ができないライダー用にシフトペダルを直接動かすハンドドライブユニットを組み込んだ特別なホンダ・グロムを仕立てており、車両の持ち込みでの参戦となった。
誰でもがレースを楽しめる、そんな場を提供したい
僕が「レン耐」を立ち上げたのはかれこれ19年も前のことになります。その趣旨は「誰もがそれぞれの立場でレースを楽しめればいいじゃん!」という感じですね。
レン耐の特徴の一つに、競争するというハードルを外しているという点があります。普通のレースでは、相手より速く走るほうが偉くて、そこに順位をつけていて、遅いヤツはダメというものです。でもレン耐はそれをひっくり返して、笑ったやつが勝者。そんなバイクを使った大人の大運動会だと思っています。
普段はおとなしい人なのに超絶気合いが入って走り出してそのギャップに周囲が驚いたり、仮装していかに楽しくレースをするかだけを考えて出てきたり、誰もがヒーローになれるレースを目指してやっています。速くなければならないとか、ライディングテクニックが必要であるとか、そういったことをすべて排除し、誰でも入ってこれるようにできるだけ分け隔てなくやっているつもりです。
「そんなところに障がい者が混じって、もし転倒したら? ケガしたらどうするんだ?」という人がいます。でも、それってみんな一緒ではないですか? レースですから健常者だって転倒して骨折したり捻挫したりもしますし、転倒して脳浸透を起こして動かないってこともあります。それは障がい者だっていっしょ。
参加者は危険を承知でレースを行っていますし、僕ら主催者はできるだけそういった危険をなくすように努力をする必要があります。競技のレギュレーションは、速くな ればなるほど不利な仕組みを設けたり、コースによって危険な区域がある場合は「思いやりゾーン」といった追い越し禁止区間を設けたり、常にもしもの時のために、対応策を練っております。それを主催するうえでも、何かあった際に救護体制をしっかり確立しているところでしかレン耐は開催していませんし、バリアフリーのトイレがあったり、そういった環境の整ったところ、パラモトライダーが来て大丈夫なところで彼らを普通に受け入れています。
レン耐はだれでも勝つことのできるレースでもあります。まだ参戦を開始して半年ちょっとですが、この「チームSSP」も実はすでにクラス優勝も経験しています。障害によってバイクを降りなければならなくなった彼らが、再びバイクに乗り、そして喜ぶ姿は実にいいものです。SSPの活動では「できないことを挙げていくのではなく、できることを探す」というスローガンを掲げていますが、そういった意味でも「レン耐」ってSSPの活動にすごく似ていると思います。

ピットロードではマシンを手押しで通過するというルールに合わせ、レン耐側は、この「チームSSP」のために、サポートスタッフが入り込める乗降場所を用意し、ここでパラモトライダーたちの乗り降りを行えるよう便宜にも配慮する。

走行中はパラモトライダーと周囲がひと目で認識できるよう蛍光ベルトを装着。運営スタッフは何かあった際には迅速な対応ができるようなシステム構築にも尽力。パラモトライダーが参戦できる環境は整ってきている。

レン耐では、拓磨も一緒になって走行をする機会も多い。この日はチームSSPで走行を行っていた小林 大選手との元WGPライダー2名によるバトルシーンも観ることができ、パドックからも注目を浴びた。

「Webikeもレン耐を応援してくれていて毎回抽選でWebikeで使える3000ポイントをプレゼントしているから、ぜひみんな参戦してね」と拓磨。
参考URL
青木拓磨のモータースポーツチャンネル
(https://www.youtube.com/channel/UC6tlPEn5s0OrMCCch-4UCRQ)
takuma-gp
(http://rentai.takuma-gp.com/)
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この集合写真は去る7/30の明智ヒルトップで開催された時のものですね。私のスティント中にも何度かSSPの選手に抜かれました。
以前から思っていましたが、バイクに限らずモータースポーツというものは、障害や性別に関係なく、ただ単に強靭な肉体を持っていたり、危険を顧みない蛮勇のあるもの者が有利なものではなく、他のスポーツでは中々楽しめる土俵にすら上がれない者にでも平等に逆転するチャンスがあるスポーツだと思っています。私自身も他の球技などは全然ダメですが、今回の明智の大会ではチームの皆さんが頑張ってくれたお陰もあり、優勝することが出来ました。速い=偉いではないこの大会ですが、やはりそれでも優勝は嬉しいです。
また機会がありましたら、ぜひ参加させて下さい。