急減速時にハザードランプを高速点滅させ、後続車にアピールする「後面衝突警告表示灯」がバイクにも導入可能になる。従来のエマージェンシーストップシグナルとの違いや、効果などを解説しよう!

文:沼尾宏明

より高度なエマージェンシーストップランプが登場

高速道路を走行中、コーナーの先で渋滞に出くわしたり、不意の危険物を発見したりといった場合に急ブレーキをかけるケースはままある。そんな際、役立つシステムがエマージェンシーストップシグナル(ESS)。ブレーキライトやハザードランプを通常時より早い速度で自動的に点滅させ、後続車に危険性を知らせて追突を抑制する機能だ。

仕組みとしては、IMU(慣性センサー)や車速パルスの情報から急ブレーキを察知し、ハザードなどを高速点滅させるというもの。クルマでは導入が進んでいるが、バイクでは一部車種にのみ導入されている。

そんな中、「後面衝突警告表示灯」が解禁される予定だ。これもESSと同様、急ブレーキ時にハザードランプを自動的に高速点滅させ、後続車に危険性を知らせて追突を防止するシステム。これまで四輪にのみ導入が認可されていたが、6月29日、国土交通省が発表した資料によってバイクにも解禁されることがわかった。

「後面衝突警告表示灯」も機能としてはESSと同様だが、違いは後方のミリ波レーダーを活用する点。搭載車と後方車両が衝突するまでの距離を計算し、同一レーンで危険な速度差がある場合など特定の条件でのみ作動する。今回の改正で、ハザードランプを毎分180 回以上300 回以下=秒間3~5回点滅。作動時間は3秒以下と定められている。

導入の理由は、2023年3月に行われた国連自動車基準調和世界フォーラム(WP29)において改訂案が合意されたため。これを踏まえ、同9月下旬に国内基準を改正し、同時期に適用していく予定だ。

WP29は、二輪四輪の安全基準や環境規制といった認証基準を統一し、容易に輸入&輸出ができることを狙って1952年に設立された国際連合欧州経済委員会の下部組織。型式認定相互承認協定(1958年協定)には、EU各国やイギリスをはじめ、日本、韓国、タイ、マレーシアらが参加している。

CB650RのESS作動イメージ。ABSモジュレーターのセンサーから「急制動」を察知し、前後のハザードを高速で点滅させる。一方、今回の「後面衝突警告表示灯」は後部レーダーの情報を元に作動するのが特徴。

ムルティV4やタイガー1200、H2SXに導入されるか?

後面衝突警告表示灯が採用されそうなバイクは、後方レーダーを含むボッシュのARAS(アドバンスド ライダー アシスタンスシステム)を搭載している車両の可能性が濃厚。ムルティストラーダV4(ドゥカティ)、タイガー1200GTエクスプローラー(トライアンフ)、Ninja H2 SX(カワサキ)への導入が考えられる。

なお改正と適用が9月下旬ということは早くも2024年モデルから導入の可能性がありそうだ。

車体後部にレーダーを備え、死角を検知するブラインドスポットディテクション(BSD)を採用したモデルに後面衝突警告表示灯が導入か。※写真はNinja H2 SX SE

バイクで実用化されているBOSCH(ボッシュ)が開発したレーダーセンサーは、自動車用を転用したもので、サイズはそれなりの大きさとなる。リア用は左側だ。

ボッシュによる後方レーダーのバイクへの装着イメージ。左右にあるのは超音波レーダーで近距離の接近を検知するもの。

ドゥカティのムルティストラーダV4Sに装着された後方レーダー。現状は死角検知で左右含めて80mの範囲の物体を検知するが、これが後方からの急接近にも対応するかも知れない。

最大で1秒、30%も後続車の反応時間が早くなる!

なお、従来のESSは、BMWが2016年モデルに導入して以来、ドゥカティ、ホンダらも採用。カワサキも2022年から国内モデルのH2 SX系にESSを採用するなど、日本でもESSの導入が徐々に進められている。

4輪も2輪もESSの導入は、安全意識の高い欧州が先行。世界基準調和を進める日本でも2017年2月より2輪車向けの緊急制動表示灯の使用が認可された背景がある。

搭載されているのは主に高額モデルだが、ホンダは250ccクラス以下にも積極的に採用を拡大。2018年モデル以降のアフリカツインシリーズ、ゴールドウイングシリーズにESSを採用した。その後、ホンダはCBR1000RR-R、CBR650R、CB650R、CBR400R、400X、レブル250、CL250、フォルツァ、ADV160らにも搭載している。

今回の後面衝突警告表示灯やESSの効果を疑問視する人もいるかもしれないが、実証結果が存在する。2014年、北京大学やミシガン大学の研究者が発表した論文によると、ESSでハザードランプが2秒以上点滅すると、後続車の反応時間が0.42 秒 (19%) ~ 0.95 秒 (32%)も短縮。ブレーキランプが高速点滅した場合は0.23 秒 (10%) ~ 0.62 秒 (21%)短縮されており、ハザードの点滅の方が有効だった。

最大で1秒近く反応時間が早くなるのであれば、追突を防げるケースは大幅に上昇するはず。今回の後面衝突警告表示灯はレーダーを搭載したモデルにしか搭載できないが、レーダーなしでもOKのESSなら比較的導入は容易。今後さらに採用が拡大されれば、安全性が高められるに違いない。

ホンダはADV160(写真)やフォルツァといった小排気量車やスクーターにもESSを導入している。

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