5月17日、カワサキ、スズキ、ホンダ、ヤマハの4メーカーは、バイクなど小型モビリティ向け水素エンジンの基礎研究を目的とした「水素小型モビリティ・エンジン技術研究組合(HySE:Hydrogen Small mobility & Engine technology)」の設立に向け、経済産業省の認可を得たことを発表した。

電動だけではないバイクの将来に向けて本格始動

政府の掲げた2050年のカーボンニュートラル(CN)実現に向け、新たな動力源を模索する取り組みが進んでおり、HySE(ハイス)は次世代エネルギーとして注目される水素を使った小型モビリティ用エンジンの実用化に向けた研究開発を開始する。

CN実現に向けてはEV(電動車)が現在最も有力で、国内バイクメーカーもニューモデルやコンセプトモデルを次々と発表している。一方、バイクではバッテリーの搭載スペースが限られるため、ファンモデルではガソリン車同等の実用性を確保するのが難しい側面がある。

そこでHySEは水素エンジンの可能性を追求。水素のメリットは、これまで蓄積してきたガソリンエンジンの技術やサプライチェーンを活用できること。ただし、燃料を水素化するには課題もあり、開発スピードを最大限早めるためにHySEを設立したのだ。

水素エンジンの課題は、1.ガソリンエンジンに比べ着火が早い、2.爆発した際に発生する水の影響、3.燃料タンクの安全性や容量確保の3つが主なもの。解決できるかは「正直分からない」(ヤマハ日髙社長)というが、内燃機関を残すためにもメーカーが垣根を超えてタッグを組む。

HySEで中心的な役割を果たすバイク4メーカーの経営陣(右)と組合理事候補(左)。他にもトヨタ自動車と川崎重工業2社も特別組合員として参画し、技術とインフラの供与を行う。

プレゼンするHySE理事長候補の小松氏(ヤマハ)らは海外メーカーや車両メーカー以外からも参画を呼びかけた。「人類の知恵を絞って取り組むべき」(スズキ鈴木社長)という姿勢が滲み出ていた。

2ストでも可能、水素エンジンのバイクは実現できる?

トヨタのスーパー耐久レーサーやカワサキの4輪バギーが実際に走行している水素エンジンは、果たしてバイクでも実現できるのだろうか。実は、2006年に2ストロークエンジンで走行に成功させた先駆者がいるのだ。それが井上ボーリングの「水素バイク」だ。

「エンジンで世界を笑顔に!」をモットーにしている同社は、マッハや空冷Zシリーズなどに対応するメッキスリーブなどを発売する内燃機関のスペシャリスト。エンジンを後世に残すための事業の一環として、2007年から水素エンジンの開発に取り組んできた。

毎週水曜午後を「水素の日」として開発にあてた結果、水素バイクは実際の走行にこぎつけ、2014年にはテレビ東京のワールドビジネスサテライトにも取材されるほど話題に。ただし、現状の水素タンクでは10分しか走行できない上、満タンに3000円かかるのが難点だ。

HySEの会見でも課題とされた着火の問題は、水素を掃気ポートに吹き込むことで対応しているが、現在構想中の2号機は1次圧縮をしないで電動スーパーチャージャーを利用するという。2号機もやはり2ストのRG125ガンマをベースに同社の70周年イベントで概要が発表される予定だ。

水素バイク [井上ボーリング] ヤマハのTY250スコティッシュをベースに水素エンジン化。当時は唯一無二の存在だったので車名は「水素バイク」と呼んでいる。

水素バイクを開発した井上ボーリングの井上壮太郎社長。フレームをグリーンに塗装しているのは、同社のイメージカラーなのと、エコロジーの意味もある。

TY250 Scottish(1984年) [YAMAHA] 競技専用マシンTY250Rをベースに公道走行も可能にしたモデル。井上社長がトライアル好きということもあり、ベース車に選ばれた。

水素はインジェクターで掃気ポートに吹き込んでいる。キャブはスロットルバルブを使用するのみで実際はフルコンピューターを搭載した電子制御マシンだ。

スロットルワイヤーはこのアクセルポジションセンサーとキャブレターのスロットルバルブの2系統に繋がっている。

制御盤にはメインスイッチや燃調のダイヤルがある。上部のコネクターはPCに接続するためのもので、マップの変更なども可能だ。

水素ガスは148気圧に圧縮して3.3Lボンベに充填。これがMIRAIなどで使われる800気圧ボンベになり10Lほど容量を確保できれば、現在の10分→2時間ほどの走行が可能になる計算だ。

SR400Hydrogen [YAMAHA] 編集部で制作した妄想CGだったが、HySEにおけるヤマハの役割は単気筒エンジンの実機研究と発表された。4メーカーが本気で取り組めば水素エンジンは十分に実現可能!?

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