人はなぜ、煽るのか?

未だに後を絶たない悪質な「あおり運転」加害の報道。煽る加害者が悪いのは当然です。

ですが、何のきっかけもなく突然通り魔的に煽るということは稀だと思います。だとすれば、どちらが正か悪かは別にして、煽られる被害者側の何気ない運転操作がいつの間にか加害者のあおり運転スイッチを押してしまっていると考えることもできるのではないでしょうか。

鉄の鎧に囲まれながら運転する4輪と違い、生身のカラダをむき出しにして走るライダーにとってあおり運転被害は命に直結すると言っても過言ではありません。

そんなあおり運転の被害者(加害者にも)にならないためにはどんな運転をすべきなのかという観点から、バイク歴35年目を迎える私、行政書士ライダーがあおり運転について紐解いていきたいと思います。

第1回目の今回は「あおり運転とは何か?」からお話させていただきます。

きっかけはあの事件

いまだに後を絶たない危険なあおり運転被害。バイクや車を運転される方なら誰もが一度は経験されているのではないでしょうか。そんなあおり運転ですが、実は道交法にあおり運転禁止違反という名の違反は存在しません。では一体、何があおり運転に当たるのでしょう。そのお話の前に、あおり運転が社会問題化するきっかけとなったあの事件について少し振り返ってみましょう。

2017年6月。東名高速下り線で、被害者の車を執拗に追跡、進路を妨害するなどの行為を繰り返した挙句、追い越し車線上に強引に停車させ、そこに後続のトラックが追突。被害者一家4人が死傷するという事件、ご記憶の方も多いのではないでしょうか。

加害者のあまりの悪質さに「危険運転致死傷罪」の適用は当然という声が多かったものの、事故の直接の原因は後続トラックの追突であり、高速道路上に停車させた行為がそもそも危険『運転』に当たるのか?がその後の裁判の焦点となりました。(一審、二審を経た2022年6月のやり直し裁判(横浜地裁)で危険運転罪が認定されるも加害者側が判決を不服として現在控訴中)※詳細はコチラ

そして、その後も同様のあおり運転被害が発生するなどしたことをきっかけに2020年、道交法が改正され、停車させる行為も含む10の類型を直接違反行為として定めた「妨害運転罪」を新たに創出、併せて厳罰化がなされたのです。(道路交通法第117条の2の2)

以降本記事ではこの10類型の行為を総称して「あおり運転」と呼びます。

あおり運転の10類型とは?

では、いったいどのような行為があおり運転に当たるのか。妨害運転罪の規定に沿って具体的に説明します。

イ 対向車線等への幅寄せ、はみ出しや逆走など(通行区分違反)
ロ 急減速や急停止などのブレーキ操作(急ブレーキ禁止違反)
ハ 前方車両との車間距離を詰める接近走行(車間距離不保持)
ニ 急な進路変更(進路変更禁止違反)
ホ 左側からの追越しや危険を伴う強引な追越し(追越し違反)
ヘ パッシングやハイビームの不適切使用(減光等義務違反)
ト クラクションの不適切使用(警音器使用制限違反)
チ 他車への幅寄せや他車の前後方での蛇行運転など(安全運転義務違反)
リ 高速道路等の本線車道での低速走行(最低速度違反(高速自動車国道))
ヌ 高速道路等での駐停車(高速自動車国道等駐停車違反)

※画像は、あおり運転防止広報用リーフレットより抜粋

 

交通の危険を生じさせるおそれのある上記の行為を他の車両等の通行を妨害する目的で行った場合に妨害運転罪が適用されます(2輪・4輪共通)。逆に言うと、確認やハンドル操作ミス等わざと(故意に)ではなくうっかり不注意な(過失)運転の結果、上記に該当してしまったような場合は妨害運転には当たりません。

ただし、そのような不注意な運転が煽り運転スイッチを押してしまう原因となることもありますので、被害に遭わないためにも慎重な運転を心掛けることが大切なことは言うまでもありません。

こんなに重いあおり運転の罰則

あおり運転は同じ道交法違反ではあるものの、信号無視などのような軽微な反則行為(青切符)=反則金を払いさえすればOKというような甘いものではありません。以下のような刑罰が設定されており、場合によっては逮捕もあり得るだけではなく、起訴、裁判といった刑事手続きの対象となる犯罪行為です。

①被害の有無に関係なく、これらのあおり運転行為をしただけで妨害運転罪三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金)が適用されます。

②また、これらの妨害運転により「高速道路等」で他の自動車を停止させるなどの「著しい交通の危険」を生じさせた場合は、道交法第117条の2第1項第4号が適用され、罰則はさらに重い五年以下の懲役又は百万円以下の罰金となります。

上記の刑事罰とは別に前者には違反点数25点(免許取消し・欠格期間2年)、後者には同35点(免許取消し・欠格期間3年)の行政処分が科されます(2輪・4輪共通)。

なお、妨害運転行為に加えて暴行や脅迫などの犯罪行為が行われた場合は、妨害運転罪とは別にそれらの罪に問われ得ることは当然です。

あおり運転一発で懲役という可能性は低いと思われますが、それでもあおり運転は重罪です。

4輪と違い急ブレーキや急ハンドルによって自らが転倒するリスクがあるバイクによるあおり運転の加害報道は少ないとはいえない訳ではありません。(2020年9月、京都市内の幹線道路でバイクを運転中、急ブレーキや蛇行運転を繰り返し、後続車の進路を妨害した疑いで40代の男が逮捕など)

あおり運転をしないよう自分を律することはもちろん大切ですが、あおり運転被害を回避することはそれと同様、いや、命の危険すらあることを考えるとそれ以上に重要といえると思います。

『あおり運転スイッチを押してしまわないよう自らを守る運転』について、次回、実際に起きたバイク被害事例を題材にみなさんと一緒に考えてみたいと思います。

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