
逆操舵だけでも、バイクは向きを変えるが
私は、このシリーズにおいてライディングを科学するにあたり、ライディングは重心移動によって成り立つということを前提に、重心移動の本質を追求すべく話を進めています。
もちろん、重心移動をしなくても、バイクは向きを変えるようにできています。バイクは傾いた方向にステアリングが切れる自動操舵機能(セルフステア)を備えており、逆操舵によって片側への自動操舵機能を働かなくすることで、バイクはリーンし、ステアリングが切れて向きが変わるのです。
その逆操舵だけでもバイクを走らせることができることを証明したのが、ヤマハのMOTOBOTです。ただ、私は、MOTOBOTでヴァレンティーノ・ロッシの周回タイムを破ることが目標という開発者に「逆操舵がコーナリングの本質であるかのように発信するのは、メーカーの姿勢としてまずい。技術的な発展性がある意味は理解するが、ロッシと競争させるという”水モノ”にするのは、いかがなものか」と申し上げたことがあります。
これに対しては「目標は高くしないといけませんから」といなされたものですが、ヤマハの偉いところは、MOTOBOTのサーキット周回タイムがビギナーレベルに過ぎないことや、発表から2年後の2017年ミラノショーのプレスカンファレンスでは、動画でS字の切り返しで転倒するシーンも公開したことです。逆操舵だけではまともにコーナリングできないことも明らかにしたのです。
逆操舵にはバランスを崩すはたらきがありますが、それに依存すると危険で、限界点も低く、マシンを操っている実感も得られません。そこで、そのバランスコントロールにライダーが積極的にはたらきかけるのが、重心移動だと考えていいでしょう。
もちろん、逆操舵を全く使わないわけではありません。初期の軽微の逆操舵は走行ラインを正確にコントロールするために必要です。ただ、今後このコラムで述べていくように、その逆操舵は受動入力であるべきなのです。受動入力は人間が意識できない深層筋による体幹操作の結果であり、逆操舵をしていないと言い張る人が少なくないことには、そうした理由もあると考えています。
そうした意味で、意識を伴った能動入力による逆操舵は好ましくないというのが私の考えです。
重心移動は動的に考えなければならない
重心移動について、誤解されがちなことがあります。それは、コーナリングの一瞬のフォームと重心位置だけに注目してはいけないということです。大切なのは、重心がコーナリングの流れの中でいかに移動しているかということなのです。(それについての触りが前回です)
ニュートンの第2法則にあるように、力=質量×加速度です。ライダーが運動状態を変化させて加速度を生じさせないことには、マシンコントロールのための力は生まれないのです。つまり、現在のロードレースで見られる極端なハングオフ&リーンインで身構えても、コーナリング中ずっとそのままでは重心移動になりません。それゆえスポーツとしてのコーナリングでは、ライダーは身体をリズムに乗せなければならないのです。
このことに関して前回、いい質問がありました。1.5次旋回において、重心移動が止められたり戻されたりしたら、リーンが止められてしまうのではないかとのことですが、動きとは逆方向に慣性力(ここでは遠心力)が生じることに注目してください。
イン側に重心移動すると、旋回し始めたライダーにもアウトに向かって遠心力が生じますが、身体をアウト側に戻すことで遠心力を抜重できるのです。体重計の上でしゃがみこめば、抜重によって体重指度が小さくなるのと同じです。遠心力はリーンしていくマシンを起こすことになりますが、その働きが小さくなって倒れ込もうとするので、舵角を入れてバランスさせようというわけです。
すると、そのとき、前々回に質問があったように、瞬間的に順操舵力が加わることになります。付け加えておくと、そのときイン側グリップには体重も掛かりますし、その順操舵も受動能力になります。(これも詳しくは今後展開していきます。)
モトクロスにおいては、この1.5次旋回で腰をアウト側に移動、シートの角に座るという動きが見て取れます。そのとき舵角が入り、轍に沿ってコーナリングできるのです。
モトクロスでは身体の重心がアウト側にあるので、体重移動で曲がっていないとする向きもありますが、1.5次旋回後の極短時間の2次旋回に向かって、しっかり重心移動させています。第一、逆操舵で曲がろうとしたら、轍から飛び出し、即、転倒です。
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すこし驚きました。
和歌山さんは、前回記事のコメントに目を通した上で今回の記事をされているんですね。
以前、サーキット走行会でお見かけしたことがありますが、参加者をニコニコと笑顔で
見守られていて、本当にバイクとバイク業界が好きな人なんだなぁとの印象を受けた覚えがあります。
肝心の走行会では、ヤマハR6に乗る和歌山さんに抜かれて、しばらく後ろを走る機会が
ありましたが、驚くほどスムーズに、無駄な動きなくコーナーに入っていく姿に衝撃を受けた
のを覚えています。途中で追い付けなくなりましたが…。
逆操舵とは関係ありませんが、スポーツライディングが好きな人なら、上手な人の後ろを走ると
「どうすればあんな風に走れるんだろう?」と思いませんか?
バイクって、感覚だけでも乗れる物ですが、構造や理論の理解も深めると、もっと安全に
もっと楽しく乗れると思います。
バイクのテクニックって周りから見ても殆どわからない
それは動きがとても微妙だから
だから初心者や無知な人ほど「バイクの性能のおかげ」「そのバイクがすごい」って思い込む
和歌山氏の書籍の殆どを持ってる自分でもこのコラムはわかりにくいと思う(笑
渡辺明氏のテクニック本も写真付きだったけど全然わからなかったが、ビデオ観たら一発で理解できた
それくらい文書での解説は難しい
基本ハウツー本好きな自分ですが、つじつかさ氏と和歌山氏の書籍で別人レベルになりました
これからもご活躍を期待しております
>逆操舵で曲がろうとしたら、轍から飛び出し、即、転倒です
↑何故でしょう?意味がわからないです