前回のコラムで書いたように、普通に考えれば、バイクの上で体重移動するには、バイクを逆方向に押し出さないとなりません。すると、さらなる逆操舵が必要になり様々な弊害が生じますし、体重移動で旋回性を高めることもできません。

しかし、然るべき身体操作が伴えば、マシンを身体で生き生きと操れるようになってくるはずです。今回はそのことについて考えてみましょう。

 

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短距離走で地面を蹴って走ったのは昔の話

おおよそ30年ぐらい前まで、陸上競技で速く走るには地面を強く蹴って推進力を得なくてはいけない、というのが常識とされていたと思います。でも、今ではいかに路面を蹴らないかが求められ、砂浜でのランニングで足を踏ん張りながらも空蹴りしない走りを習得するトレーニングが行われているといいます。

インナーマッスル(深層筋)主導での身体操作によって、これは可能になります。大腰筋に代表されるインナーマッスルが伸ばされ、するとそれ以上に伸びては危険という本能的な伸張反射で深層筋は縮みます。この収縮によって身体は前方に押し出されます。もっとも、それに対して支持脚は踏ん張るべく、しっかり押すことになりますが、蹴る操作とは本質的に異なります。

ここで踏ん張る力を受動的筋力だとすると、蹴る力は能動的筋力と言えます。ステップを踏んだり蹴ったりするのは好ましくなく、ステップへの力が受動的筋力であれば、マシン側への要らぬ入力は抑えられます。ちなみに、ここで言う受動的/能動的筋力という言葉は、王貞治さんがバッティング論を説くに当って言われたもので、私も使わせてもらっている次第であります。

スポーツにおいて深層筋なるものが注目されるようになったのは、21世紀に入ってからだったと思います。そして今、このことがスポーツ全般のみならず、ライディングの常識にも影響を及ぼしているのです。

体重移動ではなく、大切なのは重心移動

昨今、スポーツ科学やスポーツ指導の分野においては、体重移動という考え方を否定し、それに代わって重心移動に注目する潮流があります。

ここでの重心とは、体各部に掛かる重力の代表点のことです。その重心が運動中心になりますし、身体に支持点と重心の間に距離が生まれれば、支持点を中心としてモーメントが生じ、回転運動が生じます。これに対し、体重移動とは、足を使って身体そのものを移動することと考えていいでしょう。

この重心移動が運動にとっての本質とされるようになってきたのです。前述の深層筋主導の身体操作に加え、重心移動をいかにコントロールするかが大切というわけです。これは、言うなれば「身体を移動させるのではなく、重心を移動させる」ということでもあります。

一見、矛盾しているようにも思えますが、姿勢を変化させることで重心を移動させると考えれば分かりやすいかもしれません。付け加えておきますと、理工系で剛体の力学の素養があるほど、この考え方に拒絶反応を示す方が多く見受けられます。人体は柔軟体であると頭も柔軟にして取り組んでもらえたらと思います。

さて、重心移動の分かりやすい例として、私は鉄棒の逆上がりを挙げたいと思います。逆上がりでは、イラストのタイミングで腰を鉄棒に当て、アゴを引いて、腹筋を使って上体をくの字に曲げることがコツだとされます。これによって、重心は身体から離れてヘソの前方(イラストの赤点)に移動、鉄棒との間に距離ができて、身体を回転させる効果(イラストでは左回り)が生じるというわけです。

もう一つ、左右方向の重心移動の基本が詰まっている運動として、ここで競歩を挙げてみましょう。イラスト①では左側にあった重心は、②では右側に移動しています。骨盤を左右に移動させながら歩くのは、ややもすると奇異にも見えがちですが、この運動は多くのスポーツの基本動作であるとも言われています。

実はこれ、ライディングにおいても基本動作なのです。そして、1次旋回(この初動動作になるパートを私は1.0次旋回としています)において、①から②、あるいは②から①の身体操作による重心移動を完璧に行うほどに、逆操舵は必要なくなってくるのです。

残念ながら、ボリュームがリミットに達しました。詳しくは次回に譲るとしましょう。

 

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コメント一覧
  1. 匿名 より:

    とても興味深い解説です。
    競歩の図はなんとなく腑に落ちます。
    私は峠道も含めてほとんどリーンウィズですが、
    曲がり始めのきっかけは逆操舵ではなく着座したまま骨盤だけを曲がる方向のやや斜め前方に傾けるイメージです。
    曲がり始めたら胸、肩、頭を徐々に少しだけイン側に入れていきます。
    ライン取りの微調整は横腹の力の入れ方や頭の位置で行うようにしています。

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