
1990年代に国内外のロードレースでその名を轟かせた青木三兄弟の次男、青木拓磨氏。全日本で王座に輝いた後、世界グランプリの500ccクラスにステップアップし、これからという時に1998年のテスト中の事故で下半身の自由が効かない身体になってしまいました。その後4輪レースへ転向し、最近ではル・マン24時間耐久レースにも参戦。また、ハンドシフトのバイクでサーキット走行を楽しむなど、2輪での活躍も再び注目されています。この連載では、青木拓磨さんの今でも溢れ続けるモータースポーツへの情熱を語ってもらいます!
速いのが一番、最新が一番と思っていたのだけど。
先日、絶版旧車なるものに興味がありまして、販売数では日本で一番と言われているウエマツさんの本社ショールームを見学させていただきました。もちろん絶版車と言うのは、カワサキZ1・Z2やCB750FOURなど、いわゆる昭和に活躍した「旧車」たちです。そもそも、なぜレーシングライダーだった僕が旧車に興味を持ったのか、皆さんはきっと不思議に思いますよね? いや、実際にそうだと思います。僕自身としてもメーカーの持てる技術の最先端を集めたワークスマシンを駆る世界グランプリという舞台で戦ってきたというのもあって「速いバイクが一番、最新のものが一番」という価値観で育ってきましたから。その価値観は、本当にごく最近まで続いてきたので、自分でも正直なところ不思議です。
まあ、何故それが変わったかというと、ハンドチェンジシステムで再びバイクに乗れるようになったり、新しいバイク仲間たちとの出会いがあったりと、レース一辺倒・最速一辺倒だった頃とは違う視点からバイクを見ることができるようになったからで、実は最近になってのことなんです。それにZ1やCBX400Fなどの中古価格が数百万円なんて話を聞くと驚くじゃないですか。何がそんなに皆の心を惹くのだろうと気になってしまい、それなら一度実際に見てみようと思ったというわけです。
かくいう僕も、20数年前はレーシングマシンだけではなく、公道でバイクに乗っていたこともあるんですよ。自分で愛車を持つまではいかなかったんですが、うちには兄貴の乗っていたホンダVFR400Rがありまして…。2つ目耐久イメージで人気となったNC30ではなく、その前にあたる1灯のエアロカウルのモデルですね。都内での用事があるときなど、そのVFRを借りて安全運転で関越自動車道を走ったりなど、それなりに乗っていたのでありました。世代的にはレプリカ全盛期でしたので、公道版のNSR250RやスズキのΓ、ヤマハのTZRといったものが当時の地元の仲間たちには大変人気でしたね。だから、ウエマツさんが主に扱っている絶版車たちからは後の世代。それでも仲間たちの中にはその先輩世代から譲られたバイクに乗っていた者もいたりしまして、旧車にあたるRZ250やケッチことカワサキKHなどは、その名前を聞いていたことを何となく覚えていたような、そんな記憶がありました。
絶版人気ナンバー1というカワサキのZ1&Z2。軒並みすごい値段でビックリ。しかし、発売当時の世界最強スペックや量産車初の直4DOHCといった歴史的価値を聞くと納得。それに何と言っても無骨でカッコいい!
RC30ことホンダのVFR750Rも置いてありました。「お値段ASK」の超お宝扱い! 僕が初めて鈴鹿8耐に出たときは、このマシンだったんですよね。全日本でチャンピオンを獲ったときのRC45は、中古の流通車両がまず見つからないとか。
あえて昔のバイクを楽しむのもアリでしょう。
さて、これまでもお伝えしたように、僕が3年前にハンドチェンジシステムによって22年ぶりにバイクに乗れるようになったのは、もう皆さんご存じのことと思います。しかもCBR1000RR-RやRC213V-Sといった200ps超・300km/h上等の走りに挑戦したのには皆さんも驚いたことと思いますが、僕自身としても非常に衝撃的な出来事でした。だって、20数年ぶりのライディングとこの身体の状態の僕が、軽々と鈴鹿の1~2コーナーでブラックマークを残すような走りができてしまったんですよ? 昔の経験や4輪レースを続けていたことによるスピードへの慣れみたいなものはあったにせよ、そうした走りがパッとできてしまったことに、感動とともに次第に自分でも戸惑いが生まれているのを感じていました。マシンとタイヤの進歩にとにかく驚いてしまい、それに助けられたからこそ自分でもビックリな走りができたということを自覚させられたわけです。
もちろん技術の進化で、昔はできなかったような走りを多くの人が可能になったのは素晴らしいことだと思います。今の僕もやっぱり一番憧れるのは速いマシンです。ですがその一方で、あえて乗りにくかったり古くても愛着のあるバイクを上手く乗りこなして見せるという楽しみもあるということに気付きました。最近も熊本の友人がガレージで子供のように目を輝かせながら空冷Zのレストアプランを語ってくれるなど、あまりにも楽しそうな姿はちょっと羨ましくなってくるほどです。バイクはよく馬にたとえられますが、まさにそのとおりだと思います。そんな愛馬の中には「手のかかる子供ほど可愛い」じゃないけど、ジャジャ馬ほど乗りこなしたときの達成感があったり、寒い日にエンジンがかかりにくかったりすると「あー、今日はちょっと機嫌が悪いな」とか長く付き合うほどバイクの気持ちが分かってくるというか、まるで生き物と付き合っているような気分を味わえるんじゃないでしょうか。
レースするだけがバイクじゃないですからね。いろんな楽しみ方があっていいと思います。いま人気の旧車たちは、そんな性能一辺倒だけではない部分を求めている人たちに支持されているのでしょう。活気のあった70~80年代バイクと自分の青春時代がシンクロしているライダーも多いのでは? そんな愛着のあるバイクにずっと乗り続けるという人生も素敵ですよね。見学に対応してくれたウエマツさんの枝川副社長も言ってましたけど、旧車が本当に好きな人はものを大事にしようと考えている人が多いといいます。旧車を大事にするというのは、最近のSDGsの流れにも合っているのかもしれませんね。そのときの模様は僕のYoutubeチャンネルでも紹介しました。興味があったら、ぜひ観てみてください。
CBX400Fにカウルが付いたインテグラ。ようやくカウルやセパハンが合法になったのが1980年代前半だったなんて今では信じられませんね。
見学に対応していただいたウエマツさんの枝川寿副社長(写真左)と峯尾真史営業部長(写真中央)。絶版車についていろいろと貴重なお話をいただけました。
<参考URL>
青木拓磨のモータースポーツチャンネル
この記事にいいねする