【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】

バイクは内燃機関あってのもの

私は1年半前、本コラムにおいて、「電動バイクって、ぶっちゃけどうなの?」を書きました。

そこでは、電動バイクは内燃機関を搭載したバイクとは異種の乗り物であって、これまでバイクの進化の延長線上にはなく、違和感を禁じ得ないシロモノであるとお伝えしました。コラムではこれをまとめ上げるには全く違った方向性が求められるという落ちでしたが、電動ではスポーツバイク本来の魅力は得られないというのが正直なところでした。

では、どうすればいいのか。ゼロエミッションの内燃機関を積むしかありません。

いくつかの研究機関やメーカーが水素エンジンの開発に着手していることは聞いていましたが、すでにマツダやBMWが着手するも断念していました。やはり、電動化しかないのか。モトGPの中継を見ながら、そのマシンの電動化を想像するも、それはあり得ないと逡巡していたものです。

ところが今年に入って、トヨタが水素エンジンを開発中で、レースにも参戦するとのニュースが飛び込んできました。これには光明が差した気分になったものです。

▲トヨタの水素エンジン車両 「SUZUKA S耐」での様子。

水素エンジンに課題は多いが、実用化は可能と思うようになった

以来、私は水素エンジンに関する情報に目を通すようになりました。

水素では燃焼速度がガソリンの場合の7~8倍にも達するので、一気に高温高圧に達します。その結果、空気中の窒素と酸素が反応してNOxが発生します。でも、これには燃料噴射系や点火系、燃焼室回りを最適化することで、かなりのところ対策できると期待しましょう。

出力や燃費、燃料となる水素の搭載も課題です。発生できる出力は、燃料がどれだけのエネルギーを持っているかに左右されます。水素の発熱量は、気体状態ではであればガソリンの3分の1程度であっても、重量当たりでは3倍近くに達します。理想混合気の状態においての比較でも84%に達するのでから、出力上は問題とはならないでしょう。

ただ、水素の車載の問題があります。重量当たりでは発熱量が大きくても、気体状態では容積もかさみます。実際、高圧水素タンクを搭載するトヨタの水素エンジンレーシングカーでは、後部座席にもタンクを積んでいるそうです。となると、バイクではスペース上難しく、水素を液化して搭載する必要が出てきます。

この液体水素の生成が、水素をいかに取り出すかということと共に、大きな課題のようです。液化にはマイナス253℃という絶対零度近くにまで冷却せねばならず、そのために電気を使ったら元も子もありません。もちろん、そのための研究も進行中のようです。

▲10月6日にカワサキモータースが発表した水素エンジンに向けて研究中の直噴エンジンのイメージ画像。トップの画像はその現物です。

オールニッポンでやるしかない

と、こうした可能性と現状をコラムでお伝えしようかと思っていたら、見事に先を越されました。

カワサキ、SUBARU、トヨタ、マツダ、ヤマハの5社が、11月13日、カーボンニュートラル実現に向け、内燃機関を活用した燃料の選択肢を広げる挑戦について共同発表したのです。

【関連ニュース】
カワサキ、スバル、トヨタ、マツダ、ヤマハが、カーボンニュートラル実現に向け、燃料を「つくる」「はこぶ」「つかう」選択肢を広げる取り組みに挑戦

中でもカワサキとヤマハは、水素エンジン開発の共同研究の可能性について検討を開始、今後はホンダとスズキも加わり、4社で二輪車における内燃機関を活用したカーボンニュートラル実現への可能性を探っていくといいます。協調と競争を分けるべく、協調領域と協働研究の枠組みを明確にした上で推進していくとの文言に、これまでのメーカー間の壁を取り払った活動を思わせます。

今回のリリースに液体水素についての言及はありませんでしたが、これも懸案事項のはずです。こうした取り組みは、水素エンジンがバイク存続の鍵を握っているとの認識があったからだと思います。そのためには一社だけでは成り行かず、オールニッポンでの取り組みが必要だということなのでしょう。いや、オールニッポンで取り組まないことにはバイクの将来はないのかもしれません。

▲11月13日の会見の様子です。ヤマハの日高社長が中央に座っているのが印象的でした。水素エンジンや燃料を手掛けている川崎重工の橋本社長も会見に臨んでいます。

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