
【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】
▲Meteor 350 Fireball
私、ロイヤルエンフィールドが大好きなんです
初めてロイヤルエンフィールドに乗ったのは、30年ほど前のことでした。レーサーレプリカ熱が去り、皆が日常域に近い乗り物を模索していた頃だけに、それはもう新鮮でした。機種は忘れましたが、メテオのご先祖様となるブリット350だったかもしれません。歩くような速度で、鼓動感とまったりした味わいが放たれているのは感動モノでした。
また、それから数年後、ディーゼルエンジンを搭載したモデルに試乗する機会がありました。それはこの上なく鼓動感が強調され、彼らが大切にし続けてきたことを印象付けられたものです。
路地裏をトコトコと走り、バイクが生活の中に溶け込んでいた頃を思い出させるバイク本来の持ち味は、今も彼らが追求していることなのでしょう。イギリスで生まれたロイヤルエンフィールドがインドで生き延び、バイクの進化から取り残されていたという事情があるにせよ、現世にそれが再現されているのは素晴らしいことです。
さて先日、メテオ350の発表会が行われました。本国インドからマーケティング&セールス担当のヴィマル・サムブリィさん、イギリスの技術センターから技術担当のマーク・ウェルズさんを結んでのオンライン発表会でした。実は、2年半前にINT650とGT650の試乗会がタイで行われたとき、私の意見に耳を傾けてくれたのがこのお二人だったのです。
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進歩が著しいロイヤルエンフィールド
話は8年前に遡ります。単気筒のコンチネンタルGT535の試乗会がロンドンで行われたときです。高回転域での振動、高速安定性、極低回転域でのエンジンの乏しい柔軟性など、現在水準に達していないことをCEOだったシッダールタ・ラルさんに伝えると、「だって、こいつほど街中で味わいがあって、楽しいバイクって他にある?」と言われ、彼らの取り組みに目が覚めたものです。
そして2年半前、270度クランクツインのINTとGT650は、鼓動感を高めながら、偶力バランサーによって振動を見事に解消。エンジン制御も完璧で、柔軟ゆえ鼓動感をより楽しめるものになっていました。エンジン制御はイギリスの技術センターで働く日本人技術者のお手柄なのでしょう。
ただ、ハンドリングには難がありました。素直に寝にくい反面、途中から急に寝込んでしまいます。コーナリングの撮影を見ていたウェルズさんに「乗りにくいよ~」と言うと、彼は「実はオレ、下見のときにあのコーナーで転んだんだ」と言うではなりませんか。
ライダー仲間として仲良くなれた気もして、「なんでフォークオフセット、こんなに小さいの? INTやGTに相当する昔のバイクだと40とか45mmほどあったでしょ。トレールが大きすぎて寝にくいんだ。おまけに、タンクレールからシートレールが真っ直ぐテールに伸びて、リヤタイヤに荷重が掛かって起こす作用が生じても、タンクレールが捩じれるだけで車体は起こされないよ。それで転んだんじゃない?」
ちょっと言い過ぎたと思いながらも、「こいつには前後18ではなく、19/18インチが合うと思うよ。だって、10年ほど前のトラのボンネビルT100、最高だったもん」と続けたら、「いや、あれは19/17」と技術者のプライドを感じさせたものです。
個人的にはクラシック350が好みだけど
味わいに関して最高でも、技術的な洗練度を期待するのは、無理があったかもしれませんが、ロイヤルエンフィールドは間違いなく進歩しています。
ウェルズさんが私の意見を参考にしたわけでもないでしょうに、メテオは前後19/17インチ、フォークオフセットも写真で見たところ40mm程度になっています。同じ単気筒のGT535とは違い、1次1軸バランサーも装備、振動対策も抜かりはありません。
ただ、気になるところもあります。ダウンチューブ上下の泣き別れです。あれでは下側は剛性部材として機能せず、エンジンガードにしかなっていません。クランクケースにピボットブラケットを取り付け、クランクケースピボットに近い構成になのですが、エンジンマウントは実質的に2点となり、剛性面で疑問が残ります。
でも、これも適度の遊びが大らかさを生み出していると期待しましょう。全てが完璧では、それと裏腹の魅力は見えてこないものなのです。メテオにはファイヤーボール、ステラ、スーパーノヴァの3モデルが用意され、価格も60万円前後と求めやすいものとなっています。後日、発表されるでしょうレトロ調のクラシック350のほうがロイヤルエンフィールドらしく、個人的には気になるところなのですが。
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