【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】

基本を共用する新型トレーサー9とMT-09

新しいトレーサー9はMT-09と基本を共用しています。エンジンはもちろん、性能諸元だけでなく、制御マップも変わりません。エンジンのコントロール性にはシャープさやダイレクト感と寛容性が高水準に両立されているので、従来型のように専用設定する必要もないのでしょう。

そのため、走り出した途端、高揚感にワクワクしてくるのは、ツアラーらしからぬ魅力です。それでいて、従順さにホッともさせられます。その度合いをモードセレクトできるのは、MT-09と同じです。

横剛性が50%高められたフレーム、スイングアームをフレームの両サイドから挟み込む車体構成も、MT-09と共通です。これによって、高い高速安定性が保たれており、快適にクルージングできます。従来型にはない安楽感です。こうした車体への設計変更は、トレーサーへの要求を満足させた結果ではないかと思えるほどです。

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▲2021年7月28日に発売したばかりの新型トレーサー9GT ABS。エンジン、車体ともに刷新された新型MT-09をベースにツアラー化しています。車重は220kgとクラス最軽量です

▲フレームは直進安定性と操縦性を両立させるために、縦、横、ねじり剛性のバランスを調整し、特に横剛性は従来比で約50%アップ、直進安定性向上に貢献しています

一方でツアラー向きの専用技術も投入されている

フレームが共通でも、2か所のエンジンマウントブラケットによって、トレーサー9は車体剛性が高められています。ブラケットは肉抜きが少なく、エンジンの締結剛性を高め、エンジンをより剛性部材として機能させているのです。これによって、車体のヨレがある以上に増幅しないような腰が備わっていると想像します。

前後サスにはKYBの電子制御サスKADSが投入され、このトレーサーでは、IMUが検知したバンク角に応じて、減衰力が高められることが特徴です。サスの動きを抑えるために必要な減衰力は、バネ定数とバネ上荷重の平方根に比例して大きくなります。マシンがリーンすると遠心力によって荷重が高まるので、これは不安定な挙動を抑えるのに理に適っているのです。

それなら大きめの減衰力を直立時から与えておいたら良さそうですが、それでは快適性が損なわれ、逆に不安定な挙動も出やすいのでしょう。このKADSについて付け加えておきますと、電子制御されていると感じさせない自然さも印象的です。

さらに、パニアケースはゴムブッシュを介してマウントされ、その粘弾性効果がケースが車体の挙動から受けた力を吸収、余韻も残さず安定しており、高速コーナーでケース装着を忘れさせてくれます。

▲トレーサー9には専用チューニングのブラケットやエンジンマウントが採用されており、安定性が確保されています

▲初めて実用化されたKYBの電子制御セミアクティブサスは2モード切り替え式です

▲左右のパニアステーには上下にダンパーを装備して揺れなどを吸収し挙動が安定するようにしています

ヤマハは積極的にプラットフォーム戦略を展開

プラットフォームとは共通の土台となる基盤のことで、プラットフォーム戦略はその基盤を元に活動を展開、効率よく成果を得ようとするものです。基盤はハード面だけではなく、ソフト面に関しても対象となりますが、自動車の分野ではエンジンや車体の基本をメーカー間で共用するなど、こうした戦略が大掛かりに展開されています。

技術屋さんというのはとかく独自に理想を追求したがり、共通化を嫌いがちです。その反省もあったとするのは考えすぎでしょうが、ヤマハも数年来、プラットフォーム戦略を図ってきました。

そして、基本車をベースにアドベンチャーやレトロモデルが仕立て上げられてきました。MT-09から1年余りして2015年に初代トレーサーが登場。でも、それはいかにもMT-09の派生モデルといった印象で、2018年型でスイングアームが60mmロング化されるなどで、安定性と居住性を高めてきたのですが、そういった展開もここへ来て本物になったと言えます。

ヤマハが取り組んできたプラットフォーム戦略が、運動性に富んだスポーツ性と快適なツーリング性能が両立した希有な車両性格のトレーサー9に結実していると思えてならないのです。

▲こちらは初代MT-09トレーサー。この頃はまだMT-09の車名が入っており、いかにも派生モデルだったことを物語っています

▲トレーサー900というネーミングでMTから独立した二代目。上位のGTグレードも設定されよりツアラー色が強くなったモデルです。それでもワインディングは刺激的でした

▲三代目はトレーサー9となり、トリプルパニアにもメーカー対応しました。電子制御サスも装備してMT-09との棲み分けはかなり進んでいます

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