【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】
GB350が正式発表されました。インド市場向きにインドで生産されるハイネスCB350が基本と聞いていただけに、その空冷SOHC2バルブ単気筒車には、さほど興味を惹かれることがなかったというのが正直なところでした。
ところが、詳細を知り一転、至極感心させられました。シングルならではの良さの中に、味わいと存在感が放たれていると確信させられたのです。
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このバランサー配置は画期的!
ベーシックさと簡素さの中に造り込まれたユニークな技術
エンジンは超ロングストロークです。エンジンの吸入、圧縮、燃焼、排気という呼吸を感じやすく、最高出力回転数は5500rpmと低く、連続しない鼓動感を楽しめそうです。
ちなみに、この回転数は単に回転を抑えただけのものではありません。6000rpmで90.5mmのストロークをピストンが往復したら、平均ピストンスピードは18.1m/secに達します。性能を限界まで絞り出すスーパースポーツだって23~24m/sec程度ですから、空冷の街乗りバイクとしては目一杯ピストンが動いている状態です。それだけに流速も高く、エンジンの呼吸を感じやすいと言えます。
▲空冷を採用しているが高温となる燃焼室周辺を冷却するため、シリンダーヘッド内の燃焼室上部全体を覆うようにオイル通路を設けて冷却している
そして、驚かされるのがバランサーです。2軸1次バランサーであることは珍しくありませんが、その一方をメイン軸(クラッチ軸)上に設置(同軸とは言え、メイン軸と一緒に回るわけでない)しているのです。
1軸バランサーだと、クランクのクランクピンの逆側にピストン回り重量の50%のウェイトを、逆回転するバランサー軸に50%のウェイトを置くことで、1次慣性力は完全バランスされます。ただ、慣性力の発生源が異なるため、エンジンの前後を上下に揺する偶力振動が残ります。
そこでバランサー軸をクランク軸の前後に振り分けたのが2軸バランサーです。GBでは、前後軸のクランク軸からの距離が3:7とされます。距離が大きければ、エンジンを揺する効果も大きく、前後のウェイト配分は35/15%となります。しかも、ウェイトの左右位置も左右に振り分けられます。中心からの距離も前後方向と同じく3:7です。
▲エンジンの爆発を心地良さとする“鼓動=味わい”と、回転部の不快な“振動=雑味”を明確に分けて、鼓動の最大化と振動の最小化を図るメインシャフト同軸バランサーを採用
このレイアウトは、コンパクト化設計の結果に過ぎないのかもしれません。でも、エンジンを前後左右の隅から非対称に揺することで不釣り合い力を打ち消し合うのですから、そこに生き物のような存在感を感じるのではないかと思ってしまいます。
挙動はしなやかで安心感に満ちている
フレームは何の変哲もないセミダブルクレードルながら、明確な狙いが伝わります。
エンジンはフレーム下部に4点マウントされます。その分、そこからヘッドパイプに向かうエンジン後上部とエンジンの前部ループは、大きく距離が取られます。
距離が大きければしなりやすいわけで、フレームのしなり味が豊かになります。しかも、そのしならせる部分に補強メンバーの類が渡されることもありません。補強メンバーがあると、そこが節になって高周波のしなりを誘発しがちですが、これは挙動も穏やかに違いありません(トラスフレームはそれを逆に生かしダイレクト感を得ていますが)。
▲エンジンハンガーは4箇所に設定。エンジン締結位置とヘッドパイプ間の距離を長くとることで、フレームを最適にしならせることを可能とし、穏やかな運動性能を実現
そして、そうした車体のしなり味に、フロント19インチのおおらかなリズムがシンクロ。また、フォークオフセットは45mmです。これは70年代のロードスポーツの標準値であり、操舵を実感しやすく、操る面白さも期待できます。軽快ながらも、ややもすると奥行きを見出しにくくなりがちな単気筒車ですが、このGBはそうしたネガを一掃、いい意味でのレトロチックなハンドリングを期待できそうです。
さらに、フレームの捩じれ方に注目すると、下部が固められ、捩じれ中心が下側にあると推測できます。捩じれ中心が低いと、同じだけフレームが捩じれても、接地点の移動量が小さく、接地感が安定し安心感に富み、ゆったりとした安心感も備わっていそうです。
▲チェーンラインの内側にピボットを設定したインナーピボット構造により、鉄のしなやかさを最大限に引き出しながら、縦、横、ねじれ剛性をバランスさせている
コーナリングを小気味良く楽しめる一方、実用性にも富んでいるはずで、ハンドル切れ角は43度という異例の大きさです。これは古き良き時代のロードスポーツやデュアルパーパス系をも凌ぐほどで、四輪車がぎりぎり通れる狭い路地裏でのUターンも厭わないでしょう。
このGB350には、シングルファンが待ち望んでいた走りが、今日的な水準において具現化されていると思えてなりません。
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