【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】

SR400は生まれながらの名車ではなかった

SR400は生産を終えます。ファイナルエディションはすでに6000台を受注、完売だそうです。人々の名残惜しさが伝わるだけに、これを名車とすることに異論はありません。

ただ、SRの花道に水を差したくはないのですが、43年前、78年登場の初代型は名車と呼べるシロモノでなかったとの気持ちもあります。

当時、私はヤマハの開発部門におり、SRは担当機種ではないのですが、仕様が固まった時点で、一般道、高速道路、テストコースを丸一日掛けて実走評価する機会がありました。

▲SR400 1978年モデル

ハンドリングは立ちが強めな上に、シングルらしい素直な軽快感はなく、100km/h以上での高速安定性は酷いものでした。強制開閉スライドバルブ式のVMキャブには扱いづらさがあり、キックでの始動性にも難があって、その日は終日、同行者とお互いに押し掛けをし合ったほどでした。

そればかりか、創世記のSRには迷走がありました。翌79年型はタイヤパターンがブロック調からロード調になり、高速安定性はやや好転するも、重く粘るハンドングはますますシングルらしさから程遠くなったものです。

また、79年型に履かされたキャストホイールは不評で、83年型でスポークホイールに回帰。85年型ではレトロカフェレーサー路線を狙って、フロントブレーキがドラム式になり、バックステップが装着されるのです。

そのバックステップには、笑い話のような思い出があります。90年代初頭、久々のSRに試乗、跨って右足をステップに置こうとしたときです。覚えている感覚で右足を落したら、何とそこはブレーキペダルではないですか。ステップがそれだけ極端に後退していたのです。

SRに対する印象を一変させた01年型

SRは名車ならぬ迷車との想いもありました、一転、その魅力に気付く日は20年余り経って訪れました。01年型はそれまでの積み重ねが結実したかのようだったのです。

すでに85年型で前輪が19インチから18インチに、タイヤはメッツラーのME77になっていましたが、01年型は前後リム幅を拡大、前後サスは今日的にしなやかかつ腰があるものになって、コーナリングはナチュラル。ステップ位置は97年型で元に戻されるも、ハンドルは低めを踏襲。大型アップハンドルの初期型よりも前荷重になりやすいことも手伝って、高速安定性もかなり改善されました。

また、キャブは88年型で負圧サーボ式のBSTになり、01年型ではその発展型BSRに変更、点火系の改良もあって、エンジンは扱いやすく、始動性にも気難しさはなくなっていました。おかげで、試乗した伊豆サイクルスポーツセンターでは、都合2時間以上無心に走り回ったものです。

なぜSRが魅力的なのか考えさせられてきた

▲SR400 Final Edition

その後は、03年にスロットルポジションセンサーを装備、09年型でインジェクション化、さらに洗練され、ファイナルエディションへと発展してきたのです。

ともかく、01年型に試乗してからは、なぜ何の変哲もないSRが魅力的で人々に支持されるのか、自分自身に問い掛け続けてきました。走りの機能がSRより優れるミドルシングルは他にもあったはずなのです。多くの人が感じていることでしょうが、それを以下に列挙してみます。

(1)等身大で付き合えるもお手軽でない。

車格もエンジン性能も日常的に楽しめて、プレッシャーを感じさせることもありません。でも、お手軽ではありません。キック始動が要求され、コーナーを見ただけで曲がるわけでもありません。適度にマシンの主張を感じさせるのです。

(2)ケレン味がない。

軽量な単気筒モデルだと、その特質を生かしたハンドリングが狙われがちです。でも、SRはそんな造り手の下心を感じさせず、走りは乗り手次第です。

(3)普遍性がある。

SRには、時を経ても褪せないバイクらしさがあります。飽きないし、基本形ゆえカスタムへの発展性を秘めています。

(4)名車イメージは歴史によって構築されていく。

もし、このSR(最終型)が全くのニューモデルとして、現世に登場したとしたらどうでしょう。諸項目に対しての評価点が今日の水準に及ばず、「何で今さら」との声も聞えてきそうです。SRがポジティブに捉えられるのは、長きに渡りユーザーに支持されてきた歴史があるからに他ありません。

何度かの存続の危機に面しながら、SRは生き延びてきました。排ガス規制への対処、老朽化したクランクケース金型の更新、昔の設計だけに生産も一筋縄ではなかったなど、ヤマハは困難に立ち向かってきました。43年というと新入社員が定年退職を過ぎる年月だけに、ただただ感無量なのです。

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コメント一覧
  1. SRだけでオートバイの魅力の大部分味わうことができます より:

    興味深く拝読しました。

    88に乗ってまして東京の有名ショップに通って初期型500、輸出用500ハイコンプなど色々触れる機会がありました。最近ファイナルを手に入れました。
    GB400TTやSRXⅡ、Ⅳ型等も乗っていましたがSRで一番好きなのはエンジンですね。GB400TTのシングルとは思えないほどブン回るエンジンも好きでしたけど回転の表情が好きというか。

    で、ファイナル乗ってびっくりしたのはエンジンが全く別物にチューンされてた事でした。徹底的にデチューンして乗りやすさだけ残したみたいな。排ガス対策のためとは思いますが。。。最近乗り始めた若い方はSRは遅い、ゆっくり走る実用車みたいなイメージじゃないでしょうか?

    僕にとってSRの本質は輸出用500的なハイパワーなシングルスポーツなんです。Ⅴ型でチューンは無理、という噂は間違いで僕のSRは輸出用500よりもハイパワーで加えてFIの恩恵で乗りやすくチューンしてあります。フロントセッティングとリヤサス交換でとても気持ちよくスポーツできます。スポーツバイクとしても通用する走りができることもオーナーの皆さんには記憶して頂きたいです。

    できればご自身で体感いただきたいなと。

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