
【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】
開催形態が勢力図を一変させた
今年のモトGPは異様です。すでに閉幕したSBKについても言えるのですが、次から次にトップランナーが入れ替わり、一度優勝しても次のレースでは中位に沈んでしまうことも珍しくありません。さらに、ポールポジションから最下位までのタイムが1秒少々に収まってしまうのです。
熾烈化の背景の一つには、COVID19によって開幕が遅れ、同じサーキットで2週続けて開催するダブルヘッダーが多くなったこともあるはずです。
ダブルヘッダーだと、最初の経験を次に生かすことができ、ポテンシャルが高く接近します。以前なら、そのサーキットのノウハウが生かされるのは次シーズンで、時間が経過しマシンも変われば、また一からの始まりになりがちだったのです。
ただ、若手は経験の吸収能力が高くそのメリットを生かせても、ベテランは蓄積してきた経験を生かし切れないばかりか、前週の疲れをリフレッシュできないままとなり、混戦模様を激しくしている面もあると思います。
また、王者マルク・マルケスが負傷で戦線を離れているため、誰にとっても高まる優勝の可能性にモチベーションが高まっているのでしょう。
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マシンが高水準化するとタイム差は小さくなる
全てのマシンの完成度が高まり、性能的に均衡していることも事実です。レースでは限界付近での速さの追求が求められます。
以前であれば、限界を把握し、その状態で走り切るのは厳しく、テクニックと集中力に勝ったライダーが、他を大きく引き離してしまうことが珍しくなかったのですが、今日では限界付近での過渡特性に優れ、タイム差が生じにくくなっているのです。
ライダーがよりプロフェッショナルになっていることも事実
現在のレーシングチームは組織化され、システマチックに統制されています。それからすると、40年前はワークスチームであっても、ライダーの感覚が方向性を決めるプライベートチームであったかのように思えてきます。
デジタル化され、電子制御が高度化されている現在は、データロガーによって、走行データがグラフや数字に現れます。それに基づいてエンジニアが最善策を講じる一方、ライダーは走りそのものも対策しなくてはなりません。
チームの全てがそれぞれの役割を全うしなければならず、ライダーもプロフェッショナルでなくてはならないのです。
また、フリープラクティスでは、ほとんどのチームはレースを前提にしたロングランテストを行います。タイヤの持ちやそれに対する対処法を確認するためです。
でも、20年前だとそれをしっかりこなしていたのは、当時の王者、マイケル・ドゥーハンぐらいだったと聞きます(その結果をライバルが参考するのに業を煮した彼は、テスト結果を外部に出さないことを契約内容に入れたといいます)。
ライダーにとって大変な仕事を、自分とチームのためにこなしていく姿勢も、やはりプロフェッショナルです。
マシン性能が均衡化する一方、特徴も明確に
マシン性能が均衡しても、面白いことに、サーキットや気温によって、今シーズンは優劣が一変することが珍しくありません。風の影響の大小も感じられます。あるメーカーのマシンが揃ってトップ勢に位置したり、逆に下位に沈んでしまうこともあるのです。タイヤがミシュランのワイメイクであるにも関らずです。
ミシュランは今年、リヤの構造とコンパウンドを見直しました。昨年のテストではどのメーカーのマシンにも好結果が得られていたそうです。ところが今シーズン、特にヤマハとドゥカティは高温時の熱ダレがひどくなっているように見受けられます。
それでいて、アラゴンGPのフリープラクティスで気温が低かったとき、ヤマハは上位を独占する半面、ドゥカティは低温グリップにも悩まされていました。
ヤマハはクロスプレーンクランクのおかげで低温時もコントロールしやすく、高温時は不等間隔トルクがタイヤの負担を掛けているのでしょうか。
そして、ドゥカティは不等間隔傾向の強さが低温時のコントロール性を阻害しているのでしょう。何の根拠もない思い付きではありますが、電子制御が進歩し、クランク方式のトラクション性能への影響も小さくなっているのかもしれません。
ともかく、マシンと人の織り成すモータースポーツの面白さが新たに広がっている気がしてならないのです。
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