
【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】
ライダーとチームが優秀なことは当然
ロードレースにおいてSBKのジョサン・レイほど長期に渡って圧倒的な強さを見せるライダーはいませんでした。5年連続で世界タイトルを獲得、さらに今期も現時点のランキングは2位に36ポイント離してのトップなのです。
彼が高いスキルを持ち、闘志溢れるライダーであることは確かです。走りがうまくて冷静にレースを展開しながら、ここぞという勝負どころでは実にアグレッシブです。しかも、レース全体を俯瞰できるクレバーさです。
レイのコメントからも分かるように、ライバルや彼らのマシンの調子を把握し、レース中でさえライバルの走りから装着タイヤのコンパウンドを推測、作戦を立て直すほどです。
クルーチーフのペレ・リバの存在も大きいようです。先日も調子が上がらない際、レイはセッティングを大きく見直そうとしたのですが、リバは乗り方で対処するようアドバイス。その後、一気に調子を取り戻すのですから、チームとライダーのコンビネーションも素晴らしいのです。
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レイのライディングとZX-10Rのハンドリングはマッチングがドンピシャ
ライダーが速くてマシンが優秀なことは確かながら、注目すべきは、ライダーとマシンの相性が抜群なことで、1プラス1が3になっていることです。
レイのライディングは一次旋回と二次旋回が明確です。腰を入れ、そのまま上体を傾けるのではなく、タメが入り、そのことで舵角が付きます。その一次旋回でライバルよりも確実に曲げ、ライバルの上体が倒れ始るタイミングで、まだリーンウィズに近い状態が保たれている瞬間もあります。
そうして、二次旋回で勢いよく上体をコーナーに向けて飛び込ませていくのです。
彼のライディングスタイルは2014年以前のホンダに乗っている頃から変わりません。でも、10Rが乗り方に合っていたことで、徐々に特徴が明確になり、強さに磨きが掛かってきたようです。
実は、10Rのハンドリングは一次旋回と二次旋回が明確かつ、その過渡期にタメを入れやすい特性になっているのです。
10Rのクランク軸は前方低めで、エンジン重心は後方高め
バイクを寝かせるとき、バイクはどこを中心にリーン(ローリング)していくのでしょうか。前後の接地点を結んだ路面上と考えて自然です。
でも、二次旋回以降はそうであっても、一次旋回では違います。寝かし込み初期、ステアリングは一度、逆に切れて(逆操舵操作の有無に関わらず)、それからコーナーに向けて切れます。それは後輪の接地点を中心に前方が扇形を描くような動きです。
すると、一次旋回では、後輪の接地点からフロントフォークに直角に結んだ線を仮想ローリングセンターとする考え方が成り立ちます。
クランク軸によるジャイロ効果は挙動に抵抗を与えますから、仮想ローリングセンターに対するクランク位置が寝かし込み特性に影響します。クランク軸が前方にあるほど、そこは扇形の動きが大きいため、ジャイロ抵抗が大きく安定指向となります。また、低位置ほど抵抗を接地点で受け止められやすく、やはり安定指向です。
また、その抵抗感が前輪の接地感を高める一要素になっているとも思います。ともかく、10Rのクランク軸は他モデルよりも前方下側にあり、寝かし込み初期において安定指向なのです。
もう一つ、エンジンも含めた車体全体の重心位置に対するエンジン重心に注目します。ライダーは車体全体を基準にして、重量物であるエンジンに車体重心があるかのように感じ、ライディングするからです。
ここでは、前輪分布荷重52.5%となる高さ545mmのところに、車輛の重心位置となる黄点を示してみました。これは車両によって大差はないはずです。
赤点のエンジン重心位置はシリンダ前傾角や軸類の配置から割り出した私の勘によるものながら、10Rはシリンダが起き気味であることの影響が大きく、エンジン重心が高めでやや後方にあります。
つまり、一次旋回で抵抗感を生かして曲げ、二次旋回では高めの重心が倒れ込むことによって、タイヤへの荷重と旋回力を高めていくことができるというわけです。
YZF-R1のようにクランク軸が後方高めであれば(CBR1000RR-Rはその傾向が顕著かも)、軽快に寝かし込みやすくて、フルバンクに向かって倒れ込むこともなく、素直なハンドリングを得やすいことも確かですが‥‥。
今年、R1から10Rに乗り換えたアレックス・ロウズが流れるような身体の大きな動きで10Rの旋回力を引き出し切れず、10RからR1に乗り換えたトプラック・ラズガトリオグルが持ち前のコンパクトながらも切れのある動きでR1に苦労しているのも偶然ではないのかもしれません。モータースポーツはやはり奥が深いのです。
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