【ケニー佐川:Webikeニュース編集長】
今のバイクは素晴らしいけれど、昔にも優れた楽しいバイクがいろいろあった。自分の経験も踏まえて「今あったらいいのになぁ」と思うバイクを振り返ってみたい。第4回は「スズキ・GS250FW」について。
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世界初の直4マルチクォーター
今年はカワサキから30年ぶりとなる直4マシン「ZX-25R」が登場するなど、250ccスポーツ戦線がにわかに活気づいている。他メーカーもこれに追従する動きがチラホラと見られるなど、ついに直4ガチ対決の時代が再びやってくるかもしれない。そう期待している人も少なくないはずだ。
その直4マルチクォーター(並列4気筒250ccの意味)として1983年に「世界初」登場したのが、スズキ・GS250FWだった。でも「世界初」の冠が付く割にはあまり知られていないのが悲しいところ。もしかしたら、時代が悪かったのかもしれない。
バイク史に残る戦国時代だった
80年代前半は最もバイクの進化が目覚ましかった時代だ。数年のうちにエンジンは空冷から水冷へ、フレームは鉄からアルミへ、2本サスからモノサスへと目まぐるしく変わっていった。性能第一主義の時代、「味わい」や「ノスタルジー」などという言葉が入り込む余地はなく、新しく出てくるモデルは必ずライバルを上回ることが宿命だった。
参考までに同時代に生まれたマシンしては、打倒RZ250を掲げて4ストVツインで挑んだホンダ・VT250F(82年)、レーサーレプリカブームの火付け役となったスズキ・RG250Γ(83年)、2万回転のジェットサウンドに震えたヤマハ・FZ250フェーザー(85年)などが思い浮かぶ。
GS250FWが生まれた時代は、まさに下剋上さながらのバイク史における戦国時代だったのだ。
ソプラノサウンドに酔いしれた夜
話を戻してGS250FWだが、「世界初」を謳った水冷直4エンジンは250ccクラスとしては衝撃的で、最高出力36psもRZ250やVT250F(共に35ps)を上回っていたし、当時は珍しかったハーフカウル付きで、スチール製ではあるが角断面フレームやスズキ十八番のフルフローター式リヤサスを採用するなど最新感をアピール。
平面で構成されたボディと波打つように美しいS字ラインを描くサイドビューとの調和が印象的で、どこか外車のような雰囲気もあって気になる存在だった。
当時学生だった自分はバイトに明け暮れる日々で、深夜に店番をしていたゲーセンの前はバイク乗りの溜まり場に。駐禁などない時代だ。いろいろな若者たちが代わる代わるやってきては、百円玉をテーブルに積み上げてインベーダーゲームみたいなのに興じている。
そこで知り合いになったひとりにFW乗りがいて、バイクを交換してちょい乗りさせてもらったことがある。ニーゴーとしては大柄な車体でシートもどっかり。サスペンションもふわふわして乗り心地も良かったと記憶している。
鮮明に覚えているのは、ソプラノ歌手が奏でるアリアのように伸びやかで澄み切ったサウンドだ。深夜の繁華街を走りながらひとり悦に入り、浅はかながら皆に聞かせたいと思ったほどだ。スズキもFWの開発では排気音にこだわったらしいが、騒音規制が緩かった時代だからこそあり得たと思う。
一方で、その華やかなサウンドほどは加速性能やハンドリングについては記憶が薄い。
音だけで気持ち良くなれるマシン
FWが「世界初」の水冷マルチクォーターにして、当時のクラス最強であったことは紛れもない事実ではあるが、スポーツとツーリングとラグジュアリーの良いとこ取りを狙ったためか、大柄な車体や豪華装備の数々が結果としてフットワークを鈍らせたのかもしれない。
一世を風靡したフロント16インチやアンチノーズダイブ機構などの技術もその後は廃れ、リヤブレーキもディスク化が当たり前となり、直4マシンは4バルブ化されて2万回転の時代へと突入していく。その意味で、FWは時代の狭間に生まれてしまった悲運のヒーロー(ヒロイン)なのかもしれない。
しかしながら、あの夜に聴いた詠唱は今も心の奥に刻み付けられている。スペックにこだわる必要はない。走っているだけで気持ち良くなれる、優雅なサウンドマシーンが今もあったらなぁ、と思うのだ。
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