【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】

被災地は『探訪ツーリング』の目的地ではない!

この時期、今年もまた水害がニュースを賑わせています。突然、命を奪われた方々には心が痛みますし、被害の深刻さに絶望感に苛まれている人たちのことを思うと、何事もなく過ごしている自分の幸せを実感してしまいます。

私には、この水害について思い出すことがあります。ちょうど2年前、岡山国際サーキットで行われたある走行会に、ゲストインストラクターとして参加したときのことです。

参加者の一人に隣県、広島からの方がいたのですが、彼は2週間前の水害で自宅やその付近に甚大な被害を受けたとのことでした。一度は参加を諦め、実際に主催者にはその旨、連絡も入っていたそうです。
ところが、3日ほど前になって復旧の目途が付き、ロードスポーツが走れる道路も開通、彼のバイクにひどい被害がなかったこともあって急遽、参加を決めたといいます。

前夜のバーベキュー大会では、復旧への安ど感とバイク仲間と一緒にいる解放感が、彼の表情からありありと伝わってきたものです。そして、そんな彼の口からはこんな話が飛び出しました。

「被災地見物にオフロードバイクが何台もやってくるんですよ。しかも、復旧作業の我々の前を、土砂が乾いた後の土煙を巻き上げてね。すごく迷惑だし、いかにも珍しいもの見物という感じには、我慢できませんでした。」

バイクが好きな人であってもそう思うのですから、そうでない人の怒りは相当なものだったに違いありません。復旧ボランティアにバイクで駆け付けた人もおられるはずでしょうが、いでたちや積載物、走り方から、野次馬ライダーとの違いは一目で明らかというものです。

確かに、広範囲が一面ガレキ化したところは、オフロードツーリングには最高のシチュエーションかもしれません。しかも、本来ならあらぬ風景が飛び込んでくるのですから、アドベンチャーツーリングとしても最高でしょう。

でも、これはやってはいけないことだと思います。被災者の傷ついた心を逆なでしているに他ならないのです。
もし、被災地探訪ツーリングを計画している人がいたら、ぜひ思い留まってください。そして、バイクに対する世間の目というものに、心を配っていただければと思う次第であります。

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