【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】
全てのジャンルがマニアック化している
前々回のコラム “MVアグスタCEO 今の高性能バイクはビギナーには危険” で、バイクがマニアック指向を強めてきたことの弊害について書いて1か月足らず、今、私は全てのジャンルにおいて同じことが言えるのではないかと思っています。
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◆MVアグスタCEO 今の高性能バイクはビギナーには危険
コロナ感染拡大防止でステイホームせざるを得ない折、自宅で懐かしの映画やテレビドラマを見る機会が増えたのですが、それらを心地よく鑑賞できることが意外でもあります。それからすると、昨今のものは高度なものを造り上げようとするあまりか、複雑で見終わって疲れがちなことに気付いたのです。音楽にも同じことが言えるかもしれません。
その意味で、全てがマニアやジャーナリストに受けるものを目指してきたと言えないでもないのです。
ジャーナリストとは特殊な人間であることを自覚すべし
これについて、私には思い出すことがあります。
ヤマハヨーロッパのテストライダーだったデイブ・ビーンさんとのことです。私よりも10歳年上で、ヤマハ在籍当時はいろいろと教えてもらい、後に私はジャーナリストという立場で再会したのです。バーに誘われ、いきなり「お前は試乗記をカスタマー(ユーザー)の視点で書いているのか、それともジャーナリストの視点でバイクを見ているのか?」と、聞かれたのです。
「もちろん、カスタマー視点」と答えました。彼が言うには「欧州のジャーナリストは、バイクを自分たちの視点で見てカスタマーを無視、イタリア人はまだいいが、ドイツ人はその傾向が顕著」とのことでした。
それは私が海外試乗を積極的にこなすようになった25年近く前のこと。残念なことにビーンさんはそれから間もなく急逝、私は彼の言い残しを胸に活動してきたつもりです。それはともかく、欧州のジャーナリスト達と仕事をするようになって、彼の言ったことを思い知ることにもなりました。
たとえば、15年前のビモータDB5の試乗会でのことです。それはドゥカの空冷2バルブユニットを搭載するのですが、質疑応答で「なぜ、水冷4バルブを使わなかったのか」と不満げに聞くドイツ人がいたのです。日常域を重視したことは明らかなのに、彼には絶対性能追求が第一義みたいです。若く経験が浅いならともかく、分別の付いた年配の人だっただけに意外でもありました。
また、ホンダのNC700についてドイツ人ジャーナリストと話をしていて、彼は高回転域のパワー感不足を指摘。4000rpm以下のトルクを使って走る特性であることを理解していないのです。
90年代に世界一のスポーツバイクの市場であったドイツは、00年代に入り市場が衰退。高性能指向が若者の参入を拒んだ面もあったのではないでしょうか。
ジャーナリストは一般の人たちよりもバイクに乗る機会が多いだけに、技量も高い人が多いはずです。そうしたジャーナリストが楽しめるものに車輛性格が偏ってはいけないのです。と、自戒の念を込めて、このコラムを書いた次第であります。
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