
【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】
208psの友好ぶりに技術の進歩を実感
208psのネイキッドと聞くと、ゲテモノ趣味的で、とてもまともに走れるシロモノとは思えません。第一、上体が起きたライポジでは、フロントが舞い上がって走れないはずです。ましてや今回のように路面がウェットで、セミレーシングとも言えるディアブロ・ロッソコルサを履いていては、危険と考えて無理はありません。
ところが、この新しいブルターレ1000は普通に楽しめて、おまけに208psの凄さをも堪能できるのです。改めて技術の進歩を実感させられます。
確かに、電子制御で徹底的に余剰のパワーが出ないようにすれば、それなりに安全に走れるかもしれませんが、それでは面白くも何ともないはずです。でも、こいつは208psの凄さをしっかりライダーにアピールしながらも、コントロール下に置けて、自信を持って操れるものとしていたのです。その結果、楽しめたというわけです。
素性の良さと電子制御の妙
この素晴らしさは電子制御なしに達成することはできなかったでしょう。でも、素性がしっかりしているからこそ、電子制御を生かすことができたはずです。
跨れば、素性の良さの片鱗が伝わります。足着き性は良いし、脚で支える車体を軽く感じるのです。ハンドリングも軽快で素直です。コーナーに入っても、昔の重量車のように重さでステアリングが遅れて切れ込んでくる様子は皆無で、素直にラインをトレースでき、修正もしやすいのです。
エンジンは、フリクションを小さく感じ、スロットル操作に従順に加減速してくれます。燃調制御も素晴らしく、そのときのサイクル毎の燃焼圧のパルスが伝わってきて、濡れた路面でも自信を持つことができます。
コーナーでスロットルを開けていくと、トラコンがトルクを制御、魚が尾ヒレを振るようにスライドを繰り返すようになりますが、作動はスムーズでトルクがカットされた感じはありません。まるで自分がスロットルでスライドをコントロールしているみたいで、グリップ状態を把握することができます。
圧巻は1速でのフル加速です。普通ならリヤが滑って前へ進めないところですが、トラコンは最大限のグリップ状態を維持、しかも、8000rpmぐらいで前輪が浮き始め、そのまま14000rpm辺りまで一定のウィリー状態が保たれます。
ウィリーコントロールの秀逸さに加え、ラジエターサイドのウィングによるダウンフォースの効果もあるのでしょう。ダウンフォースは速度の2乗に比例して大きくなるので、安心感を与えてくれるのでしょう。とにかく、身体が後ろに置いて行かれ、前に行こうとするマシンにしがみつき「待ってくれ~」と叫びたくなるほどで、ここまで強烈な加速が続く経験は初めてでした。
スリリングさは本当の面白さではない
私の試乗に付き合ってくれたMVアグスタ社の開発ディレクターであるブライアン・ジレンさんが、このモデルの開発の方向性は、これまでとははっきり方向性が違うと言い切ったことも印象的でした。
エキサイティングさを訴えてくるのではなく、使いこなせると思わせてこそ高性能バイクなのだと改めて思った次第です。
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