【ビッグマシン・ゼロ:文と写真-編集部 取材協力-ピレリジャパン】

似ているようで全く違う。スポーツかツーリングか、そんなイメージで語られることの多いピレリ&メッツラーだが、重なり合うカテゴリーであっても、開発のアプローチは正反対と言っていい。

限界域へと誘うピレリと操る楽しみのメッツラー

イタリアのピレリと、ドイツのメッツラー。これら2つのブランドが同じ会社(ピレリ)に属していることをご存じだろうか。現在はモーターサイクル用のタイヤを専門につくっているメッツラーが、1986年にピレリによって買収されたのが始まり。以降もそれぞれのフィロソフィーを守りながら、優れた製品を生み出し続けている。

今回は本社のセールス&マーケティングを担当するアルド・ニコテラさんにインタビューする機会を得たので、2つのブランドの違いについて聞いてみた。ちなみにアルドさんはかつてピレリジャパンにいたこともあり、時折、日本語も交えてお話ししてくれた――。

▲ピレリタイヤSpA 2輪セールス/マーケティング担当 アルド・ニコテラさん エンジニア出身で'06 年からピレリ。日本で1 年半を過ごした経験があり、普段はアフリカツインを駆る根っからのライダーだ。

さて、それぞれのブランドを端的に表現しているのは、デザインだ。イナズマのようなグルーブを刻んだピレリと、円を基調としたメッツラー。そこにある哲学とは何か。
「現在のピレリが採用している〝フラッシュパターン〟と呼ばれるイナズマのようなデザインは、スポーティさと情熱を大切にするピレリのフィロソフィーを端的に表現しています。限界域でプッシュすることにより最大限のパフォーマンスを引き出せるイメージですね。

“スパコル"が発祥の特徴的イナズマパターン
▲ピレリのハイグリップスポーツの象徴ともいえる“ ディアブロスーパーコルサ" を頂点に、高いスポーツ性と即座に限界域へと到達できるイメージをイマズマ状の“ フラッシュパターン" に託す。

もう一方のメッツラーは、円周率などに用いるπ(パイ)が基調。これは360度すべての方向に、マルチでパーフェクトな性能を持っていることを意味しています。

「π(パイ)」を形どったトレッドパターンを採用
▲トレッド中央に向かってギリシャ文字のπを組み合わせたようなデザインが特徴のメッツラー。360度のすべてにわたってパーフェクトな性能を持つタイヤ、というフィロソフィーを表現している。

タイヤのデザインはバイクのスタイリングを演出するうえでも大切な要素。美しいバイクを表現したいデザイナーと、パフォーマンスを追求したいエンジニアとが、せめぎ合っています(笑)」

同じ会社ということで、テクノロジーやタイヤづくりのノウハウを共有する部分も多いのだろうか? 自信を持って走れる安心感という点は共通しているものの、走りのフィーリングは異なっているように思えるが……。

「共通しているのは、ゼロディグリースチールベルトという円周方向に巻かれたワイヤーコードを用いることでしょう。この技術にいち早く取り組んだことは我々にとって大きな変革であり、現在も2つのブランドにとってバックボーンとなっています。
ただし共通する技術ではあっても、考え方や開発の進め方などのアプローチは各ブランドで異なります。

▲周方向に巻かれたゼロディグリー(0度)スチールベルトの張力を、トレッドの部位によって変える技術。写真はM5 発表時のものだ。

スポーティさが基本のピレリは即座に限界バンク角に到達できる切り返しの速さ、いかに早く限界域に持っていけるかという特性を追求しています。メッツラーの場合は、自信をもってバンク角の変化を感じ取りながら倒し込んでいけるような、愛車を自由自在にコントロールできる楽しみに力点を置きます。切り返しも安心感と自然なバンキングスピードを重視しています。

▲レーシングと直結するピレリ '04 年からスーパーバイクにワンメイクタイヤ供給。そこで得たノウハウをツーリングタイヤにも展開している。

▲メッツラーはストリート指向 ツーリングライダーに愛される“ 安心感" をベースとしたハンドリングは、マン島TT など公道レースでも真価を発揮。

とはいえ、実は最大グリップやラップタイムには差がありません。あくまでも各ブランドのファンが好む乗り方、楽しみ方に合わせてアプローチを変えている、ということなのです」

スポーツタイヤのピレリ、ツーリングタイヤのメッツラーというイメージをお持ちの読者も多いと思うが、まさしく開発のアプローチも出発点はスポーツ性vs安心感となっているようだ。

では、ツーリングタイヤの場合は?
「メッツラーは究極の安全なタイヤを目指していますので、冷えた路面やウエット環境でもきちんと性能を発揮することに重点を置いています。タイヤが仕事をしている感じがしない、その存在を忘れてしまうようなフィーリングが理想と言っていいかもしれません。

一方でピレリは、多少の雨や寒さの中でも積極的に操れるスポーツ性能を求めるお客様に向けて作ります。

一概には言えませんが、スチールベルトひとつ取っても、ベルト同士の間隔からアプローチしていくピレリとベルトの張力からアプローチするメッツラー、といった出発点の違いは、わかりやすい例かもしれません」

ピレリ&メッツラーといえば、年間に延べ100万kmと言われる膨大なアウトドア実走テストを行っているのも特徴だ。開発のステージは多岐にわたり、場所もイタリア国内に留まらない。
「実走テストを行うチームは両方のブランドに関わりますが、それぞれのタイヤが想定する環境に合わせてテスト項目を変えています。この〝環境〟が大切ですので、例えばイタリアとブラジルに全く同じ環境を再現した試験施設を作ったり、アラスカとフロリダなど全く異なる環境でもテストできるようにテストチームを配置したりしています。このように実走テストをとても大切にしていることこそが、実は我々のもっとも大きなアドバンテージなのかもしれません」

開発は同じ拠点で

▲本社の敷地内にあるR&D部門では、あらゆる室内試験が可能。400km/h を超える回転試験機や無音室なども(撮影不可でした)。

自社の歴史を重んじる

▲現在は多目的ホールとして利用、ミュージアムには広告クリエイティブやアート作品なども所蔵される。

PIRELLI DIABLO SUPERCORSA SC


スーパーバイク選手権からダイレクトにノウハウを注入した、溝付きレーシングともいうべきスポーツタイヤだ。

METZELER SPORTEC M9RR


マン島TT で得たノウハウを活用して開発された、100%シリカ採用でさまざまなコンディションに対応できるスポーツタイヤ。

π/イナズマをジャンル別に展開

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コメント一覧
  1. 深井直樹 より:

    vmax1700 1200 両方の車両にピレリとメッツラーを履かせてみた感想です。
    あくまでも僕の感想ですが、vmaxにはメッツラーとの相性が良いです。
    ピレリは全ての速度域で切れ込みがあるので、ハンドルを押さえてましたが、メッツラーに履き替えたら切れ込みが無くなってナチュラルなハンドリングになりました。
    セルフステアで曲がれる気持ち良さは快感でした。

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