
【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】
CBR1000RR-Rに久々に感じるEICMAでの衝撃
今年のEICMAの出展傾向として、125~300ccクラスのベーシックバイクの充実が感じられる。どれもがオシャレで洗練された印象なのだ。また、電動バイクの出展も目立ち、エンジン搭載車ではできない造形美が表現されていた。
とは言え、インパクトのあるエキサイティングなモデルの出現にワクワクするのは、ライダーの性だ。10年余り前だと、こうしたスーパースポーツに衝撃を受けてきたものだが、昨今はそうした興奮からは遠ざかってきた。
その意味で、新しいCBR1000RR-Rは花形的存在の復活を思わせたのだ。
期待を超越していたモトGPマシン度
ここ近年のホンダは、スーパースポーツでさえ、一般ライダーが公道で楽しむためのものといったスタンスを崩していなかった。でも、このRR-Rは、明らかにサーキット走行を楽しむためのものという造り込みを受けている。このことに関し、プロジェクトリーダーの石川譲氏は、「増加傾向のサーキット走行を楽しむライダーの要求や、レースでの要求に応えた結果」だという。
それにしても、ここまで徹底した造り込みを受けていたとは驚きである。正直、エンジンにテコ入れした程度ではないかと予想していたものである。でも、これは、端的に言ってしまえば、RC213V-Sのエンジンを並列4気筒化し、量産仕様としたものと言って差し支えないのではないか。
注入されたRC213Vの技術
まず、完全新設計エンジンのボアは、これまでよりも5mmも大径のφ81mmで、213Vと同じである。しかも、吸排気バルブの成す角度(挟み角)は19度と狭い。これは一つに燃焼室をコンパクトにし熱効率を高めるためだ。213Vと同じ角度を量産エンジンで実現するのは、大変な苦労を伴ったに違いない。その結果、217ps(160KW)を14500rpmで発生するという超高性能ぶりである。ボアの5mm拡大により、シリンダ幅は大きくならざるを得ないのだが、一次減速比を見直すことで軸間距離を詰め、エンジンの前後長はいくらか短縮されているという。
エンジンを前後に短縮しながらも、ホイールベースは50mmも伸び、モトGPマシン並みの1455mmである。高い動力性能とブレーキ力に対して安定性を確保するためである。そのためコーナリングは、一次旋回で舵角を入れるというよりも、深いバンク角で旋回速度を高めていくスタイルに変貌しているはずである。
車体剛性に目を向けても、そうした特性に合わせて、捩りと縦剛性を高めながらも、横剛性を抑える取り組みが見て取れる。フロントフォーク回りも、アンダーブラケット側でしっかり固めながらも、アッパーブラケット側はしならせる方向だ。フロントタイヤのグリップ限界でのこらえ性を高めていると期待できる。
また、リヤサスは、ユニットプロリングが配され、213V同様、一般的なボトムリンク式になったことにも注目できる。そのため、ユニットの上側はエンジンに設けられたボスで支持される。
サーキット指向を高めても、誰にも乗りやすいことは不変のはず
となれば、かなり先鋭化したマシンとの印象を持たれるかもしれない。
でも、思い出してもらいたい。あのRC213V-Sが登場したとき、多くの人はCBRよりも乗りやすいとの印象を持ったのである。だから、ホンダとしても、RC213V-Sの乗りやすさとかコントロール性が、一つの指標になったのではないかと想像する。
そんなわけで、親近感に関しても、私は何ら心配していない。
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