
【ビッグマシン・ゼロ:文-中村友彦 写真-真弓悟史】
初代GT と新作のIIは、似て非なるタイヤだ。もちろん設計が新しいGT IIのほうが優れている部分は多々あるものの、2 つのエンジェルGT に、安易な甲乙は付けられないのである。
目次
どっちにも魅力がある!?安定感が抜群の初代と軽快な動きが魅力のII
▲テスト車にはヤマハMT-09 を使用。グレーの車両にGT IIを、黒の車両にGT を履かせて同時試乗を行った。
目的が同じでも、正解はひとつではないのだなあ……。ピレリのスポーツツーリングタイヤ、エンジェルGTの初代と新作のIIを乗り比べた僕は、しみじみそう感じることになった。
と言っても、エンジェルGTは初代もIIもツーリングや市街地走行を快適にこなせる一方で、スポーツライディングが楽しいタイヤなのである。でもGTとGT IIとは、ほとんど別物?と言いたくなる特性を備えていたのだ。 まずは'14年に登場した初代・GTの説明をすると、このタイヤの特徴は絶大な安定感だろう。具体的には、操作に対する反応がしっとり穏やかで、外乱にすこぶる強く、車体からはビシッと一本筋が全体通ったかのような手応えが得られる。だからこのタイヤを装着すると、乗り手はマシンに身を任せて、どこまでも走り続けたくなるのだ。
では今年から発売が始まったGT IIはと言うと、初代と比較すると明らかに軽快かつダイレクト。操作に対する反応が機敏なだけではなく、車体をバンクさせる際の動きも軽やかだし、直進時の転がり抵抗も少なさそうだ。
ただし、僕はGTを履いたバイクで、過去に何度かワインディングロードやサーキットを走ったことがあって、その際に旋回性に物足りなさ、ハンドリングの重さを感じたことはない。GT IIの動きが軽いのは事実だけれど、GTが重いわけではないのだ。
ちなみに、タイヤを起因とする軽さとダイレクトさは、場合によっては不安につながることがあるが、GT IIにそうした雰囲気は皆無だった。動きが軽くても安定感は十分に備わっているし、接地感の変化がわかりやすいから、GTとは違う意味でマシンを信頼できる。イメージとしては、初代がトレッド面の不要なたわみを抑えているのに対して、GT IIは適度なたわみを有効に活用している感じ。なお、今回のテスト車はアグレッシブな特性のMT‐09で、天気は雨のち曇り。だから当初の僕はやや気が重かったものの、そんな状況でも試乗が楽しめたのは、タイヤがエンジェルだったからだと思う。
もっとも、悪天候を含めた環境変化に対する適応力は、厳密に言うなら、適度なたわみを感じるIIのほうが上なのだが、ウェット性能と冷間時のグリップ力という点では、GTも侮りがたい性能を備えていたのだ。とはいえ、濡れた路面におけるABS/トラコンの利き方はGT IIのほうが自然で(GTは介入がやや早い)、このあたりは設計年度の違いを感じる部分である。
現時点での僕は、僅差でGT IIに軍配を上げたいと思っている。でも人によってはGTの安定感に惹かれるケースもあるだろうし、基本設計が一昔前のメガスポーツやグランドツアラーは、しっとり穏やかなGTのほうが好感触が得られるかもしれない。実際、ピレリがGTをラインナップに残すのは、そうした需要に対応するためだという。
そう考えるとGTとGT IIは、なかなか選択が難しいのだけれど、逆に言うならこのタイヤは、両方の特性を味わってみるべき価値があるのだ。そして、最初のエンジェルGTとしてどちらを選んだ場合でも、後悔することはないと思う。
PIRELLI ANGEL GT
どこまでも走り続けたくなる安定感
初代GT のトレッド面に刻まれたグルーブは、IIと比較すると太くて深い。エッジ部のグルーブ面積が多いことも、IIとの相違点だ。
王道と言うべき乗り味
14 年から発売が始まったGT の最大の魅力は、盤石と言いたくなるほどの安定感。ただしエンジェルシリーズの原点として、'10 年に登場したSTはスポーツ性重視のタイヤだった。
◆PIRELLI:ANGEL GT 商品ページ
PIRELLI ANGEL GT II
レーシングレインの技術を投入
中央に備わる2本の縦溝は、SBK 用レイン/インターミディの技術を転用。この縦溝は、排水性だけではなく、操安性の構築にも貢献。
最上級の万能性を獲得
GT IIの軽快でダイレクトな特性には、原点のSTを思わせるところがあるものの、環境適応能力や乗り心地、耐久性という面で、GT IIはSTを完全に凌駕する性能を獲得している。
重量車とは思えない驚くほどの軽快感
GT IIの魅力を紹介する記事の第一弾として、前号ではハヤブサに装着してのインプレを掲載。装備重量が266kgの車両とは思えないほど、軽快なハンドリングが満喫できた。
◆PIRELLI: ANGEL GT II 商品ページ
SIZE LINEUP
前輪の19 インチはアドベンチャーツアラー用。ピレリが重量車として想定しているのは、R1200RTやFJR1300、VFR1200Fなど、装備重量が300kg前後を超えるモデル。
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