
【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】
※画像出典元:motogp.com
かつてない混戦模様と下剋上の様相
私は多くの方と同じように、モトGP開催日の深夜24:00からのBS日テレの放送を視聴しているのですが、最近はその後の寝つきの悪さに悩まされることしばしばです。
レースが熱く波乱に富み、興奮状態が収まらないのです。ミドルクラスを思わせる過激さで、これまでのプレミアムクラスのイメージではありません。予選のタイム差もトップ10が1秒以内に収まるほどです。
その背景にはまず、どのマシンも完成度が高まり、性能格差が小さくなっていることが挙げられます。ホンダ、ヤマハ、スズキ、ドゥカティのどれが優勝しても不思議ではなく、アプリリアもKTMもその差を埋めています。
さらに、各メーカーのトップライダーだけではなく、若い新鋭たちの活躍が目立ちます。その筆頭がルーキーのファビオ・クラルタラロで、すでに3度もポールポジションを獲得しています。優勝にはもう少し経験が必要かもしれませんが、危なげがなく安定した走りを見る限り、それも時間の問題でしょう。
また、以前の私のコラム、「今では250ccも1000ccも乗り方は同じ?」にも書いたように、マシンの完成度の向上とともに、ライディングにプレミアムクラスの特殊性が減ったことが、混戦模様を激しくしていると思われます。
ベテラン勢の不調も目立つ
一方で、ベテラン勢の不調が勢力図に影響していることも確かです。
あのヴァレンティーノ・ロッシが、6戦ムジェロでホワン・ミルと接触し、さらにそれを挽回しようと転倒。8戦アッセンでは我らが中上貴晶選手のイン側で転倒、巻き込んでしまったのは、らしからぬ事態です。さすがのロッシも年齢の限界とは思いたくありません。
ホルヘ・ロレンソは、もっと深刻です。序盤から波に乗れず、6戦ムジャロの後に、日本のHRCを訪問し、対策を話し合ったそうです。で、7戦カタルニアでトップ集団に絡んできたかと思いきや、ロッシ、ビニャーレス、ドビチオーゾをなぎ倒しての転倒です。
しかも、翌日のテストでも転倒し、8戦アッセンのプラクティスで転倒して負傷、戦線離脱を余儀なくされたのです。
彼の場合は、フィジカル面での不調が見て取れます。彼は数年前、骨折した鎖骨を手術で固定して翌日のレースに出場。さらに再手術して出場を絶やさなかったという超人ぶりを発揮しましたが、そのしわ寄せが今になって現れても不思議ではありません。実際に走りもヤマハ時代と比べ、しなやかな切れのある体重移動が鳴りを潜めています。
RC213Vも安閑とはしていられないのか
また、ロレンソはマシンとの相性が良くないかもしれません。それに、絶対的な安定感と完成度を思わせるチャンピオンマシンRC213Vですが、ライバルマシンの台頭によって、弱点が露呈してきたとも感じます。
それは、1次旋回から2次旋回への過渡期、1.5次旋回とも呼ばれる部分です。フロントへの荷重で旋回力を引き出しやすいヤマハやスズキに対し、しなやかでバランスの良い車体を利してこなしていたホンダも厳しくなり、その弱点を補うために車体に何かしらの手が打たれたことがあだになっているのかもしれません。
どちらかというと、剛性アップの方向だったのでしょうか。
ランキングトップのマルク・マルケスは、以前と比べ、身体の伸縮がダイナミックになっており、それに対処している印象もありますし、8戦アッセンで通常よりソフト寄りのタイヤを選んだのも、接地感を補うためだったのかもしれません。
ただ、ロレンソの場合は、身体の伸縮がマルケスとは逆なのです。そのことに関しては、「ライテク都市伝説を斬る。その7」で触れていますので、参考にしてください。そのため、リズムが噛み合わないと思われます。
その意味で、昨年のペドロサが抱えていた問題や、7戦カタルニアのカル・クラッチローの転倒にも通じるのではないでしょうか。コラムで触れた4スタンス理論において、マルケスはB2タイプですが、ロレンソ、ペドロサはA2、クラッチローはA1タイプなのです。
頑張れ、中上貴晶
中上選手は、安定して上位に名を連ね、確実に成長を見せてくれています。彼はB1タイプで(ホンダ勢で頑張るジャック・ミラーもB1)、身体の伸縮リズムがマルケスと同じなことも、幸いしています。
ただ、彼の身体操作は骨盤主導ではなく、肩甲骨主導のきらいがあります。股関節をトリガーにした動きが、骨盤を経て脊髄を上側に伝わっていくことに変わりはなくても、腰の操作よりも肩の操作で完結させようとしているかのようです。
そのことがRC213Vで他のライダーのように調子を崩していないことに繋がっているのかもしれませんが、トップグループに食い込むにはその点を克服しなければならないでしょう。
もっとも、確実に良くなっていることは確かで、それだけに期待したくなるのです。
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