【ビッグマシン・ゼロ:文-中村友彦 写真-渕本智信/ピレリジャパン】

'10年のSTに端を発するピレリのエンジェルシリーズは、'14年に登場したGT を経て、今年度からGT IIに進化。レーシングレインの技術を転用したこのスポーツ&ツーリングタイヤは、果たして、どんな性能を備えているのだろうか。

安定性重視の先代とは大きく異なる方向性

▲ANGEL GT II 税込価格:オープン ■対応機種:400cc~ビッグバイククラスのオンロードバイク

レーシング&ハイグリップスポーツの世界で絶大な支持を得ている、ディアブロ(イタリア語で悪魔という意味)シリーズとの差異を明確にするため、近年のピレリはスポーツ&ツーリングタイヤに、エンジェルという名称を使っている。
その最新作として、今春から発売が始まるGT IIと対面して、なるほど、やっぱりそう来たか……と僕が思ったのは、トレッド表面に刻まれた溝が、先代のGTより増えていることだった。

と言うのも、今どきのスポーツ&ツーリングタイヤは、一部のメーカーを除くと溝面積を拡大する傾向で、ピレリと同じグループのメッツラーも、Z8Mの後継として'16年に発売を開始したロードテック01では、大幅に溝を増やしていたのだ。
ただしGT IIの場合は、縦方向が刻まれた2本の溝が、中央部をぐるりと一周するという特徴があって(リヤは断続的だが)、このトレッドパターンはスーパーバイク世界選手権で使用している、レース用レインタイヤで得た技術のフィードバックだと言う。

もちろん、溝面積拡大の主な狙いは、ウェット性能の向上である。とはいえ近年では、溝面積拡大によって走行中のトレッド面が変形しやすくなることに着目し、その現象を軽快な操縦性や暖まりの早さに結びつけているスポーツ&ツーリングタイヤも存在するのだ。では果たして、溝面積を拡大したGT IIが、どんな特性を備えていたかと言うと……。
なるほど、やっぱりそう来たかと、もう1度言いたいところだが、GT IIの乗り味は僕の予想の上を行っていた。まず押し引きと低速走行での転がり抵抗は相当に少なく、車体がスルスル前に進んで行くし、曲がり角や進路変更で感じる車体の動きは、最初はちょっと戸惑いを感じるほどキビキビ。
写真を見ていただければわかるように、今回のテスト車はハヤブサだったのだが、試乗中の僕は266㎏という装備重量を意識する場面に、まったく遭遇しなかった。

なお〝僕の予想の上〞をもう少し詳しく説明しておくと、先代のGTに安定指向という印象を抱いていた僕は、GT IIの広報写真を見た段階で、軽快感のほうに舵を切ったんじゃないか、と感じていたのである。そしてそのヨミは正解だったわけだが、実際のGT IIの乗り味は、僕の予想よりはるかに軽快だったのだ。

前輪で注目するべきは中央の2本の縦ミゾ

▲近年のラジアルタイヤの世界では、ハイグリップスポーツ:溝面積縮小、スポーツ&ツーリング:溝面積拡大という傾向があって、基本的にはピレリもこの傾向に準じている。

後輪のトレッドパターンはエンジェルらしさを維持


外観の印象がガラリと変わったフロントに対して、リアは先代に通じる雰囲気を維持。中央部のGT の文字に加えて、左右エッジ部にはバンクセンサーとして使える製品名を刻印。

レース用レインタイヤから排水性の技術を転用


<FRONT>
トレッド表面の溝面積を拡大する手法は各社各様だが、エンジェルGT IIは、スーパーバイク用レインタイヤの技術をフィードバックする形で、中央部に2本の縦ミゾを配置。


<REAR>
フロントのようにぐるりと一周はしていないものの、リアも中央部に2 本の縦ミゾを配置。ただしその一方で、左右エッジ部の溝面積は、先代より少なくなっているようだ。

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環境変化に強く 攻める走りを強要しない

さて、軽快感の話がずいぶん長くなったけれど、GT IIは環境変化に強い、と言うより、環境変化をほとんど意識する必要がないタイヤだった。具体的には、ドライ路面とウェット路面、冷間時と温間時のフィーリングに大きな差がないし、舗装状況が芳しくない県道や農道などを走っても、車体姿勢の乱れはほとんど感じない。
言うまでもなくこの特性は、事情がわからない道を走るロングツーリングに最適で、走行距離が伸びれば伸びるほど、GT IIに対する信頼度は高まっていくはずだ。

ただしそういうタイヤは、峠道でスポーツライディングを楽しもうとすると、何らかの物足りなさを感じることがあるのだが、そこはやっぱりピレリである。
さすがにディアブロシリーズのような、フロントタイヤの絶大なグリップを駆使した豪快な突っ込みはできないけれど(そもそもツーリングで、そんな乗り方をするライダーはいないだろう)、GT IIならではの軽快感を有効に使えれば、コーナーの前半では車体の向きがアッという間に変わるし、立ち上がりでアクセルを開ければ、リアタイヤの接地面が程よい塩梅でつぶれ、濃厚なトラクションが味わえる。

もっとも興味深いことに、GT IIは峠道を走っている最中に、コーナーを攻めたい!という欲望が湧いて来るタイヤではなかった。このあたりは、気持ちよさそうな峠道に入った瞬間に、自動的に脳内のヤル気スイッチが入ってしまうディアブロシリーズとは対照的で、おそらくピレリは、コーナーを本気で攻めるのではなく、コーナーを軽やかにこなすことを念頭に置いて、このタイヤを開発したのではないだろうか。

と言っても前述したように、GT IIで走る峠道は十分に楽しかったのだが、今回の試乗では我ながら意外なことに、僕の視線は目前の道路だけではなく、周囲の木々や雲の流れ、遠くに見える海岸線や街並みなど、風景にも向けられていたのだ。

こういったキャラクター設定を、どう感じるかは人それぞれだが、目的意識を明確にして、ディアブロシリーズとの差別化を図るという意味では、僕は大いにアリだと思う。改めて考えると、現在のディアブロシリーズは4種類で、ハイグリップスポーツの選択肢は潤沢に揃っている。
だからこそ、ピレリはここまで割り切った、スポーツ&ツーリングタイヤを作れたのかもしれない。

タンデムライディングも至って快適


環境変化に強く、悪路でも車体姿勢がほとんど乱れないエンジェルGT IIは、タンデムライディングも至って快適。他のタイヤではおっかなびっくりになってしまうような状況でも、ま、それはそれで……という感覚で、淡々と走って行ける。

サイズ


ミドル以上のありとあらゆるバイクに対応するべく、エンジェルGT IIは多種多様なサイズをラインアップ。フロント用の19 インチは、アドベンチャーツアラーに適合。
※(A)は重量級モデルに対応した強化カーカスを使用

PIRELLI


イタリア人のジョバンニ・バッティスタ・ピレリが、1872 年にミラノに創設したピレリは、1890 年代からタイヤの販売を開始(処女作は自転車用だった)。バイク好きにとっては、2004 年からスーパーバイク世界選手権に供給しているワンメイクタイヤが有名だが、同社は昔からモータースポーツに熱心なメーカーで、1907 年の北京~パリ自動車横断ラリーで優勝を飾って以来、4輪のF1やWRC を筆頭とする数多くのレースで栄冠を獲得して来た。

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