マルク・マルケスの強靭な肉体と精神力も仇となる

【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】

信じられない手術後4日での復帰

1カ月前のトピックス「スペインGPで右腕骨折のマルケス その後の回復ぶりが超人すぎる」で紹介されたように、7月19日のモトGPクラスの開幕戦、スペインGPにおいて、マルケスは右上腕骨を骨折。2日後にプレートとビスを埋め込む手術を受けながら、その4日後にアンダルシアGPのフリープラクティスに参加したのです。

結局は不参加を表明するのですが、走行許可を得るためのメディカルチェックでは腕立て伏せ20回をこなし、写真のようにフルブレーキングでジャックナイフさせるほどの走りを見せています。推定、1.2~1.3G程度の減速Gによって、受傷部への負荷も相当だったはずです。右肘が下がって見えるのは、上腕骨が捩じられるのを避けている(プレートが曲げに強度を発揮しても、ねじりには弱い)のかもしれませんが、いずれにせよ、あり得ないことなのです。

執筆者のケニー佐川氏には、その数日後に会う機会があったのですが、そのことについて私はただ「信じられない」と言ったものです。

そもそもは土台が固まらないと筋力は発揮できない

信じられないと思うのは、他でもありません。私は現役ライダーだった33年前に同じ右上腕骨を骨折、今もプレートとビスが入ったままになっているからです。当時、早い復帰を目指しリハビリに励もうにも、2か月経っても全く力が入りません。壁に向かって身体を30度くらいの角度で腕立て伏せするのもままならならず、激しい不安に駆られたものでした。

医者によると「筋肉が付着した骨が固まっていないのだから、たとえプレートで固定されていても力が入らなくて当然」とのことでした。結局、腕立て伏せができるようになったのは3カ月を過ぎた頃で、レース復帰は4か月後だったのです。外部に対して力を発揮する筋肉が付着していない鎖骨の場合とは、事情が違うのです。
それを手術後すぐにこなすというのは、人間技ではありません。世界チャンピオンの精神力は並の人間とは違うとしか思えないのです。

結局は、復帰に4か月を要する

彼が出走を取りやめたのは、「肘が落ちた」とのコメントが伝えられるように、固定部が動いたことに違和感を覚えたのでしょう。それでも、その後も激しいトレーニングをする様子が伝えられてきました。

ただ、それも限界を迎えたようです。自宅で窓を開けようとしたとき上腕部に激痛が走ったといいます。上腕骨が捩じられたのでしょう。急遽、8月3日の再手術でプレートとビスを交換。チタンプレートが金属疲労を起こし曲がっていたといいますから、トレーニングで相当な繰り返し荷重が掛かっていたのでしょう。

これにより、回復は少なくとも2週間は遅れることになります。結局、8月22日には、完治するまであと2~3か月必要で、それまでは出場を見送るとの声明が発表されたのでした。11月22日のポルティマオでの最終戦に間に合えばいいところで、受傷から4か月と考えれば、妥当な線に落ち着くと言えます。

彼は術後4日で走るべきでなかった

結果論ではありますが、彼は術後4日で走ってはいけなかったことになります。でも、ライダー本人、チーム、HRC、医師団の全てがベストを模索した結果であったことも確かです。ただ、最強のライダーと最強のライダーを擁するチームゆえの、判断が裏目に出たと言えなくもありません。

そして、はっきり言えるのは、もし私が監督を務めるチームのライダーが同じような状況に置かれたとしたら、私は彼を走らせなかったということです。

和歌山利宏

和歌山利宏 モーターサイクルジャーナリスト

投稿者プロフィール

1975年にヤマハ発動機に入社。ロードスポーツの開発に携わる。
レーシングライダーとしても活躍し、鈴鹿8耐第4回大会では4位入賞。
85年からはヨコハマゴム契約となり、タイヤの開発テストを行うとともに、
ワイルドカード参戦した87年の日本GPでは、250ccクラスで11位に入る。
90年からはジャーナリストとしての活動を始め、現在に至る。

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