モトGPでの中上貴晶選手の進境の著しさに感嘆、感激

【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】

世界が思い知った中上選手のパフォーマンス

モトGP第6戦、スティリアGPはすごく残念で、私は寝付きの悪い夜を迎えてしまいました。我が中上選手は2位を確実にし、トップをも窺おうかというとき、17周目のレッドフラッグで中断。残り12周の第2レースでは、使えるタイヤが残っておらず(本数制限があるため)、タイヤをそのままで臨むも、7位に終わったのです。

残念と言えば、初優勝の可能性があったスズキのホアン・ミラー選手も、フロントにバックアップがなく、4位となりました。中断の原因はマーベリック・ヴィニャーレス選手のフロントブレーキが過熱で効かなくなり、マシンがバリアに激突、炎上したためです。ヴィニャーレス選手は身体を後方に移動する瞬間を逃さずに飛び降り、事なきを得たのですが、あの瞬間を逃したら飛び降りるに飛び降れない状況になって不思議でないだけに、彼の動物的な直観にも感心させられたものです。

さて、余談はともかく、今シーズン開幕後の中上選手の進境の著しさには驚かされるものがあります。第2戦(モトGPクラスは開幕戦)での10位には昨年並みとの思いもあったのですが、第3戦では自己最高位の4位に入賞、そして第6戦では予選でセカンドポジションを獲得、決勝ではトップグループで素晴らしい走りを見せたのです。

昨年から大きく変貌した走り

私が感心させられるのは、結果ではなく、彼の走りの変化です。

1年前、コラム「モトGP戦線異状アリ」において、私は彼の走りにも言及しました。「彼の身体操作は骨盤主導ではなく、肩甲骨主導のきらいがあります。股関節をトリガーにした動きが、骨盤を経て脊髄を上側に伝わっていくことに変わりはなくても、腰の操作よりも肩の操作で完結させようとしているかのようです」と書いています。

ところが、昨今の彼の身体操作は、理想的な骨盤主導に変貌しています。今年の走りの美しさからすると、昨年の走りは肩でマシンの状態を決めてしまっているかのようです。ブレーキングでも、昨年はジャックナイフしそうになるマシンを肩で安定させているようにも見えましたが、今年は体幹で動きを吸収しています。

これは本人からすれば別世界のはずです。神経をすり減らしていた昨年に対し、今年は乗っていて快適で、はるかに高い集中力が保たれているに違いありません。

彼のような最高峰クラスのライダーにもテクニック開眼はある

国内外のネットニュースでも紹介されているように、中上選手はHRCのエンジニアとともにロガーのデータをマルク・マルケス選手のものと比較分析したそうです。そこで明らかになった違いは、マルケス選手がブレーキング開始時にリヤブレーキをしっかり使っていることだったといいます。

ひょっとすると、それまでの中上選手は、ブレーキングはフロントを主体に考え、ブレーキング開始直後の減速Gを肩で受け止め、その態勢をもとにコーナリングでの身体操作が行なわれていたのかもしれません。でも、今はリヤの接地感とマシンの挙動を腰で感じ取り、コーナリングが始まっているかのようです。

彼のような最高峰クラスのライダーであっても、走りへの探求心は尽きず、かようにテクニック開眼しているのですから、これは多くの人たちに励みになると思います。

彼には、まだまだ伸び代があると感じます。きっと彼はマルケスの走りをイメージしているはずです。マルケスが復帰したら、今後はマルケスをもっと長い時間、至近距離で観察できることでしょう。ますます応援したくなるではありませんか。

和歌山利宏

和歌山利宏 モーターサイクルジャーナリスト

投稿者プロフィール

1975年にヤマハ発動機に入社。ロードスポーツの開発に携わる。
レーシングライダーとしても活躍し、鈴鹿8耐第4回大会では4位入賞。
85年からはヨコハマゴム契約となり、タイヤの開発テストを行うとともに、
ワイルドカード参戦した87年の日本GPでは、250ccクラスで11位に入る。
90年からはジャーナリストとしての活動を始め、現在に至る。

この著者の最新の記事

           

ページ上部へ戻る