賀曽利隆が選ぶ日本の100峠(北海道・東北編)

【賀曽利隆:冒険家・ツーリングジャーナリスト】

バイクを走らせての「峠越え」は我がライフワーク。1975年に峠越えを開始して以来、現在までに1726峠を越えた。その中から、北海道から九州までの100峠を選んでみた。「賀曽利隆が選ぶ日本の100峠」。絶景峠、国境峠、歴史峠の100峠である。峠を意識して日本をまわると、ツーリングはよりおもしろいものになる。

北海道編

1、塩狩峠(北海道)260m

▲塩狩峠。このすぐ下にJR宗谷本線の塩狩駅がある。樹林の中には「塩狩峠記念館」が見える

国道40号の天塩・石狩国境の峠。塩狩は天塩と石狩の合成語。北海道の国境の峠を見ていくと、旧国の渡島、後志、胆振、石狩、天塩、北見、日高、十勝、釧路、根室、千島の11ヵ国がよくわかる。塩狩峠の峠上にはJR宗谷本線の塩狩駅があるが、ここは三浦綾子の名作『塩狩峠』の舞台。暴走した客車を主人公が身をもって止めたという実話にもとづいた小説。三浦綾子の旧宅が「塩狩峠記念館」になっている。以前は峠上に塩狩温泉の温泉ホテルがあったが、残念ながら今はない。

2、石北峠(北海道)1050m

▲石北峠。峠から国道39号の終点、網走までの北見路は110キロ

国道39号の石狩・北見国境の峠。旭川から石北峠に向かうと、名勝の層雲峡を見ながら走り、石狩川の峡谷、大函も国道のすぐ脇で見られる。石狩川の大雪ダムの大雪湖を過ぎると一気の登りで峠に到達。急カーブ、急勾配の峠道を下ると北見の平原を貫く一直線の道を走り、留辺蘂から北見に通じている。石狩側の上川で分岐する国道273号は石北峠の北の北見峠(837m)を越えて、滝上から紋別に通じている。旭川紋別自動車道も北見峠を越えている。

3、三国峠(北海道)1139m

▲三国峠。国道237号の十勝側の眺め。峠周辺の紅葉は見事だ

国道237号の十勝・石狩国境の峠。北海道最高所の峠になっている。峠近くの三国山(1541m)は石狩・北見・十勝の3国国境。以前はロングダートだったが、今では全線舗装の山岳ハイウェイ。冬期も通行可。峠のトンネル手前の展望台(十勝側)に立つと、右端のニペソツ山(2013m)から左端のビリベツ山(1602m)までの間に連なる山々を一望。まさに「北海道の屋根」といった風景。峠の茶屋の「ソーセージカレー」は美味。トンネルを抜け、十勝から石狩に入ると、そこは北海道第一の大河、石狩川の源流地帯。石狩川の大雪ダムで国道39号に合流する。

4、知床峠(北海道)740m

▲知床峠。峠の頂上から羅臼岳を見る

知床半島横断道路(国道334号)の根室・北見国境の峠。冬期は閉鎖。羅臼から知床峠に向かっていくと、女性のふくよかな乳房そっくりの形をした羅臼岳(1660m)を見ながら走る。峠道の5合目、6合目、7合目…と過ぎ、峠の頂上に到達。目の前には羅臼岳が聳えている。頂上近くの溶岩ドームがよく見える。羅臼の海の向こうには国後島が長々と横たわっているのが見える。まるでいくつもの大島が連続しているかのようだ。知床峠を下るとオホーツク海のウトロに出る。

5、根北峠(北海道)490m

▲根北峠。残雪の峠道。正面には知床半島の雪山が見えている

国道244号の根室・北見国境の峠。斜里峠ともいわれる。根室側の標津から峠に向かう国道244号は大平原を貫く一直線の道。山中に入ったあたりで左に入る道を行くと、男女別無料露天風呂の川北温泉がある。2車線の峠道は山中に入ってもゆるやかな勾配、ゆるやかなカーブ。いかにも北海道らしい峠道だ。根北峠を越えて北見側を下っていくと、左手には斜里岳(1545m)が見えてくる。山麓の一帯は大規模農業の広々とした畑作地帯だ。

6、美幌峠(北海道)490m

▲美幌峠。峠の展望台からの眺め。日本最大のカルデラ湖、屈斜路湖に浮かぶ中島が大きく見える

国道243号の釧路・北見国境の峠。屈斜路湖畔から美幌峠を登っていくと、快適なワインディングルートを走る。登るにつれて、どんどんと見晴らしがよくなる。美幌峠に到達すると、左手に斜里岳(1545m)を望み、正面の山並みの間には摩周岳(857m)が見える。眼下には屈斜路湖が広がっている。その中にはぽっかりと中島が浮かび、和琴半島がチョコンと湖に突き出している。その右手には薄っすらと噴煙をあげる硫黄岳(512m)。峠を覆いつくすクマザサが風に揺れてカサカサ鳴っている。屈斜路カルデラ外輪山の美幌峠は北海道一の絶景峠だ。

7、狩勝峠(北海道)644m

▲狩勝峠。十勝側から石狩側へと狩勝峠を越える。快適な峠越え

国道38号の石狩・十勝国境の峠。富良野から帯広に向かうと、まずは樹海峠を越える。峠の周辺はきれいな樹林。次に狩勝峠を越える。峠の展望台から石狩側を眺めると、幾重にも重なった山並みを見る。十勝側に目を向けると、茫洋とした大平原が広がっている。日本離れした大平原の風景だ。峠を境にして石狩の稲作地帯から十勝の畑作地帯へと劇的に変わっていく。十勝に向かう大型トラックは大半が狩勝峠の南の日勝峠(1020m)を越えるので、交通量の少ない狩勝峠は快適に越えられる。

8、深山峠(北海道)288m

▲深山峠。峠は「上富良野八景」になっている。十勝岳連峰の山々がよく見える

国道237号の峠。旭川から富良野に向かうと、まずは美瑛町と上富良野町の境の美馬牛を越え、次に深山峠を越える。ともに北海道らしいゆるやかな登り下りの峠道。深山峠は蝦夷地探検家の松浦武四郎ゆかりの地。蝦夷地を「北海道」と命名した松浦武四郎だが、その足跡は北海道遺産になっている。深山峠の峠上には深山峠PAがある。ホテルやレストランもある。峠の展望台からはラベンダー畑越しに、十勝岳(2077m)を主峰とする十勝岳連峰を一望する。

東北編

9、傘松峠(青森)1040m

▲傘松峠。青森から傘松峠を越えて十和田湖へ(撮影:巣山悟)

北八甲田と南八甲田を分ける国道103号の峠。冬期は閉鎖。青森の市街地から行くと、雲谷高原を通り、萱野高原まで登ると八甲田の峰々を一望する。「雪中行軍遭難者銅像」は萱野茶屋の先で左折。県道40号を行ったところにある。ブナ林の中の国道103号を走り、千人風呂で有名な酸ヶ湯温泉に着く。そこからゆるやかなアップダウンを繰り返し、傘松峠に到達。峠をわずかに下った水蓮沼からは八甲田の主峰群を目の前に見る。峠を下り、奥入瀬渓流入口の焼山で国道102号と合流する。

10、発荷峠(秋田)631m

▲発荷峠。十和田湖の対岸には御鼻部山が見える(撮影:巣山悟)

国道103号で越える十和田カルデラ外輪山の峠。発荷峠の周辺は東北有数の紅葉の名所。国道脇の展望台からは十和田湖を一望する。湖に突き出た中山半島と御倉半島がよく見える。十和田湖の対岸は御鼻部山(1011m)。そこにも展望台がある。十和田カルデラ外輪山の峠にはそのほか滝ノ沢峠、鉛山峠、見返峠があるが、発荷峠が一番の絶景峠だ。

11、妻恋峠(秋田)

▲妻恋峠。寒風山パノラマラインを登りつめて妻恋峠に到達。ここから寒風山の山頂へ(撮影:巣山悟)

寒風山パノラマラインの県道55号の峠。峠から回転展望台のある寒風山(354m)の山頂まではバイクで登れる。寒風山はかつては妻恋山ともいわれたが、山頂からは大パノラマを楽しめる。まるで実物大の地図を見ているかのようで、男鹿半島を一望する。真山、本山、毛無山の男鹿三山がよく見える。登ってきた妻恋峠の曲がりくねった峠道を見下ろせる。目を南側に向けると、秋田方向にスーッと長く延びる日本海の海岸線を一望。雄大な気分になる。

12、見返峠(岩手・秋田)1541m

▲見返峠。八幡平アスピーテラインの秋田県側を走る。これぞ日本一の絶景路!(撮影:巣山悟)

八幡平アスピーテライン(県道23号)の岩手・秋田県境(奥羽国境)の峠。岩手・秋田両県の最高所峠。冬期は閉鎖。峠の展望台からは、岩手富士の岩手山(2038m)が大きく見える。秋田県側の大深沢展望台(1560m)からは幾重にもなって重なりあった山並みを一望。一番奥には鳥海山が見える。見返峠の駐車場にバイクを置いて、八幡平(1613m)の山頂まで行くのはおすすめ。徒歩約30分で山頂に到達。山頂の展望台からは360度の大展望が楽しめる。

13、巣郷峠(岩手・秋田)296m

▲巣郷峠。巣郷峠の岩手県側には巣郷温泉がある。峠の温泉だ

国道107号の岩手・秋田県境(奥羽国境)の峠。通年通行可。峠上は平坦で、岩手県側には巣郷温泉の温泉宿や「峠の湯」など日帰り湯の温泉施設がある。「でめ金食堂」もある。岩手県側の峠下には湯田温泉郷がある。奥羽山脈越えのトンネルのない峠で、通年越えられる峠はほとんどない。岩手県側に下れば北上、秋田県側に下れば横手。秋田自動車道も巣郷峠の近くを通っている。

14、笹谷峠(宮城・山形)906m

▲笹谷峠。宮城県側から笹谷峠に向かっていく

国道286号の宮城・山形県境(奥羽国境)の峠。冬期は閉鎖。笹谷峠は奥羽(奥州と羽州)を結ぶ最古の峠。その名の通り、クマザサが峠を覆いつくしている。笹谷峠は宮城県側から越えたらいい。峠道を登りつめて山形県側に立つと、大展望が開け、幾重にも重なり合った山々を一望する。思わず「おー!」と声が出るほど。峠近くの稜線上には有耶無耶の関跡がある。笹谷峠を貫いて山形道の笹谷トンネルが通っている。

15、刈田峠(宮城・山形)1570m

▲刈田峠。山形県側の蔵王エコーラインで刈田峠へ

蔵王エコーライン(県道12号)で越える宮城・山形県境(奥羽国境)の峠。刈田峠は宮城・山形両県の最高所峠。北蔵王と南蔵王に分けている。刈田峠からは南蔵王を一望。中央火口丘の馬ノ神岳や前烏帽子岳、後烏帽子岳、屏風岳、不忘山とつづく外輪山を見る。刈田峠からリフトで北蔵王の刈田岳(1758m)に登れる。目の前には蔵王の御釜。蔵王連峰の最高峰、熊野岳(1843m)も正面に見える。宮城県側の蔵王ハイライン(有料)でも刈田岳に登れる。

16、金山峠(山形・宮城)580m

▲金山峠。羽州街道の金山峠。ここには古道の山道も残されている

羽州街道(県道13号)で越える宮城・山形県境(奥羽国境)の峠。峠の宮城県側には白石川の源となる「鏡清水」がある。江戸時代、弘前の津軽氏など奥羽13藩の大名行列がこの峠を越えたが、大名行列の姫たちは清水に顔を映して鏡がわりにしたところから「鏡清水」の名がある。金山峠の歴史を感じさせる「鏡清水」だ。山形県側に下ったところには楢下宿。羽州街道の宿場町の風情がよく残っている。宮城県側に下ったところには白石川の滑津大滝がある。

17、鳩峰峠(宮城・山形)840m

▲鳩峰峠。鳩峰峠の頂上で小休止したあと、山形県側の高畠に下っていく

国道399号で越える福島・山形県境(奥羽国境)の峠。福島県側から山形県側に下るのがオススメだ。峠は絶好の展望台で、山形県側の眺めがすばらしい。眼下に米沢盆地を見下ろし、その向こうに連なる山並みを見る。左手に連なる飯豊連峰、右手に連なる朝日連峰の山々を見ながら九十九折の峠道を下っていく。交通量極少。気分よく走れる。峠を下ると高畠の町に入っていく。

18、白布峠(福島・山形)1404m

▲白布峠。福島・山形県境の白布峠に到達。福島県側の下りは絶景シーンの連続だ

西吾妻スカイバレー(県道2号)で越える福島・山形県境(奥羽国境)の峠。福島県の最高所峠で冬期は閉鎖。白布峠は山形側から福島側に越えたらいい。白布温泉から最上川源流碑の前を通り、白布峠へ。紅葉の季節だと山々は一面、赤や黄に染まる。峠を越えて福島県側に下ると足下には桧原湖が見えてくる。その向こうには、パックリと爆裂火口が口を開けた磐梯山(1818m)が見える。白布峠の下りは急勾配のワインディング。飯豊連峰が見えるコーナーもある。峠を下ると裏磐梯の桧原湖畔に出る。

19、土湯峠(福島)1240m

▲土湯峠。ここから絶景路の磐梯吾妻スカイラインが始まる

国道105号の旧道で越える峠。吾妻山と安達太良山の間を越えていく。新道は長大なトンネルで峠を抜けているが、旧道で峠上に立つと会津の山々を一望。正面には会津のシンボルの磐梯山(1818m)が見える。峠から稜線上を行けば、絶景ルートの磐梯吾妻スカイラインに入っていく。土湯峠の周辺には幕川温泉、鷲倉温泉、赤湯温泉、新野地温泉、野地温泉の名湯、秘湯がある。

20、御霊櫃峠(福島)830m

▲御霊櫃峠。福島県の中通りと会津を分ける峠。会津側を下ると猪苗代湖の湖畔に出る

舗装林道の御霊櫃林道で越える奥羽山脈の峠。かつてはロングダートの峠道だったが、今では全線が舗装路。峠上には駐車場がある。前九年の役(1051年)の御霊櫃伝説が伝わるこの峠から会津側に目を向けると、山間には猪苗代湖が見下ろせる。中通り側を見ると郡山盆地が広がっている。目の前の山には簡単に登れるが、そこからは大展望を楽しめる。

21、勢至堂峠(福島)650m

▲勢至堂峠。この歴史峠を境にして会津街道は白河街道に変る

会津街道(国道294号)で越える奥羽山脈の峠。会津街道は奥州街道の白河宿と会津若松を結ぶ街道だが、勢至堂峠を越えた会津側では白河街道といわれる。同じ1本の街道なのだが、峠を境にして名前を変える。勢至堂峠は江戸時代、白河藩と会津藩の藩境になっていた。会津側に下っていくと、猪苗代湖南岸の「会津街道三宿」のひとつ、三代宿に入っていく。ここには口留番所や本陣、問屋があった。「えびな食堂」の隣には「三代の一里塚」が残っている。旧街道の峠越えはおもしろいものだ。

22、甲子峠(福島)

▲甲子峠。峠の周辺はまばゆいばかりの紅葉。甲子トンネルの入口が見えている(撮影:坂本卓也)

国道289号で越える奥羽山脈の峠。このあたりが奥羽山脈の南端になる。峠は東北最長の国道トンネル、全長4345メートルの甲子トンネルで貫かれている。2008年のトンネル完成までは、国道289号のこの間は分断国道になっていた。甲子峠周辺は見事な紅葉。甲子トンネルを抜けた会津側は気分よく走れる山岳ハイウェイになっている。

23、六十里越(福島・新潟)

▲六十里越。福島県側の残雪の風景。ここは日本有数の豪雪地帯だ

国道252号で越える福島・新潟県境(陸奥・越後国境)の峠。冬期は閉鎖。豪雪地帯の峠なので、閉鎖期間が長い。冬期閉鎖が解除された直後に新潟側から行くと、峠のトンネルを抜け出て東北に入った瞬間、息を飲むようなすばらしい残雪の風景が開ける。田子倉ダムの田子倉湖の右手に前毛猛山(1233m)が見える。その南には毛猛山(1517m)、さらにその南の名無し山が東北の最西端になる。

賀曽利隆

賀曽利隆 冒険家・ツーリングジャーナリスト

投稿者プロフィール

1947年東京生まれ。
1968年から2年間をかけてアフリカを一周したのを皮切りに、アジア、ヨーロッパ、オーストラリア、北アメリカ、南アメリカと、バイクで世界の6大陸を駆けめぐる。
1975年の結婚後も旅をつづけ、赤ん坊連れでの「シベリア横断→サハラ砂漠縦断」を成しとげる。
1980年、鈴木忠男さん、風間深志さんとバイクでキリマンジャロ挑戦。1982年には風間深志さんと「パリ→ダカールラリー」に日本人ライダー初の参戦を果たす。
1987年~1988年には「サハラ砂漠往復縦断」を成しとげる。
「30年代編日本一周」以降、10年ごとの「年代編日本一周」を繰り返し、2018年12月31日には1年4ヵ月に及ぶ「70代編日本一周」を終えた。
「年代編日本一周」とは別に、「島めぐり日本一周」、「温泉めぐり日本一周」、「林道日本一周」の「テーマ編日本一周」もおこなっている。2006年~2007年の「温泉めぐり日本一周」では1年間で3,063湯の温泉(温泉地)に入り、ギネスの世界記録に認定されている。『ツーリングマップル』の「東北」担当で、東北の道という道を精力的に走りまわっている。モットーは「生涯旅人!」

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