【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】
▲Matteo Ferrari (Gresini Racing)
目次
根本的に内燃機関バイクとは異質の乗り物
昨年からモトGPではMotoEが併催され、そのエキサイティングなライディングシーンを見れば、電動バイクがスポーツできるマシンであることは明らかです。私は7年前、MotoEに供せられるエネルジカ・エゴのプロトタイプに試乗したことがあり、そのことに疑いの余地はありません。
また昨今は電動バイクの試乗記事も多く見られ、圧巻の動力性能(モーターは極低回転から最大トルクを発揮する)やナチュラルなコントロール性が強調されています。
ただ、確かにその通りなのですが、ここで私ははっきり内燃機関バイクとは異質の乗り物だと言っておきます。バイクの120年の歴史において追求され続けてきたのは、そのままでは倒れてしまう不安を伴う乗り物に対し、乗り手に豊かな情報を与えて自信を持たせることだったと思います。その理想像を求めて45年、テストライダーとして過ごしてきた私には、その点で違和感を禁じ得ないシロモノでもあるのです。
技術的観点からも違いは明らか
その要因について考えてみましょう。これには4点ばかり注目すべきことがあります。
(1)ジャイロ効果を発生するクランク軸がない
バイクのホイールを回転させてシャフトを持てば分かりますが、ジャイロ効果によってその状態が保たれようとします。この作用は走行中のクランク軸にも生じていて、それがマシンの運動状態を変える際の抵抗感とか手応えとなり、マシンの存在感とか操るときの安心感を与えてくれます。でも、電動バイクにはそれがないのです。
(2)トルク変動がない
バイクは、エンジンの爆発間隔によってトラクション感覚が左右されることが知られており、また、圧縮行程でのマイナストルクによる瞬間的なエンブレでフロントの食い付き感が増すと考えられますが、モーターにはそれを期待できません。よって前後の接地感に乏しく、水すましのように路面を這っていくコーナリングになりがちです。
(3)寝かし込みの慣性モーメントが過大
電動バイクは、大きくて重いバッテリーによって、マスが上下に分散する傾向にあります。つまり、ロー運動つまりリーンに対して慣性が大きく、寝かし込みに対する反応が遅れ、初期に舵角が入りにくくなります。
フロントの接地感は舵角が入ったことで実感できる面もあり、これが接地感の乏しさになっています。多くの電動バイクではそれを補うため、内燃機関車ではありえないほどに前輪分布荷重が大きくされています。
(4)フレームの剛性バランスが理想的ではない
現在のスポーツバイクでは、リジットマウントしたエンジンを剛性部材として利用する方式が一般化しています。そのことで剛性バランスや捩じり変形の中心軸を最適化しているのです。また、クランク軸のジャイロ効果を発するエンジンをボルト接合することで、マシンの運動の変化に対する情報がより如実に得られるようになっていると思います。でも、電動バイクにはまだそうしたノウハウが生かされていません。
見守りたい電動バイクの技術トレンド
▲Energica Ego Corsa (Gresini Racing)
バイクも電動化を避けて通れないことは紛れもない事実です。たとえ、宿命的な問題を背負っていても、それを克服すべく、進化していくはずです。モーターへの改良(すでにはずみ車を備えるものも出現している)、車体ディメンジョンやタイヤ仕様も含め、内燃機関車とは違った方向に発展していく可能性があると考えます。
そして、電動バイクを楽しむには、私自身の感覚をも進化させないといけないのかもしれません。
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