賀曽利隆の「1万円旅」(東京~鹿児島往復編)1998年

【賀曽利隆:冒険家・ツーリングジャーナリスト】

前回:賀曽利隆の「1万円旅」(温泉めぐりの伊豆半島一周編)1998年

1998年4月18日午前8時、「福沢さん」(1万円札)1枚を持って、荷物満載の50ccカブで東京駅の駅前を出発した。カソリの究極の「1万円旅」、開始。1万円で「東京~鹿児島」を往復をしようというのだ。

往路では国道1号→2号→3号を走り、復路では国道10号→9号→8号を走り、直江津(上越市)から国道18号→17号で東京に戻ってくる予定だ。50ccカブは1万円旅にぴったり。1リッターのガソリンでカタログ上では100キロ走る。鉄道だと1620円かかる距離を100円ほどで走ってしまうのだ。

▲東京駅の駅前を出発!

まずは下関を目指して、国道1号→2号を走る。
天気はあいにくの雨。それも冬に逆戻りしたかのような冷たい雨だ。都内を走り抜け、多摩川を渡って神奈川県に入るとホッとした。はるかに遠い鹿児島が、わずかに近づいたような気がした。

それにしても東京から横浜にかけての国道1号の渋滞はすさまじい。その中を走るカブは、激流の中をさまよう小舟のようなものだ。慣れないカブなので、さっそく尻が痛くなってくる。ただひたすらに尻の痛みに耐えて走るのだが、この難行苦行が「1万円旅」の大きな魅力なのである。

横浜から茅ヶ崎、平塚と通り、小田原から箱根峠を登って行く。50ccにはきつい峠道。ギアをセコンドに落として登る。雨に濡れた峠周辺の新緑がきれいだった。そのなかに点々と山桜が咲いていた。

▲濃霧の箱根峠

箱根峠を越えて静岡県に入っても天気は変わらず、雨が降っている。
三島、沼津、富士と通り、国道1号の旧道でさった峠を越えた。
15時20分、静岡に到着。ここでやっと雨があがった。

▲牧之原台地の茶畑

静岡からは安倍川を渡り、旧東海道の宿場町、丸子から宇津谷峠を越える。東海道の峠越えはおもしろい。何しろパワーのない50ccカブなので、ひとつひとつの峠を苦労して登っていくしかないのだ。そのおかげで、峠がじつによくわかる。
峠は大きな境目。箱根峠を越えれば関東から東海へとガラリと世界が変わる変わる。
鈴鹿峠を越えれば東海から近畿へと、同じように世界が変わる。
その移り変わっていく世界を自分の目で見ていけるのがバイク旅のよさというものだ。 浜松を通り過ぎ、愛知県に入った。

豊橋、岡崎を通り、21時45分、名古屋に到着。
50ccカブに乗りつづけてきた疲労感がどっと押し寄せ、猛烈な睡魔に襲われる。もうメロメロ状態。それでも「(1万円で)東京-鹿児島の往復をするんだ!」という気持ちをよりどころにして、さらに夜の国道1号を走りつづた。

木曽川を渡り、三重県に入ったところで野宿する。東京から392キロの地点。時間は22時30分。木曽川河口近くの河畔にテントを張った。「カソリ流野宿」というとシュラフのみというのが定番なので、軟弱なといわれそうだったが、今回は全泊、テントを張っての野宿。

テントを張り終わると、遅い夕食にする。ストーブでタマネギ入りの味噌汁をつくり、飯を炊く。飯が炊きあがるまで待てず、その前にタマネギ入りの味噌汁をすすった。飯が炊きあがると、今度はタマネギ入りの味噌汁と一緒に食べた。なんともいえない幸福感。腹をへらしきっているので、この一汁一飯の超簡素な食事がじつにうまいものに感じられた。

翌朝は6時出発。小雨が降っている。四日市を過ぎ、鈴鹿峠を越えると雨は上がり、空が明るくなってきた。
大津、京都を通り、12時、大阪着。東京から563キロ。うれしいことに日が差している。
大阪駅前の梅田新道の交差点を過ぎると、国道1号から2号になる。
国道2号沿いのうどん屋の「160円」の看板が目に入った。なにしろ腹をすかせているので、このような看板に敏感になるのだ。カブを停めて160円のうどんを1杯、食べていきたかったが、グッとこらえて通り過ぎた。

淀川を渡るとまもなく兵庫県に入る。
尼崎、西宮、芦屋と通り、13時30分、神戸に到着。
国道2号を走っている分には、3年前(1995年)の阪神・淡路大震災の傷痕も癒えたかのように見えた。神戸から明石へ。完成したばかりの明石海峡大橋近くの海岸で、パン&チーズの昼食にした。

▲完成間もない明石海峡大橋

「パン&チーズ」というのは、食パンにスライスチーズをはさんだもの。それを生のニンジンをかじりながら食べるのだ。これが今回の旅の主食。空腹で腹がグーッと鳴るころをみはからって食べるパン&チーズというのは、なかなか味わい深い。栄養のバランスもとれているので、栄養面での心配もいらない。安くてすぐに食べられるし、いいことづくめなので、カソリの「1万円旅」には欠かせない。
さらにもうひとつ。明石海峡と明石海峡大橋を見ながら食べると、景色が最高のおかずになるので、粗末どころか贅沢な食事にすら感じられるのだ。

明石を過ぎると、姫路までは大渋滞。
16時、姫路に到着。ここでは姫路城を外から眺めた。
姫路を過ぎると、雷雨の直撃。雨具を着るのが遅れ、ずぶ濡れになった。
船坂峠を越えて兵庫県から岡山県に入った。近畿から中国に入ったのだ。ここでもやはり、峠が2つの大きな世界の境目になっているのがわかる。
船坂峠を境にして天気は変わった。雨は上がったが、ガクンと気温が下がり、寒くなった。備前焼で知られる伊部(備前市)を通り、18時30分に岡山到着。東京から737キロだ。

岡山からは国道2号のナイトラン。カブのすぐわきを大型トラックや車はスレスレに走り抜けていくので、たえずバックミラーで後続車に気をつけなくてはならない。夜間になると、よけいに神経を使うが、自分で自分の身を護らなくてはならないのだ。
国道2号のナイトランで倉敷、笠岡と通り、広島県に入った。

福山、尾道、三原と通り、広島の手前の東広島市で第2夜目の野宿。
国道わきの車両重量測定場の敷地のすみにテントを張った。夕食を食べ、眠りについたのは夜中近く。国道2号は夜通し交通量が多く、大型トラックが轟音をとどろかせて走り過ぎていくが、何しろ疲れ果てているので騒音も気にならずに眠りこけた。

▲広島の中心街に入っていく

広島到着は7時15分。東京からここまで899キロ。大竹を通り、山口県に入ると岩国だ。錦川にかかる錦帯橋を見ながらパン&チーズ、ニンジンのいつもの食事。錦川の清流と対岸の山の上にある岩国城を見ながら食べる。錦帯橋は有料なので、渡らずに見るだけ。河原には露天のみやげもの屋が並んでいるが、そこから漂ってくる焼きイカや焼きトウモロコシの匂いはたまらない。

国道2号を西へ。
徳山、防府、小郡と通り、午後4時、下関に到着。東京から1100キロ。ここまでかかった費用は2964円。
「うーん、いいぞ!」
国道2号は関門トンネルで九州の門司に通じているが、50ccバイクは通行禁止。通行料の20円を料金箱に入れ、エレベーターに乗って下り、人道トンネルを行くのだ。この人道トンネルというのは全長780メートル。カブは押していく。トンネル中央の県境を過ぎるとゆるやかな登りになり、門司側に着いたときにはもう汗ダク。歩いて関門海峡を渡った。

本州から九州に入った。国道2号は関門トンネルを抜け出た交差点で国道3号に変わる。そこからは国道3号を行く。
福岡を過ぎたところで二日市温泉に寄り道をした。気持ちがソワソワしてくる。東京を出てから3日目で待望の温泉に入るのだ。
二日市温泉には道をはさんで2つの共同浴場がある。ひとつは「博多湯」で入浴料100円。もうひとつは「御前湯」で入浴料200円。どちらに入ろうかさんざん迷ったが、100円分の贅沢を選択して、「御前湯」に入った。
湯船にどっぷりつかった時の気分はもう最高だ。湯船から上がると、20円の石鹸でおもいっきりガリガリ頭をかいて洗った。体にもたっぷりと石鹸をつけて洗った。湯上がりに飲んだ自販機の「飲むヨーグルト」(100円)が腹にしみた。二日市温泉では合計320円で極楽気分を味わった。

国道3号を南下する。
大宰府では太宰府天満宮に参拝し、久留米、八女を通り、小栗峠を越えて熊本県に入ったところで野宿する。脇道に入った道路脇にテントを張った。
さっそくオニオンスープをつくる。タマネギ入りの味噌汁のことだが、熱いオニオンスープをフーフーさましながら飲むと、心も体も癒される。
交通量のほとんどない道だが、オニオンスープをすすっていると、通り過ぎていった車が戻ってきた。
「寒くて大変だね。いやー、てっきり未成年の若者だと思ったので、家にでも泊めてあげようかと」
なんとも親切な人ではないか。だが、その人は未成年の若者ではないぼくの姿を見てすこし驚いたような顔をして、「それでは気をつけてな」と言い残して走り去っていった。

熊本到着は翌朝の8時15分。東京から1307キロ。
見事な石垣の熊本城を見て、鹿児島を目指す。

▲熊本では熊本城を見た

ガソリンスタンドで給油がてらの洗面、トイレ。そのついでに新聞を見せてもらう。テレビもラジオもない毎日なので、こうしてガソリンスタンドで見る新聞が、日本で世界で何が起きているのかを知る唯一の手段になる。
八代、水俣と通り、鹿児島県境に近づくと、そこはかとなくミカンの花の匂いが漂ってきた。さすがに南国、季節が早い。

▲球磨川の流れ

東京を発ってから4日目の4月20日15時15分、鹿児島に到着!
国道1号→2号→3号と走ってきたが、ここまで1520キロ。使ったお金は4404円。上出来だ。
「鹿児島に着いたら豚骨ラーメンを食べよう!」
と、ただそれだけを楽しみにしてひたすら鹿児島を目指して走ってきたが、いざ着いてみると気が変わった。豚骨ラーメンのかわりに、城山展望台からの桜島の眺めをおかずにして、いつもどおりの「パン&チーズ」を食べた。

▲鹿児島の西鹿児島駅(現鹿児島中央駅)に到着

さあ、東京を目指しての復路編の開始だ。
鹿児島から国道10号で北九州へ。
ひと晩、宮崎県の日向灘の海岸で野宿した。
大分県では亀川温泉の共同湯「浜田温泉」(入浴料50円)の湯に入り、宇佐神宮に参拝した。
中津では福沢諭吉の旧居に立ち寄った。観覧料金が200円なので中には入らず、外から眺めた。旧居前の藤棚の藤がきれいな花を咲かせていた。
ここでは「福沢さん、あなたのおかげでこんなにおもしろい旅をさせてもらっていますよ」と、1万円札のお礼をいった。それともうひとつ、次女の慶応大学入学のお礼もいっておいた。

▲中津の福沢諭吉の旧居

福岡県に入り、関門海峡を渡ると、下関から京都までは日本海側の国道9号を行く。
島根県の岩見海岸で野宿。

▲夜明けの岩見海岸

鳥取県に入ると、米子で自販機の缶コーヒーを飲んだ。東京を発ってから初めて飲む缶コーヒーなので、涙が出るほどにうまかった。
羽合では「ハワイビーチ」でカブを止め、波の音を聞きながら砂浜を歩いた。1万円旅で「ハワイビーチ」を楽しめるのだ。
鳥取では日本最大の鳥取砂丘を歩いた。ここでは砂の上に座り込み、パン&チーズの昼食。1万円旅でサハラ砂漠の気分も味わえるのだ。

▲鳥取砂丘を歩く

京都からは国道8号で北陸へ。
福井県に入ると、1日で最高の589キロを走り、敦賀に到着。敦賀湾の海岸で野宿した。
石川県では片山津温泉の「総湯」(入浴料350円)に入り、倶利伽羅峠を越えて富山県に入った。富山では富山平野越しにズラズラッと連なる立山連峰の山並みを眺めた。

▲富山の町並みの向こうに立山連峰を見る

新潟県に入ると、親不知の日本海に落ちる断崖を見て、直江津(上越市)へ。直江津から国道18号に入った。天気が崩れ、土砂降りの雨になった。

長野、上田、軽井沢を通り、碓氷峠を越えた。箱根峠から数えて碓氷峠は第37番目の峠。碓氷峠を下った横川で最後の野宿。ザーザー降りの雨の中、テントを張った。
テントに入ると缶ビールで乾杯。久ぶりに飲むビールのうまさといったらない。スーパーで買った1袋148円のミニウインナーを焼いてつまみにした。

高崎からは国道17号を走り、都内に入ったところで給油。満タンにしても10円玉が何個か残った。こうして4月24日午前11時30分、東京駅の駅前に戻ってきた。
全行程3434キロ。
ガソリンは全部で53・4リッター(5164円)入った。なんと50ccカブの燃費はリッター当たり64・5キロ。
全費用9958円の「東京~鹿児島往復」の1万円旅。42円が残った!

▲東京駅の駅前に戻ってきた!

費用一覧

4月17日(金)東京→桑名392キロ

■富士のサークルK
食パン(6枚)170円
スライスチーズ(6枚)220円
消費税19円

■島田のGS
ガソリン3・3リッター、329円(リッター95円)
(掛川の食料品店「山田屋」)
タマネギ(3個)181円
ニンジン(2本)114円
味噌228円
消費税26円

■浜松のヤオハン
2合入り米(2袋)330円
消費税16円
(岡崎のGS)
ガソリン1・9リッター、170円(リッター85円)

4月18日(土)桑名→東広島473キロ

■大阪のGS
ガソリン3・0リッター、284円(リッター90円)

■岡山のGS
ガソリン3・0リッター、261円(リッター83円)

4月19日(日)東広島→小栗峠(熊本)400キロ

■広島のGS
ガソリン2・4リッター、239円(リッター95円)

■大竹のローソン
食パン(6枚)160円
消費税8円

■下関のGS
ガソリン2・4リッター、209円(リッター83円)

■関門人道トンネル
通行料20円

■二日市温泉
「御前湯」入浴料200円
石っけん20円
自販機の飲むヨーグルト100円

■太宰府天満宮
賽銭20円

4月20日(月)小栗峠(熊本)→日向460キロ

■山鹿のデイリーストアー
食パン(6枚)200円
スライスチーズ(6枚)218円
消費税20円

■熊本のGS
ガソリン3・5リッター、316円(リッター86円)

■鹿児島のGS
ガソリン3・2リッター、326円(リッター97円)

■宮崎のGS
ガソリン2・1リッター、204円(リッター92円)

4月21日(火)日向→三隅(島根)452キロ

■大分のコンビニ
食パン(6枚)128円
消費税6円

■大分のGS
ガソリン3・5リッター、392円(リッター106円)

■亀川温泉
「浜田温泉」入浴料50円
石っけん30円

■宇佐神宮
賽銭20円

■門司のGS
ガソリン2・1リッター、198円(リッター90円)

■関門人道トンネル
通行料20円

■山口のスーパー「イズミ」
バナナ(6本)150円
ニンジン(2本)198円
豚コマ(174g)200円
消費税22円

■益田のGS
ガソリン2・2・231円(・100円)

4月22日(水)三隅(島根)→敦賀589キロ

■松江のGS
ガソリン2・5リッター、245円(リッター93円)

■米子の自販機
缶コーヒー120円

■鳥取のGS
ガソリン1・7リッター、175円(リッター102円)

■和田山のスーパー「ウエルマート」
食パン(6枚)98円
スライスチーズ(6枚)218円
サラダ100円
消費税20円

■亀岡のGS
ガソリン2・8リッター、244円(リッター87円)

■敦賀のGS
ガソリン2・6リッター、264円(リッター95円)

4月23日(木)敦賀→横川(群馬)527キロ

■気比神宮
賽銭20円

■牛ノ谷峠の自販機
缶紅茶120円

■片山津温泉
「総湯」入浴料350円
石っけん30円
温泉たまご50円

■小矢部のGS
ガソリン2・9リッター、285円(リッター93円)

■富山のスーパー「チューリップ」
食パン(6枚)180円
ミニウィンナーソーセージ148円
消費税16円

■直江津のGS
ガソリン2・4リッター、239円(リッター95円)

■妙高の自販機
缶ビール230円

■上田のGS
ガソリン2・5リッター、239円(リッター91円)

4月24日(金)横川(群馬)→東京139キロ

■都内のGS
ガソリン3・4キロ、314円(リッター88円)

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賀曽利隆

賀曽利隆 冒険家・ツーリングジャーナリスト

投稿者プロフィール

1947年東京生まれ。
1968年から2年間をかけてアフリカを一周したのを皮切りに、アジア、ヨーロッパ、オーストラリア、北アメリカ、南アメリカと、バイクで世界の6大陸を駆けめぐる。
1975年の結婚後も旅をつづけ、赤ん坊連れでの「シベリア横断→サハラ砂漠縦断」を成しとげる。
1980年、鈴木忠男さん、風間深志さんとバイクでキリマンジャロ挑戦。1982年には風間深志さんと「パリ→ダカールラリー」に日本人ライダー初の参戦を果たす。
1987年~1988年には「サハラ砂漠往復縦断」を成しとげる。
「30年代編日本一周」以降、10年ごとの「年代編日本一周」を繰り返し、2018年12月31日には1年4ヵ月に及ぶ「70代編日本一周」を終えた。
「年代編日本一周」とは別に、「島めぐり日本一周」、「温泉めぐり日本一周」、「林道日本一周」の「テーマ編日本一周」もおこなっている。2006年~2007年の「温泉めぐり日本一周」では1年間で3,063湯の温泉(温泉地)に入り、ギネスの世界記録に認定されている。『ツーリングマップル』の「東北」担当で、東北の道という道を精力的に走りまわっている。モットーは「生涯旅人!」

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