絶対的な安全性の追求から生まれた「エリーパワー」バイク向け2輪車始動用リチウムイオンバッテリー:開発者に聞く

【ケニー佐川:Webikeニュース編集長】

▲川崎にあるエリーパワー自社工場。

エネルギー密度が高く軽量コンパクトでも大容量の電力を蓄えることができるリチウムイオンバッテリー。そのメリットを最大限生かしたバイク向け2輪車始動用バッテリーがいよいよ本格的に実用化される時代がやってきた。研究開発から製造までを一貫して国内で行う最先端メーカー「エリーパワー」を取材した。

大学のEV研究プロジェクトから始まった

エリーパワーは慶応義塾大学大学院の教授だった吉田博一氏が2006年に同大学発のベンチャーとしてスタートした企業だ。それ以前に吉田氏は慶応義塾大学で電気自動車の未来を担う「Eliica(エリーカ)」プロジェクトを統括、8輪駆動のEVで最高速度370km/hを達成するなど世界から注目を集めていた。EVの要はバッテリーであり、その普及のためには大型リチウムイオンバッテリーを大量に製造する仕組みが必要になる。エリーパワーはその研究室が母体となって誕生した。

当時は技術的にも難しく大型リチウムイオンバッテリーへの理解も進まない中で、プロジェクトに賛同してくれる企業も少なかったという。だが、その逆風が「大手メーカーがやれないことにチャンスがある、自分たちの手でやってやろうじゃないか」と一念発起。
2006年に吉田氏を中心に4名のメンバーで会社を立ち上げた。それから3年の研究期間を経て、大和ハウスや大日本印刷など日本を代表する企業からの出資を受け、2010年に神奈川県・川崎市にあった日立造船の跡地に工場を設立。滋賀県にある研究開発施設を含め、日本国内で一貫して開発と製造を行っている。

▲川崎第一工場 2輪車始動用バッテリーを製造

▲川崎第二工場 大型リチウムイオンバッテリーを製造

主力製品の蓄電システムは累計出荷実績4万8000台以上(2019年12月末時点)。全国の住宅に設置され、災害時の非常用電源となるだけでなく、これを束ねて制御することで仮想発電所(VPP)としての活用も期待されている。こうした実績が認められ、2015年よりホンダと協働し、バイク向け2輪車始動用リチウムイオンバッテリーの共同開発を開始。
2017年にホンダの量産市販車向け「HYバッテリー」をリリースし、バイク市場への参入を果たした。

▲高度に制御された蓄電システム。災害時の非常用電源として住宅に最初から組み込まれるケースが増えているという。

▲住宅やオフィス向けの定置用大型リチウムイオンバッテリーとしては世界初の専業メーカー。

▲エントランスにはHYバッテリーの見本と搭載車がディスプレイしてある。

■リチウムイオンバッテリー普及のカギは安全性
リチウムイオンバッテリーの普及に伴い発火による事故も増えている。これが住宅であれば最悪の場合火災につながるし、海外でも電気自動車のバッテリーが走行中に発火するなどの事故も度々報告されている。
2006年の創業当時からこうした事態を想定し、エリーパワーではいかなる状況であっても発煙・発火しない安全性の追求を最優先して開発に臨んできた。ただ、リチウムイオンバッテリーは新しい技術であるが故、未だ明確な安全規格が追い付ついていないのが現状。

そこでエリーパワーでは独自に安全性を証明するため、ドイツにある世界最大級の国際的認証機関 TÜV Rheinland(テュフ ラインランド)の安全認証取得に向けて動いた。そのためには満充電状態のバッテリーに釘を刺したり、強制的にショートさせたり、24時間過充電状態にしても発火しないなど過酷な試験をクリアする必要があるが、同社の大型リチウムイオンバッテリーは2011年に見事合格。この分野でTÜV Rheinlandの規格を取得しているのは今でも世界で同社だけである。
※リチウムイオンセルの過酷条件試験マニュアルv.2:2011

通常のリチウムイオンバッテリーは発熱などの問題に対し、制御システムによって抑え込むという発想だが、そもそも内部に不純物があったりすると熱暴走は止められなくなる。また、クラッシュなどにより外力によって押しつぶされた場合も同様だ。これに対する根本的な対策としては、電池そのものの安全性を高めるしかない。究極の安全性を実証するためにエリーパワーではTÜV Rheinland規格の釘差し試験等だけでなく、銃弾貫通試験なども実施。徹底して安全性の向上に努めてきた。

▲圧壊試験の様子。事故などで完全に押しつぶされてもエリーパワーの電池セルは発火しない。通常のリチウムイオンバッテリーであれば爆発している。

▲釘刺し試験の様子。電池セル単体で高い安全性を確保。過充電、釘刺ししても発煙、発火、破裂しない。

10年使い続けられるバッテリーを

話を戻して、ホンダが求めていたのはファン領域のバイク向け2輪車始動用高性能バッテリーだった。つまり大型スポーツモデル用である。リチウムイオンバッテリーは高い蓄電能力のメリットがある反面、冬場は始動しづらく逆に温度が高くなると寿命が短くなるなどのデメリットがあると言われてきたが、ホンダはその弱点の改善を求めていた。

たとえば、アフターマーケットのリチウムイオンバッテリーの中には「冬場はヘッドライトを点灯させて暫く温めてから始動」と注意書きされた製品もあるが、それでは当然ホンダ純正としては使えないし、そもそも設計自体に問題があるという。

その点、エリーパワーは熱に強く劣化しにくいのが特徴で、テストでは12000回の充放電を繰り返しても80%の容量をキープできる性能が与えられている。また、猛暑や酷寒などの厳しい環境下の中でも劣化しにくく、10年間は使い続けられる耐久性を開発目標としてきたという。長く乗らない冬場などに起こりがちなバッテリー上がりの心配が少ないのもメリットである。
一方、鉛バッテリーは価格的には安いが、2~3年毎に交換する必要があるため結果的にランニングコストは高くなりがちだ。

最初の2輪車始動用はホンダのワークスマシン向け

開発ではまず試験的に振動・衝撃など最も過酷なレース用のモトクロッサー「CRF250R/450R」に搭載して性能を検証することになった。モトクロッサーは通常キックスタートのみだが、泥濘でスタックした場合などのタイムロスや体力消耗からセル始動方式を求める意見が選手からも寄せられていたのだとか。

しかしながら、鉛では重くなるのがネック。そこをブレイクスルーするために開発した2輪車始動用リチウムイオンバッテリーを2015年の全日本モトクロス選手権で成田亮選手のバイクに初めて搭載、そこで高評価を得たことが自信につながった。さらに同時期に開発が進められていたCBR1000RRにも採用され結果的に1.5kgの軽量化にも貢献、続いて市販モトクロッサーや新型アフリカツインにも続々と採用されていった。

▲軽量コンパクトなCBR1000RR用HYバッテリー(左)。純正鉛バッテリー(右)に比べて半分程度の重さに感じる。

▲CBR1000RRのシート下にコンパクトに収まったHYバッテリー。

▲HY93-C。CBR1000RR純正から転用された一般用リプレイスタイプ。軽量・安全性・低温時の優れた始動性・長寿命を実現する2輪車リチウムイオンバッテリー。12V 4.5Ah 重量約1.1kg

▲HY110。アフリカツイン純正から転用された一般用リプレイスタイプ。軽量・安全性・低温時の優れた始動性・長寿命を実現する2輪車リチウムイオンバッテリー。12V 6.0Ah 重量約1.4kg

ちなみにエリーパワーのHYバッテリーは寒冷地での使用を想定して、「-10℃でもエンジンが始動すること」を独自技術によりクリアしている(スペック上は、-10℃~65℃の広い範囲で利用可能)。その評判を聞きつけたヨシムラやカワサキが全日本ロードレースでも採用。ウインターテストでそれを知らずに乗った選手からも「エンジンのかかりが違う」、「スロットルレスポンスが良くなった」と好評だったとか。

そして、2019年の4月から満を持してストリートモデル用の「HYバッテリー」をWebikeで発売開始。今のところ対応車種は限られているが、今後はラインナップを増やしていく予定だ。

▲HYバッテリー専用の充電キットもリリースされている。

「ダカールラリー2020」での輝かしい勝利

取材を進めるうちに嬉しい最新情報が飛び込んできた。1月初めにサウジアラビアで開催された「ダカールラリー 2020」(1/5~1/17開催)にて、「HYバッテリー」を搭載した Monster Energy Honda Teamの「CRF450 RALLY」が総合優勝を果たしたのだ。これはホンダにとっても31年ぶりの勝利である。
ダカールラリーは砂漠や山岳地帯などを13日かけて全12ステージを戦い、総走行距離は7000km以上にも及ぶ「世界一過酷な自動車レース」として知られ、マシンとパーツには卓越した品質や耐久性、信頼性の高さが求められることは言うまでもない。

「HYバッテリー」はその過酷なラリーに勝利するために必要となる小型・軽量性と優れた安全性・耐久性・信頼性が認められ、ホンダのワークスマシン「CRF450 RALLY」に採用。今回ダカールラリーを走った5台全ての車両に搭載されていた。まさに究極の環境でエリーパワーの優れた性能が証明されたわけだ。

日本が強みとする「すり合わせの技術」で勝負したい

エリーパワーで現副社長を務める河上氏は話す。「リチウムイオンバッテリーの歴史は浅くまだ価格も高いし、市場での実績が足りない部分もありますが、軽量・ハイパワーで長寿命など潜在的なポテンシャルへの期待は無限大です。今は地道にメリットを訴えていきたいですね」。
リチウムイオンバッテリーは元々日本発祥の技術であり90年代は日本が世界を席巻していたが、近年は海外製品に価格面で押され気味だ。今後競争は一層厳しさを増していくと予測されるが、性能はもちろん品質や安全性へのこだわりは一貫して守り続けるべきという。

エリーパワーの高性能の秘訣についても聞いてみた。
「ひとつの特許技術で成り立っているわけでも、特殊な素材を使っているわけでもありません。“すり合わせの技術”みたいなところがあって、食品に近いかも。同じ材料でも作り手によって味が変わる。安全性が高い材料を使うことは当然のことですが、それだけでは不十分。そこにセパレーターや電解液やパッケージングの設計など、トータル的な技術が求められます。つまり、ノウハウに近い部分が多い。本来そこが日本の強みだったと思います。そこをしっかり追求していきたい」とのこと。

▲エリーパワー 代表取締役 副社長執行役員 河上清源氏
▲エリーパワー 営業第一部 次長 石田渉氏

また、営業責任者の石田氏は「マネジメントや制御でなんとかしている電池が多い中、エリーパワーのリチウムイオンバッテリーは材料と作り方やその管理の徹底、強靭な躯体を採用するなど、幾重にも工夫を重ねることで絶対的な安全性を確保していますし、そこがメーカー様からも評価されている部分だと思っています。性能やメリットを直接伝えにくい商材ですが、今後はエンドユーザーであるライダーの皆様の意見も吸い上げられるよう、徐々に接点を増やしていければと思っています」と意欲を語ってくれた。

筆者が直感した信頼性とニッポンの技術力

今回、筆者がエリーパワーの工場を実際に取材してみて感じたのは、日本のモノ作りはまだまだ捨てたものじゃない、どころかやっぱ凄い!ということ。虫一匹も入れぬような厳重な警備体制の中、温度や湿度が厳密に管理された、塵ひとつないクリーンな環境で粛々とバッテリーの部品が作られていた。

▲工場内を見学。機密保持のため残念ながら見せられるのはここまで。

それは印刷工場のような化学工場のような、自分には理解不能の景色だったが、ひとつだけ確信できたことがあった。それは工場で働く人々の丁寧な仕事ぶりと礼儀正しさであり、まさしく技術立国「ニッポン」の面目躍如たる姿であった。
もちろん、全行程のほんの一部を垣間見たにすぎないが、きっとこの工場から出荷される製品は信頼できる一流品であると、そう心で確信できたのであった。

始動性の良さなどは感覚的なもので人に伝えるのは難しいものだ。でも冬場にツーリングへ行った先で、あるいは久しぶりに乗ろうとして「エンジンがかからない」などの不安が解消されたら嬉しいはず。加えて低温始動性も良く、エンジンレスポンスも良くなるし、軽くなるなどメリットも多い。価格はけっして安くはないが、その性能が実使用で10年持つとなればどうだろう。そう考えるとリチウムイオンバッテリーも現実的な選択肢に入ってくるのでは。

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エリーパワー:リチウムイオンバッテリー 商品ページ
ケニー佐川

ケニー佐川 Webikeニュース編集長

投稿者プロフィール

早稲田大学教育学部卒業後、情報メディア企業グループ、マーケティング・コンサルタント会社などを経て独立。趣味で始めたロードレースを通じてモータージャーナルの世界へ。
雑誌編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。
株式会社モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。
日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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