なぜ鈴鹿8耐では速いライダーほど疲れていないのか

【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】

▲編集部注:和歌山利宏氏(1999年 鈴鹿8耐にて)

8耐での辛さは生き地獄のよう

写真は、20年前、1999年の鈴鹿8耐をYZF-R1で走る私です。
鈴鹿8耐に8度ばかり出場したことがある私に言わせれば、そのしんどさは筆舌に尽くし難いものがあります。肉体的な疲労で身体は思うように動かず、精神的にも集中力を維持するのは困難で、ストレート後のコーナーでこのまま真っすぐ行ってしまいそうな不安にも駆られます。無事、ピットインしてマシンから降りても、地面に倒れ込みそうになるぐらいです。

ところが、トップライダーほどレース中もペースはさほど落ちず、集中力を絶やさずに他車を交わしていくことに感心させられます。ピットイン後も、普通にクルーに状態を伝え、休憩室に向かっていきます。そのことは、自身の経験からも、またTVの映像からも明らかです。

これは一体どういうことなのでしょうか。速く走るには体力が要求されると考えて自然なのですが‥‥。とにかく、速いライダーが“無駄な力”を使っていないことは確かです。

とは言え、私とて無駄な力を入れているつもりはありません。でも、いかに自分が心身ともにリラックスできているかという指標でライディングを見詰め直し、“無駄な力”の実体が見えてきた気もしています。今回はそのことについて考えてみましょう。

能動的筋力と受動的筋力

筋力の使い方、力の入れ方には、二通りがあります。一つは力を入れてモノを動かそうとする能動的筋力。そして、もう一つが掛かる力に持ち堪えようとする受動的筋力です。

力を入れることには変わりなくても、この両者は生理学的に大きな違いがあります。能動的な動きには、自律神経の中でも緊張や興奮を伴う交感神経が優位となり、筋肉と血管が収縮と弛緩を繰り返し、精神的にも肉体的にも疲労を伴いがちです。でも、受動的な動きでは、リラックスできる副交感神経優位となり、血管も広がり疲労を蓄積しにくいとされます。

つまり、バイクに入力することで、身体がダイナミックに動いているかのように見えるライディングは、能動的筋力に依存しているので疲れやすいのです。それに、実のところ速くもないのです。

ライディングの極意は受動的身体操作

となると、ライディングでの身体操作は、受動的であることが大切になります。
進入時の逆操舵を考えてみましょう。逆操舵でマシンを寝かせようとするのは能動的操作です。一方、進入時に体幹の動きでアウト側に体重を残し(そのことで実際の体重の移動量を大きくできる)、アウト側に寝ようとするマシンを直立に保つために逆操舵したとしたら、それは受動的操作になります。

私がコラム「ライテクの都市伝説を斬る」で度々書いてきたように、テクニック論としての逆操舵を否定することには、そうした理由もあります。ステップを踏んだり蹴ったりすることにも否定的なのも然りで、それらは能動的操作になりがちだからです。

やはり、スポーツにおける身体操作の基本、「体幹部の筋肉(つまり深層筋)が主導し、四肢の筋力はそれに呼応し受動的にはたらく」は、理に適っているのです。だからこそ、トップライダーほど速くて疲れないというわけです。

【関連コラム】
和歌山利宏「ライテク都市伝説を斬る」シリーズ

和歌山利宏

和歌山利宏 モーターサイクルジャーナリスト

投稿者プロフィール

1975年にヤマハ発動機に入社。ロードスポーツの開発に携わる。
レーシングライダーとしても活躍し、鈴鹿8耐第4回大会では4位入賞。
85年からはヨコハマゴム契約となり、タイヤの開発テストを行うとともに、
ワイルドカード参戦した87年の日本GPでは、250ccクラスで11位に入る。
90年からはジャーナリストとしての活動を始め、現在に至る。

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