レースの奥の深さを思わせる今年のスーパーバイク世界選手権

【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】

想像できなかった波乱の展開

今年のスーパーバイク選手権WSBKは、4年連続チャンピオンのカワサキに対し、ニューマシンを投入するドゥカティとBMW、戦闘能力を上げてきたヤマハ、復帰したホンダがいかに絡むかとの興味が高まり、混戦が期待されました。

ところが、第1戦フィリップアイランドでフタを開けるや、ドゥカのアルバロ・バウティスタの圧倒的な独走で始まりました。しかも、彼は第4戦アッセンまで11レース連続(WSBKは1ラウンドがレース1と2《1位は25ポイント》とレース2のスタート位置を決める10周のスーパーポールレース《1位は12ポイント》の3レース制だが、アッセンはスーパーポールレースが雨で中止になった)で完全勝利を飾ったのです。

そのため一時は、ランキング2位のディフェンディングチャンピオン、カワサキのジョナサン・レイのポイント差は53点まで広がりました。早くもバウティスタのチャンピオン獲得が濃厚になり、興味が失せそうになったものです。

ところが、その後、形勢が一変し、8戦ドニントンパークでポイントが逆転。バウティスタは転倒が4度も続き、先の第9戦ラグナセカ終了時に、ランキング1位のレイと2位バウティスタとの差が逆に81点も付いてしまったのです。

これは当のカワサキやドゥカにとっても、想定外だったはずです。

上限回転数制限は公正かつ健全に機能している?

昨年からWSBKでは、それぞれのマシンに上限回転数が設けられています。経済的負担とマシン間の不均衡を抑えるためです。

具体的には、3速と4速での上限回転数の平均値を、市販の基本車の最高出力発生回転数のプラス1100rpmに抑えるというものです(基本車の回転数は公称値ではなく実測値)。厳密には、基本車の上限回転数の3%増か、どちらか低いほうが採択されるのですが、現実にはプラス1100rpmとなっているようです。

そのため昨2018年、カワサキZX-10RRの上限は、市販車の13000rpmから1100rpm増しの14100rpmとなりました。2017年型が15200rpmだったのですから、カワサキにとっては大打撃だったはずです。でも、それを出力特性の改善で克服、タイトルを獲得したのですから見事としか言いようがありません。

ただ、他メーカーに課せられた上限は、それよりも少し甘く、性能の均衡化が図られました。
そして2019年は、全ての新型車に一律、プラス1100rpm規則が課されました。

カワサキ ZX-10RR 14600rpm(そのために10Rは市販車の発生回転数を高めた)
ヤマハ YZF-R1 14700rpm
BMW S1000RR 14900rpm
ホンダ CBR1000RR 14550rpm
Ducati Panigale V4R 16350rpm

これでシーズンが開幕したのです。
ところが、ドゥカの圧倒的な速さは明らかで、上限回転数を3戦ごとに見直すという規則が発令されました。これにより第4戦からは、Panigale V4Rは250rpm低い16100rpmとなり、苦戦を強いられるCBR1000RRは500rpm高い15050rpmとなったのです。

そのことが形勢を一転させた一因であることは確かでしょう。でも、それだけでここまで違うものなのでしょうか。

性能特性の違いはライダーの走り方にも影響する

ドゥカの上限回転数が250rpm抑えられても、バウティスタは第4戦アッセンと第6戦ヘレスのレース1で優勝、その影響はさほど深刻でないと見えました。でも、カワサキ、ヤマハやBMWも戦闘能力が高まり、その差が小さくなってきたことは明らかでした。

上位グループが混戦状態になってきたのです。すると、バウティスタの走りは大きく変化しました。序盤の独走態勢では、高い進入速度からリヤをスライドさせながら向きを変えるモタードスタイルのようだったものが、混戦の中ではそれもままならず、止めて曲げるセオリースタイルにならざるを得なかったのではないでしょうか。

そのことで、高いブレーキング安定性を利して奥で曲げることのできるカワサキの利点が光り、ドゥカはウィークポイントが露呈してきたと思えます。だから、バウティスタの3度の転倒はどれも初期旋回中のフロントからですし、第9戦ラグナセカのスーパーポールレースの1周目の転倒は、カワサキのトプラク・ラツガトリオグルのインに入り込めず、フロントが接触してしまったことが原因です。

やはり、モータースポーツはライダーとマシンのマッチングで、能力が大きく違ってくるもののようです。

期待したい鈴鹿8耐

BMWのトム・スカイプは第7戦ミザノと第8戦ドニントンで2位に入賞し、もう一人のドゥカティライダー、チャス・デイビスは9戦ラグナセカのレース2で優勝。ますます終盤でのいいレースが期待されます。

そして、注目したいのが、開催目前の鈴鹿8耐です。

第7戦ミザノのレース2ではカワサキが表彰台を独占したのですが、その3人、レイ、ラツガトリオグル、レオン・ハスラムが、揃って一つのチームのライダーなのです。
さらにヤマハは目下ランキング3位のアレックス・ロウズと4位のファン・デル・マークに中須賀克之が加わった布陣で、ホンダは全日本で好調の高橋巧、WSBKに参戦中の清成龍一、元モトGPライダーのステファン・ブラドルというメンバーで参戦するのですから、それはもう暑くて熱いレースを期待しないほうがおかしいというものではないですか。

和歌山利宏

和歌山利宏 モーターサイクルジャーナリスト

投稿者プロフィール

1975年にヤマハ発動機に入社。ロードスポーツの開発に携わる。
レーシングライダーとしても活躍し、鈴鹿8耐第4回大会では4位入賞。
85年からはヨコハマゴム契約となり、タイヤの開発テストを行うとともに、
ワイルドカード参戦した87年の日本GPでは、250ccクラスで11位に入る。
90年からはジャーナリストとしての活動を始め、現在に至る。

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