ライテク都市伝説を斬る その13 [コーナーではタイヤをつぶせ]

【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】

コーナーでバイクを曲げるためにタイヤをつぶすのは正しい

“タイヤをつぶして曲げる”ライダー間でそんな会話が聞かれるようになったのは、ラジアルタイヤが普及し始めた80年代の後半期だったと思います。レーシングタイヤにもラジアル化の波が押し寄せ、それを乗りこなすためのイメージとしてライダーに広まり始めたのです。

当時、私はヨコハマゴムでレーシングタイヤの開発ライダーをしていて、ヨコハマユーザーとの話の中で、彼らの一人から“タイヤをつぶす感じなんですよね”と言われたとき、それが見事にツボを押さえていたことに、してやられた気分だったものです。

タイヤのグリップ力はタイヤに掛かる荷重が大きいほど高まります。比例関係にあるわけでなく、グリップ力の高まりには限界があるのですが、荷重感とグリップ感がリンクした感覚は、バイクを乗りこなすうえで大切です。

ただ、昔からのバイアスタイヤだと、荷重が掛かったとき、トレッドやサイドウォールも含めタイヤ全体が撓む傾向にあり、荷重による撓み感は把握しにくいかもしれません。ですから、ゴムまり全体が撓むかのように、荷重感を把握していたと言えます。

ところが、ラジアルタイヤだと、ベルトでガチっと固められるトレッドと、ラジアルカーカスによって柔軟なサイドウォールが役割分担を明確にし、それぞれが高機能を発揮してくれます。そのため、サイドウォールの撓みをつぶれ感として把握しやすくなります。

つまり、トレッドにおいて高まったラジアルタイヤのグリップ力を生かすには、サイドウォールのつぶれ感を感じ取らなければならないのです。“タイヤをつぶして曲げる”というわけです。

つぶれ感はいじめ感ではない

でも、この“タイヤをつぶす”という感覚が、一人歩きしているきらいがあります。

一部の人は、このつぶれ感をタイヤがつぶれて悲鳴を上げているみたいな感覚として捉えていると、思うことがあります。そうして、限界まで攻めていると満足しているかのようでもあります。

ではなく、タイヤがニュートラル状態で素直にグリップ力を発揮できるように、サイドウォールをつぶしていると考えるべきなのです。荷重を掛けることによって、タイヤをいじめるのではなく、素直に転がすのです。

もっと言えば、フロントタイヤをつぶすのは、旋回初期にフロントを使う1次旋回部分で、フルバンクに向かう2次旋回でつぶれを感じるのは危険な乗り方です。

また、リヤは、2次旋回に入って、リヤに荷重を移していく段階で、つぶれ感が高まっていくと考えていいでしょう。

タイヤをつぶすことは忘れていいのかも

ただ、最近はこのつぶれ感のことは、あまり言われなくなってきているようです。

その背景には、タイヤの進化もあると思います。昨今のラジアルタイヤは、特にフロントですと、ラジアルカーカスのカーカスアングルが0度のフルラジアルではなく、20度程度のセミラジアルが主流になっています。

サイドウォールに適度の剛性を与えて、悪い意味でのラジアル臭さを抑え、いい意味での自然なバイアスっぽさを加味しているのです。そして、リヤとのマッチングも含め、そうしたナチュラルさを造り込んでいるのです。

そのため、つぶれ感を意識せずに済むようになってきています。その意味でも、バイクは乗り手にあれこれと意識させず、無の心境で楽しめるように進化しているのかもしれません。

和歌山利宏

和歌山利宏 モーターサイクルジャーナリスト

投稿者プロフィール

1975年にヤマハ発動機に入社。ロードスポーツの開発に携わる。
レーシングライダーとしても活躍し、鈴鹿8耐第4回大会では4位入賞。
85年からはヨコハマゴム契約となり、タイヤの開発テストを行うとともに、
ワイルドカード参戦した87年の日本GPでは、250ccクラスで11位に入る。
90年からはジャーナリストとしての活動を始め、現在に至る。

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