賀曽利隆の「V-ストローム1000と街道を行く!」北国街道・北陸路編(3)

【賀曽利隆:冒険家・ツーリングジャーナリスト】

前回:賀曽利隆の「V-ストローム1000と街道を行く!」北国街道・北陸路編(2)

北国街道・北陸路編、最終行程へ

福井を出発。Vストローム1000を走らせ、北国街道を南下する。北国街道(北陸路編)も最後の行程。国道8号の西側のルートで、街道は福井鉄道に沿っている。

浅水宿、水落宿と通って行くが、ともに福井鉄道には浅水駅、水落駅があるので、両宿場の絶好の目印になっている。鯖江宿を通り、武生宿へ。武生の町中にある越前武生駅が福井鉄道の終点だ。

▲福井を出発

▲浅水宿を行く

▲水落宿の宿場跡碑

▲鯖江宿に入っていく

武生宿からは国道365号を行く。目の前には越前富士の日野山(794m)が聳えたっている。日本各地にある「郷土富士山」はいいものだ。ぼくはそれだけで十分に「日本一周」のテーマになると思っているし、バイクを走らせて郷土富士をめぐっている人もいる。

▲武生の中心街

脇本宿、鯖波宿、湯尾宿と通り、今庄宿に到着。北国街道沿いには古い家並みが建ち並んでいる。目につくのは紅殻塗りの格子戸だ。行く手にはまるでたちふさがるかのように福井県を嶺北と嶺南に二分する大山塊が連なっている。

今庄は交通の要衝の地。この大山塊を越える峠道が今庄から三方に出ている。木ノ芽峠を越えれば敦賀に出られるし、栃ノ木峠を越えれば湖北の木之本、山中越を越えれば越前海岸に出られる。そのうち木ノ芽峠越えが北国街道の古道、栃ノ木峠越えが北国街道の新道になる。

▲脇本宿を行く

▲今庄宿の造り酒屋

気比神宮の「お砂持神事」と芭蕉の句

今庄からは木ノ芽峠トンネル(1783m)を走り抜け、敦賀に到着すると、越前の一宮、気比神宮を参拝した。ここは北陸の総鎮守。鳥居の前には「お砂持神事」の像が建っている。それは気比神宮にまつわる昔話に由来する。

正安3年(1301年)、時宗2代目遊行上人の他阿真教が諸国巡錫の際、敦賀に滞在した。その当時、気比神宮の西門前の参道とその周辺は沼地で、気比神宮のすぐそばまでが入江だったという。

参拝者が難儀しているのを見ると、上人自ら先頭に立ち、神官や多くの氏子らと一緒になって浜から砂を運び参道などの改修にあたった。それにちなんで今日まで、時宗の本山、遊行寺(神奈川県藤沢市)の管長が交代するときには「お砂持ち神事」がおこなわれるという。

芭蕉は「奥の細道」の敦賀では「月清し 遊行の持てる 砂の上」の句を詠んでいるが、これも「お砂持ち神事」の句。気比神宮の境内には芭蕉像が建っている。

▲敦賀に到着

▲越前の一宮-気比神宮

▲気比神宮前の「お砂持神事」の像

芭蕉の『おくのほそ道』清書本がここに

敦賀から国道8号で疋田宿を通り、福井・滋賀県境の峠に向かっていく。

国道161号との分岐を過ぎ、長い上り坂を登りきって県境の峠に到着。越前・近江国境の峠になるが、この峠に名前はついていない。福井県側の峠近くの旧道沿いには新道の集落があるので、「新道の峠」といわれることもある。

▲水路が流れる疋田宿

県境の峠には峠茶屋「孫兵衛」がある。新道の西村家がやっている店。西村家というのは国の重要文化財にもなっている「おくの細道素龍清書本」を所蔵している旧家なのだ。

▲北国街道の峠茶屋「孫兵衛」

芭蕉は「奥の細道」の旅を終えると、5年もの歳月をかけて『おくのほそ道』を書き上げた。それは推敲に推敲を重ねたもので、芭蕉の晩年のすべてをかけた本といっていい。それを能書家の素龍に清書させたものが「素龍清書本」。

芭蕉はその清書本を頭陀袋に入れ、伊賀上野にいる兄に贈った。「おくの細道素龍清書本」は芭蕉の旅と同じように数奇な運命をたどることになる。次々と所有者が変わり、最後に敦賀・新道の西村家の所蔵となった。文化元年(1804年)の頃だといわれている。「素龍清書本」が「西村本」といわれるのはそのためだ。

西村家には大変失礼なことだが、「何で、よりによって・・・、ここなの?」といいたくなるような所に残されている。峠茶屋「孫兵衛」の店の奥には「素龍清書本」(複製版)がガラスケースの中に入れられ、展示されている。

ぼくがそれを目にしたとき、「すごいものを見た!」という感動で、体が震えた。原本は西村家の土蔵に保管されているという。

「すし」は山で生まれた!日本では最古の琵琶湖産鮒ずし

▲峠茶屋「孫兵衛」の「とろろそば」

峠茶屋「孫兵衛」で名物の「とろろそば」を食べ、県境の峠を越えて滋賀県に入る。国道8号の峠道を下っていくと琵琶湖が見えてくる。

JR北陸本線の近江塩津駅前を通り、塩津宿の道の駅「塩津海道 あぢかまの里」でV-ストローム1000を止めた。ここでは「ふなずし茶漬け」を食べた。

▲塩津宿のJR近江塩津駅の風情ある駅舎

▲塩津宿の道の駅「塩津海道 あぢかまの里」

▲塩津宿の道の駅「塩津海道 あぢかまの里」の「ふなずし茶漬け」

琵琶湖産のニゴロウブナやゲンゴロウブナを使った鮒ずしは、現存するすしの中では日本最古のものといわれている。塩漬けにした鮒をさらに飯ずしにしたもので、できあがるまでに何ヶ月もの日数がかかる。
独特の臭いがあるので食べられない人もいるが、ぼくの好物。酒の肴には最適だ。

今では「すし」というと、大半の人は江戸前の握りずしを思い浮かべることだろう。ところが握ったすし飯の上に新鮮な江戸前の具をのせた握りずしは、長いすしの歴史からみたら新参者でしかない。

「すし」というのはインドシナの山岳地帯で生まれたといわれるが、本来は山のもので、川魚や獣肉を長い期間、飯に漬け込んで発酵させた食べ物。一言でいえば川魚や獣肉の漬物だ。つまり鮒ずしはすしの原型で、食の文化財といっていいほどのものである。

落城した小谷城と浅井長政一家のその後

▲旧街道の趣が残る木之本宿

塩津宿を過ぎると琵琶湖の湖岸を走り、木之本宿に到着。木之本宿に残る古い家並みを行くとT字路にぶつかるが、そこが北国街道と北国脇往還の追分。「右 京・いせ道 左 江戸・なごや道」と彫られた石の道標が立っている。

右が北国街道で、左が北国脇街道ということになる。北国街道は長浜宿、米原宿を通り、鳥居本宿で中山道に合流する。北国脇往還は郡上宿、伊部宿、春照宿、藤川宿を通り、関ヶ原宿で中山道に合流する。

ここではまず追分を左折し、北国脇往還の国道365号を行く。伊吹山地の山裾の道。高月では渡岸寺に参拝。観音堂の十一面観音は国宝だ。

▲木之本宿では木之本地蔵を参拝する

浅井氏の小谷城跡ではV-ストローム1000で行けるところまで行き、その先は山中を歩いた。展望の開けた所からは湖北の平野と琵琶湖が見えた。

小谷城は克政、久政、長政の浅井氏3代の城。小谷山(494m)の全域に築かれた日本でも屈指の山城で、「日本五大山城」に数えられているほど。そんな小谷城は織田信長軍の激しい攻撃によって、天正元年(1573年)9月1日に落城し、浅井氏は滅亡した。

▲小谷城跡からの眺め

小谷城跡に近い国道沿いには浅井長政一家の像が建っている。長政と妻のお市の方(織田信長の妹)、3人の娘、それと長男だ。小谷城の落城後、3人の娘たちは生き延び、それぞれが後世の歴史に名を残した。

▲北国脇往還沿いに建つ浅井長政一家の像

長女の茶々は豊臣秀吉の側室になり、その後、淀君として豊臣家に君臨した。次女の初子は大津城主の京極高次に嫁いだ。3女の達子は徳川2代将軍秀忠の夫人になり、3代将軍の家光を産んだ。長男の万福丸はその後、捕らえられ、関ヶ原で磔の刑に処された。享年10歳だった。

浅井長政一家の像を見ていると、胸にジーンと来るものがある。これが歴史の悲しみというものなのか。

本陣跡の残る春照宿では「伊吹山文化資料館」を見学。藤川宿を過ぎたところで滋賀・岐阜の県境に到達。そこが近江・美濃の国境になっている。岐阜県側に入り、4キロほど走ると中山道の関ヶ原宿。関ヶ原宿の追分で折り返し、木之本宿まで戻った。

北国街道の終点、鳥居本宿へ到着!相棒と旅路を労う

北国街道もいよいよ最後の行程だ。宿場町の面影が色濃く残る長浜宿を通り、狭い街道の両側にびっしりと家々が建ち並ぶ米原宿を走り抜けていく。

北国街道終点の鳥居本宿へ。番場宿から摺針峠を越えると中山道に合流し、鳥居本宿(中山道編参照)に入っていく。ここが北国街道のゴールだ。

▲北国街道の長浜宿は観光スポット

▲北国街道の終点-鳥居本宿に入っていく

上越の高田宿から彦根の鳥居本宿へ、まっすぐ走れば400キロほどの距離だが、V-ストローム1000の走行距離は518キロになった。我が街道旅の相棒のV-ストローム1000に、「よくぞ走ってくれた!」と声をかけた。

▲鳥居本宿の「神教丸」の有川家

夕暮れの鳥居本宿を走り抜けると彦根ICで高速に入り、名神→東名の一気走りで東京へ。V-ストローム1000での快適な高速ナイトランだった。

【関連コラム】
◆Webikeバイクニュース 賀曽利隆コラム バックナンバー
賀曽利隆

賀曽利隆冒険家・ツーリングジャーナリスト

投稿者プロフィール

1947年東京生まれ。
1968年から2年間をかけてアフリカを一周したのを皮切りに、バイクで世界の6大陸を駆け巡る。
1982年には「パリ→ダカールラリー」に日本人ライダー初の参戦。1987年には「サハラ砂漠往復縦断」。7度の「日本一周」を成しとげ、「70代編日本一周」を目指している。
ツーリングマップル東北の担当ライダーで、東北の道という道を精力的に走っている。
モットーは「生涯旅人!」

この著者の最新の記事

関連記事

ピックアップ記事

  1. ボッシュが形づくる二輪車の未来 ボッシュは、自社のモーターサイクル&パワースポーツ事業が、…
  2. 采女華さんによるタイヤ点検イベント開催! バイク用品専門店の「2りんかん」は、12月17日…
  3. ホンダが、社内向け情報を紹介する「HondaTV Web」で、「東京モーターショー Hond…
ページ上部へ戻る