BMW HP4レースから考察する理想のエンジン特性と電子制御とは

【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】

以前のコラムで、7月に発売されたBMW HP4レースにおけるカーボンの特性を主に取り上げましたが、今回はエンジン特性と電子制御について考察します。

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車両キャラを演出するトルクカーブ

内燃機関において、もし、どの回転数においてもガス交換が完璧に行われ、同じように燃焼室を新気で一杯にすることができたとしたら、常に同じだけの燃焼圧力によってピストンを押し下げることができ、トルクカーブは回転数に関わらず一定で、完璧なフラットカーブとなります。
でも、実際はそうはなりません。相手は流体なのですから、最も効率良くガス交換できるのは、設定した回転域となります。
そのため、トルクカーブはトルクピークを頂点にした山型となります。

特にロードバイクでは今や懐かしくなった2ストロークエンジンは、機械的なバルブ機構がないので、ガス交換は自然の摂理に委ねられます。トルクピークに向かって効率がグングン良くなり、トルクピークは2次曲線的に立ち上がります。
そのことによる2次曲線的加速感がもてはやされたことも事実です。

ですから、トルクカーブがエンジン性格、ひいては車両キャラクターを決定する大きなファクターにもなります。カーブがフラット傾向だと扱いやすく、2次曲線的だとエキサイティングだというわけです。

レーシングマシンにとってのトルクカーブの理想は台形か

現在のリッタースポーツは、加速感の立ち上がりでエキサイティングさを表現しながらも、ピーキーさを抑え(カーブのピークが尖っていない)、扱いやすさを重視するようになっています。200psを発揮するのですから、昔の小中排気量の2ストのようにピーキーでは、扱いきれないのは言うまでもありません。

では、スーパースポーツよりもさらに速く走ることにフォーカスしたレーシングマシンでは、どのような特性が理想なのでしょうか。大切なのは、コントロールのしやすさです。フィーリングではなく、速く走れることがエキサイティングなのです。

私は、HP4レースに乗り、その答えが見えたような気がしております。

HP4レースは、基本車のS1000RRよりも、中回転域でトルクがリニアに上昇。そして、数%増の最大トルクを、500rpm低い10000rpmで発揮します。さらに、そこから広範囲がフラットなトルクで覆われ、トルクカーブが下降を始めた後、300rpm高められた14500rpmの上限まで回り切ります。

つまり、トルクカーブは限りなく台形に近いのです。昨今のターボ付き乗用車のトルクカーブが台形に近いのは知られるところですが、バイクのレーシングマシンもそれが理想なのかもしれないのです。

これだと、10000rpmのピークに向かって、トルクはリニアに上昇、加速度は一定の度合いで高まるので、トラクションを掴みやすくなります。そして、コーナーを一気に脱出していくピーク域では、トルクはフラットなので、加速度は一定。唐突さが完璧に排除され、フルパワーも生かしやすくなります。

また、サーキットだと、その領域から、一気にフルブレーキングしなくてはならない状況が多々あります。加速度が立ち上がるのではなく、一定の状態から減速度を生じさせることになるので扱いやすいのです。

おかげで、楽しく走れるS1000RRに対し、HP4レースは高出力化されながらも、無心に走れる扱いやすさだったのです。

電子制御は介入を認識できることが大切

現在の電子制御は実に良くできていて、トラクションコントロールやウィリーコントロールが作動し出力が抑えられても、もともとそれだけの出力しか発揮されていなかったような錯覚を覚えるほどです。

また、出力モードを変えたとき、たとえばレインモードであれば最高出力が抑えられますが、電子制御スロットルの開き具合が制御された特性は、それはもう自然で、それが素の特性かと思ってしまいます。

でも、レーシングマシンにとって、それがいいのでしょうか。

HP4レースでは、たとえばインターミディエイトモードだと1速での出力は71%に規制されます。もし、それを素の特性だとライダーが覚えてしまったら、2速にしたときに予想以上にパワーが出て危険な状況が生まれます。

そのため、HP4レースでは、出力制御をイグニッションカットで行っています。ミスファイヤー音とそれによる失速感が伝わり、出力制御されたことを認識できます。トラコンやウィリーのコントロールが介入しても、イグニッションカットでそのことが分かります。

フィーリングは上質と言えなくても、コントロール性は最高だったのです。将来的には一般市販車も、介入の自然さと上質さをそのままに、介入を認識させることが大切なのかもしれません。

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和歌山利宏

和歌山利宏 モーターサイクルジャーナリスト

投稿者プロフィール

1975年にヤマハ発動機に入社。ロードスポーツの開発に携わる。
レーシングライダーとしても活躍し、鈴鹿8耐第4回大会では4位入賞。
85年からはヨコハマゴム契約となり、タイヤの開発テストを行うとともに、
ワイルドカード参戦した87年の日本GPでは、250ccクラスで11位に入る。
90年からはジャーナリストとしての活動を始め、現在に至る。

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