BMW HP4レースへのカーボン採用の狙いは軽量化だけではなかった その2

【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】

前回、書き切れなかった重要なことがまだあります。

【関連ニュース】
◆BMW HP4レースへのカーボン採用の狙いは軽量化だけではなかった その1

BMW HP4レースのカーボンフレームは横剛性が抑えられ、ニュートラルで高い旋回性が実現されています。でも、ヨレるような不安定な挙動は生じません。
コーナーの立ち上がりでも、タイヤの滑りと再グリップの繰り返しにシンクロして、ヨレが生じるものものなのに、車体は安定性を維持しています。
これに関しては、材料の振動減衰特性なるものに注目すべきかと思います。

カーボンファイバーは変形後の振動が早く収まる

お寺の鐘の音を思い浮かべてください。鐘を突くと、グォー~ンといい音色が響きます。鐘は青銅で造られるのが一般的ですが、鉄(スチールまたは鋳鉄)製でも、それなりの響きが得られるようです。

でも、鐘をアルミで造ったとしたらコーンだけで終わってしまうことは想像に難くありません。さらに、カーボンだとポッってところでしょうか。
つまり、いい鐘では、変形を受けたとき、その振動が持続してくれるわけですが、カーボンでは振動がすぐに収束するのです。

アルミはスチールよりも振動減衰特性に優れ、さらにカーボンは製造方法によっては減衰性を高くすることができるため、余韻を残さないのです。

車体に生じる振動が減衰しやすいことも大切

そんなわけで私は、HP4レースのフレームが、横曲げに対してしなやかであっても、ヨレるような挙動には発展しにくく、不穏な挙動が生じないのは、一つに振動減衰特性に優れるためであると考えています。

また、捻りや縦曲げに対して十分な剛性を感じさせながらも、HP4レースにキックバックとか突き上げなどの高剛性のネガはありません。これも、高周波の振動に対しても減衰しやすいおかげだと思われます。

さらに言えば、一般にアルミフレームはスチールフレームよりも、シャキッとした軽さを感じさせます。これも振動減衰特性が影響しているのかもしれません。

フレームの振動減衰特性は材料だけでなく、構造によっても影響されます。トラス構造は減衰特性に優れ、橋梁がトラス構造とされるのもそのためなのですが、トラスフレームが好印象なのもそのためではないかと、HP4レースに乗った私は考えています。

現在、四輪車やバイクのボディ補強用アフターパーツに、単なる補強メンバーではなく、ダンパーを用いたものが市販されています。
これは、ボディの変形を収束させやすくしているわけで、振動減衰特性を改善していることになります。でも、カーボンでは、素材そのものがそうした減衰効果を備えているのであると言えます。

リムのしなやかさも大きく貢献している

ここで、カーボンホイールにも注目しましょう。

HP4レースの走行中の高速度カメラ映像を拝見すると、リムは接地点で大きくたわんでいます。大きな突起にアルミホイールなら歪んだままになってしまう状況でも、カーボンホイールはしなやかに復元してくれます。

もちろん、通常の走行でも、リムのしなやかさが、乗り心地と接地性を向上させ、神経質な挙動さえも吸収してくれていることは言うまでもありません。HP4レースのハンドリングはホイールによっても高次元化されているはずです。

フレームには、繊維束を編みこまない不織布が用いられると前回書きましたが、ホイールは織布とされています。しかも、部位によって編み方を変え、剛性バランスを最適化しています。

リム部に用いられるのが平織です。これは繊維束の縦束と横束を交互に編んでいく一般的な方式で、重なり部が交互に表れるため、紋様がチェッカー状になるのが特徴です。

ただし、普通の平織は縦横を90度に重ねるのですが、これは15+15度で、チェッカーは正方形ならぬ菱形となっています。これによって、周方向ではに剛性を高めながらも、リム部をめくるような変形に対して、しなやかなものとしているのです。

ちなみに、フレームは不織布でも、エアダクト内面は平織の織布とされています。

一方、スポーク部とハブ部は綾織です。縦束と横束を一つ飛びに編み、重なり部を平織よりも少なくして、しなやかを得る織り方で、重なり部が直線状に並んだ紋様となるのが特徴です。

このように、バイクの車体はカーボン化によって元となるカーボンシートの折り方に変化をつけることで設計の自由度が高まります。そして、それはとてつもない可能性を秘めていることにも気付いて頂けるのではないでしょうか。

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和歌山利宏

和歌山利宏モーターサイクルジャーナリスト

投稿者プロフィール

1975年にヤマハ発動機に入社。ロードスポーツの開発に携わる。
レーシングライダーとしても活躍し、鈴鹿8耐第4回大会では4位入賞。
85年からはヨコハマゴム契約となり、タイヤの開発テストを行うとともに、
ワイルドカード参戦した87年の日本GPでは、250ccクラスで11位に入る。
90年からはジャーナリストとしての活動を始め、現在に至る。

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