現在、注目を浴びている電子制御サスはまだ完璧ではなく進化の途中だ

【和歌山利宏:モーターサイクルジャーナリスト】

バイクのコンポーネントは進化において複雑化と単純化を繰り返す

「バイクを構成する様々なシステムに注目すると、高度化する要件を満足させるために複雑化しても、技術の進歩により単純なシステムで要件を満たせるようになると、また元に戻り、バイクは複雑化と単純化を繰り返しながら進化していく。」

これは、私が30年前に書いた著書「バイク進化論」での下りの一つでもあります。実際、一時期はトレンドになっても淘汰されていったデバイス類も多いのです。

私は、バイクは基本的に構成が単純であるほど、好ましいと考えています。バイクの素性がダイレクトに伝わってきて、駆る悦びを得やすく、バイクそのものを理解しやすいからです。

ただ、昨今の電子制御装置に注目すると、その恩恵を認めざるを得なく、これが淘汰されることはないでしょう。
とは言え、電子制御装置に依存しないミドルクラスには、ライダーとマシンの間に介在するものがなく、素の状態を味わえるという魅力があり、本来の姿として支持されていくと思います。

急激に普及してきたセミアクティブサス

▲CBR1000RR SPに装備されるオーリンズのセミアクティブサスペンション

では、昨今、上級モデルに採用されるセミアクティブサスはどうなのでしょうか。

これは、走行条件に合わせて逐次、電子制御で減衰力を最適に調整していくサスペンションです。アクティブだとバネ特性も調整されますが、このセミアクティブは減衰力のみとなります。

セミアクティブサスは、2012年、ザックス製がBMW・HP4に初投入され、その後は、BMW、ドゥカティ、アプリリアのアドベンチャーモデルなどにも採用されています。
また、2015年にはオーリンズ製がパニガーレ1299S、YZF-R1Mに、最近はCBR1000RR SP、MT-10SPにも採用され、話題を集めています。

確かに、これらは乗り心地を路面追従性を良好に保ちながら、必要なときには踏ん張り、操縦安定性を高水準化してくれます。
アクティブさせないマニュアル設定も可能で、専用セッティングを記憶させることもできます。スーパースポーツならサーキットとストリートで切り換え、また耐久レースならライダーに合わせたセッティングに即座に変更できます。
セッティング作業はスイッチ操作で可能で、商品性も高められています。

でも、私は最近のセミアクティブサスに接するうちに、それらへの不満も覚えるようになっています。

オーリンズのセミアクティブは簡易式

ここで、ザックスとオーリンズの機構上の違いに注目しておきましょう。
制御指標とするセンサーは、ザックスではサスのストローク状態の検知を第一義(S1000RRはフロントにストロークセンサーがなく不完全ですが)としています。
これに対し、オーリンズはIMU(慣性計測ユニット)でマシンの運動状態と姿勢を検知、それを制御のベースとしています。

そして構造的には、ザックスは専用の減衰力可変バルブ機構を備え、伸び側は低、中、高速域、また圧側は低、高速域で制御され、減衰力特性が最適化されるのに対し、オーリンズではニードルバルブによる低速域制御のみ(高速域も平行移動するが)となります。

つまりオーリンズは、IMUさえ装備されていたら、検知機構のために新たなハード追加の必要がなく、ダンパーユニットの基本も流用できることになります。ストロークセンサーを持たないという意味でも簡易式と言えます。

電子制御サスは、短所を知ったうえで、長所を生かすべき

そのため私の場合は、オーリンズのアクティブサスには応答性の遅れを感じ、しっくりきません。マシンが慣性力を受けてサスが動き始めても、マシンにGは発生せず、減衰力もすぐには立ち上がらないといったところでしょうか。辻褄が合っても、その過程における無意識の期待と合致しないのです。

ただ、私自身が「スポーツモード」、あるいは「テストライダーモード」でサスに対して敏感であるときには、そのように感じても、「ツーリングモード」で流していると、乗り心地と踏ん張り感の両立に感心してしまうのですから、勝手なものですが。

また、マニュアルモードなら良さそうなものですが、それでも本来のオーリンズには及ばないと感じます。オーリンズの美点であるサスが動き始めた領域での応答性に満足できないのです。
ニードルバルブによってアクティブ制御されているため、その隙間が本来よりも大きいところで使用されていて、極低速域での減衰力が小さいのではというのが私の見解です。

いずれにしても、セミアクティブサスは、短所を知ったうえで、長所を生かして楽しむべきなのでしょう。そして、進化を見守っていく必要があるとも思っています。
本当は単純化によってセミアクティブサスの水準が、満足できるものになれば最高なのでしょうが。

和歌山利宏

和歌山利宏モーターサイクルジャーナリスト

投稿者プロフィール

1975年にヤマハ発動機に入社。ロードスポーツの開発に携わる。
レーシングライダーとしても活躍し、鈴鹿8耐第4回大会では4位入賞。
85年からはヨコハマゴム契約となり、タイヤの開発テストを行うとともに、
ワイルドカード参戦した87年の日本GPでは、250ccクラスで11位に入る。
90年からはジャーナリストとしての活動を始め、現在に至る。

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