賀曽利隆の「街道を行く!」甲州街道編(1)

【賀曽利隆:冒険家・ツーリングジャーナリスト】

前回:賀曽利隆の「街道を行く!」中山道編(4)

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バイクで走る「江戸五街道」、残すは甲州街道。さあ出発だ!

東海道、日光街道、奥州街道、中山道と、スズキのV-ストローム1000を走らせての「江戸五街道」も、いよいよ最後の甲州街道になった。甲州街道は東京から下諏訪まで34宿を結んでいる。数え方によっては38宿とか43宿、45宿になるが、それはおいて下諏訪宿で中山道に合流する。

「江戸五街道」のひとつといっても甲州街道を利用して参勤交代する大名は信州の高遠藩、高島藩、飯田藩の3藩しかなく、東海道や中山道に比べると、甲州街道を往来する人の数ははるかに少なかった。
「しかるべき旅籠があるのは府中と八王子のみ」といわれたほどで、小仏峠と笹子峠が大きな難路として行く手に立ちはだかっていた。

さー、出発だ。夜明けの東京・日本橋を走り出す。V-ストローム1000で国道20号を行く。江戸城(皇居)の半蔵門前から四谷見附、四谷大木戸を通り、内藤新宿へ。

20170224_kasori_2744▲東京・日本橋を出発

新しく作られた宿場町「新宿」

内藤新宿では太宗寺の境内にある「江戸六地蔵」を見る。このあたりが内藤新宿の中心になる。なぜ内藤新宿かといえば、宿場の一部は信州高遠藩の内藤氏の下屋敷だったからだ。
太宗寺は内藤氏の菩提寺。境内には「江戸三大閻魔」で知られた閻魔堂もある。

都心のオアシス、新宿御苑は内藤氏の下屋敷跡。地名も内藤町。内藤新宿と信州高遠は甲州街道でつながっていた。
もうひとつ、なぜ「新宿」かといえば、内藤新宿は新しく作られた宿場町だからだ。

高層ビルが林立する内藤新宿から高井戸宿へ。ここは下高井戸と上高井戸の2宿に分れ、宿場の機能を半月ごとに交替していたという。内藤新宿ができるまでは高井戸宿が甲州街道最初の宿場だった。

20170224_kasori_2745▲内藤新宿の太宗寺の「江戸六地蔵」

都内に現存する唯一の本陣が残る日野宿

つづいて国道20号の旧道(旧甲州街道)で調布の「布田五宿」をめぐっていく。国領宿、下布田宿、上布田宿、下石原宿、上石原宿の5宿。「甲州街道34宿」とか「甲州街道38宿」という場合は、これら5宿を1宿として数える。

府中宿でも国道20号旧道の旧甲州街道を行く。府中宿は番場宿、本町宿、新宿の3宿から成っているが、八王子宿と並ぶ甲州街道最大の宿場町だった。府中の地名通り、ここは武蔵国の国府だった。旧甲州街道沿いには武蔵国総社の大国魂神社や江戸時代の高札場跡、豪壮な造りの高安寺などがある。

20170224_kasori_2748▲府中宿の大国魂神社

次の日野宿には、かつては多摩川の渡しで渡った。
ここには本陣(見学可)が残されている。都内に現存する唯一の本陣。甲州街道全体でも、ほかには相模の小原宿と甲斐の花咲宿にあるだけ。日野宿本陣の反対側にある「日野宿交流館」(入館無料)には、甲州街道の様々な資料が展示されているので必見だ。

20170224_kasori_2750▲多摩川を渡って日野宿へ

20170224_kasori_2759▲小原宿の本陣

八王子宿は十王堂宿にはじまり、横山宿、八日市宿、本宿・・・と、全部で15宿もあった。そのうち八王子駅に近い横山宿、八日市宿、本宿のあたりが八王子宿の中心になっていた。これらの宿場には市が立ち、宿場町であるのと同時に、八王子宿は市場町としての色彩が強かった。

かつて旅人でにぎわった小仏峠

八王子宿から高尾駅前を通り、JR中央線のガードをくぐったところで国道20号を右折。小仏峠へとつづく狭路に入っていく。次の駒木野宿には「関東三関」の小仏関址がある。

関所跡は今は公園。孫を遊ばせているお年寄りは、「中央高速の後の山は愛宕山というんですよ。山の左側がたわんでいて、あそこを越える小路は巡礼道といわれてました。関所の役人は、通行手形のない者を通すときは、あの巡礼道を通らせたといわれてますよ」と、正面を指差して教えてくれた。

20170224_kasori_2754▲駒木野宿の小仏関址

駒木野宿を過ぎると山々が間近に迫り、高尾山北側の裏高尾に入っていく。小仏宿を過ぎると、右手に中央道の小仏トンネルを見る。新甲州街道といっていい中央道は小仏峠の真下をトンネルで抜けているのだ。

小仏峠の峠道を登っていくと、じきに自動車道は行止り。V-ストローム1000を止め、そこから先は登山道を登っていく。40分ほど歩くと、標高560メートルの峠に到達。武蔵・相模国境の小仏峠は鉄道(中央線)の開通以前、甲州街道を行き来する旅人でにぎわった。

20170224_kasori_2756▲小仏峠の登り口。車道はここで行止り

峠には富士屋、甲州屋、相州屋、武蔵屋、弥勒屋と5軒もの茶屋があった。茶屋は旅籠を兼ねていた。峠周辺の山肌は耕され、畑では主に粟が栽培されていた。余った粟は遠く府中宿の市場まで売りに出されたという。
峠の茶屋には風呂があり、鯉を飼う池もあった。峠は賑わっていたので、峠下の集落から若者たちが遊びにやって来たほどだという。

20170224_kasori_2757▲小仏峠の頂上。ここで峠道と山上道が交差する

浮世絵にもなった犬目峠からの富士山の眺め

国道20号に戻ると高尾山口を通り、大垂水峠の峠道に突入。V-ストローム1000を右に左に倒してコーナーをクリアし、峠を越えて神奈川県に入る。
神奈川県内の宿場は小原宿、与瀬宿、吉野宿、関野宿の4宿。小原宿には神奈川県内で唯一の本陣が残り、与瀬宿には甲州街道の旅人たちが必ず参拝したという与瀬神社がある。
吉野宿には旅籠「ふじや」を再建した「郷土資料館」(入館無料)があり、吉野宿の宿場の模型が展示されている。国道20号をはさんだ反対側が本陣跡。そこには崩れかかった土蔵がある。

境川を渡って神奈川県から山梨県に入った。山梨県は旧国でいうと甲斐だが、境川から笹子峠までの関東側は「郡内」、それに対して笹子峠を越えた甲府盆地側は「国中」といわれた。

山梨県最初の上野原宿に到着。甲州街道沿いには商家がつづく。土蔵造りの店も何軒か見られる。名物「酒饅頭」の店もある。いかにも宿場町といった風情の上野原宿。

20170224_kasori_2760▲甲州最初の上野原宿を行く

ここを過ぎると国道20号を右折し、旧甲州街道を行く。この間には鶴川宿、野田尻宿、犬目宿の3宿があるが、国道20号から外れたこともあって、かつての宿場の面影を今でも濃くとどめている。

20170224_kasori_2761▲中央道の談合坂SAのすぐ近くにある野田尻宿

犬目宿を過ぎると、恋塚の一里塚を通り、犬目峠を越える。犬目峠からの富士山の眺めはすばらしい。安藤広重の「富士三十六景」にも、葛飾北斎の「富嶽三十六景」にも、犬目峠からの富士山が描かれている。

20170224_kasori_2762▲犬目峠から見る富士山

いよいよ甲州へ

犬目峠から国道20号の鳥沢宿に下っていく。鳥沢宿の次が猿橋宿。ここには「日本三大奇橋」の猿橋が、桂川の深い渓谷にかかっている。猿橋宿からは駒橋宿を通り、郡内の中心、大月宿の町並みに入っていく。

大月宿から花咲宿、初狩宿、白野宿、阿弥陀宿、黒野田宿の5宿を通り、甲州街道最大の難所、笹子峠へ。国道20号の笹子トンネルの手前を左に折れ、旧道で笹子峠を登っていく。家並みが途切れると、もうすれ違う車もない。曲がりくねった狭路の峠道を登りつづけ、樹齢千年の「矢立の杉」を見る。そして古びた、それでいてドッシリしたトンネルを抜けて笹子峠を越えた。同じ甲州でも郡内から国中に入ったのだ。

20170224_kasori_2768▲甲州街道旧道の笹子峠

笹子峠を下った最初の宿場が駒飼。ここにはかつて30軒もの旅籠があってにぎわったという。
駒飼宿から下っていくと、鶴瀬宿で国道20号に合流。ここには小仏関と並ぶ甲州街道二大関の鶴瀬関があった。

鶴瀬宿から勝沼宿へと下っていく。すると突然、目の前には甲府盆地が開けてくる。正面には白根三山を中心とする南アルプスの高峰群、右手には金峰山などの奥秩父連峰、はるか遠くには八ヶ岳が見える。

あたりは一面のブドウ畑。山裾も盆地内の平地も、すべてがブドウ畑になっている。それはまさに「日本一のブドウの里」を実感させる光景。
勝沼宿からは甲府盆地内の栗原宿、石和宿と通り、甲府宿に到着。甲府宿から下諏訪宿までは、甲州街道後編でお伝えしよう。

20170224_kasori_2770▲勝沼宿の大善寺。ここは甲州のブドウ栽培発祥の地

20170224_kasori_2771▲甲州街道前編のゴール、甲府宿に入っていく

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賀曽利隆

賀曽利隆冒険家・ツーリングジャーナリスト

投稿者プロフィール

1947年東京生まれ。
1968年から2年間をかけてアフリカを一周したのを皮切りに、バイクで世界の6大陸を駆け巡る。
1982年には「パリ→ダカールラリー」に日本人ライダー初の参戦。1987年には「サハラ砂漠往復縦断」。7度の「日本一周」を成しとげ、「70代編日本一周」を目指している。
ツーリングマップル東北の担当ライダーで、東北の道という道を精力的に走っている。
モットーは「生涯旅人!」

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