賀曽利隆の「街道を行く!」中山道編(2)

【賀曽利隆:冒険家・ツーリングジャーナリスト】

前回:賀曽利隆の「街道を行く!」中山道編(1)

2468_上州(右)と信州の国境に建つ旧碓氷峠の熊野神社

東海道と中山道の大きな違い

東京から高崎までの中山道はほぼ国道17号に沿っているが、高崎を過ぎると国道18号に変わる。さらにいえば碓氷峠を越えた軽井沢から佐久までは地方道、佐久から下諏訪までは国道142号、下諏訪から塩尻までは国道20号、塩尻からは国道19号・・と、ルートがコロコロ変わっていく。

このあたりが国道1号の東海道(東京→横浜は国道15号だが)との大きな違いだ。

明治維新後、東海道は日本の中心になり、中山道は忘れられたような存在になった。その理由のひとつには「東海道=国道1号」があったと思う。それにひきかえ中山道はズタズタに分断されてしまった。

もし「中山道=国道1号」になっていたら、今の日本の姿は大きく変わっていたに違いない。江戸期の中山道の重要度は東海道とほとんど変わりがなかったからだ。

2455_高崎から国道18号を行く
▲高崎から国道18号を行く

カソリおすすめの板鼻宿。忘れられたような宿場

さて高崎宿を出発する。相棒のスズキV-ストローム1000を走らせて次の板鼻宿へ。ここは碓氷川の「徒歩渡し」で知られていたが、増水すると川止めになるので、50軒を超える旅籠があった。

そんな板鼻宿は今では関東の中山道の中では一番、忘れられたような存在になっている。きれいな水路が流れ、双体の道祖神がまつられ、古い土蔵造りの商家が残っていたりするのでここはオススメの宿場なのである。

2456_板鼻宿の双体の道祖神▲板鼻宿の双体の道祖神

板鼻宿の次は安中宿。ここでは安中藩の武家屋敷を見学する。安中宿を過ぎると「上毛三山」のひとつ、妙義山が次第に大きく見えてくる。松井田宿越しに見る妙義山は目に残る風景。

2459_松井田宿越しに見る妙義山▲松井田宿越しに見る妙義山

松井田宿を過ぎると横川で名物の「釜めし」を食べ、坂本宿を過ぎると200近いカーブを走り抜けて群馬・長野県境の碓氷峠に到着。

碓氷峠は日本の大きな境目。峠を越えると関東の大平野から信州の高原地帯へと入っていく。ゆるやかな坂を下ると正面には浅間山が大きく見えている。

2461_ここは坂本宿。関東最後の宿場だ
▲ここは坂本宿。関東最後の宿場だ
2466_碓氷峠に到達。関東から信州に入っていく
▲碓氷峠に到達。関東から信州に入っていく

上州と信州の国境に建つ神社

JR軽井沢駅前で国道18号旧道を右折し、旧軽井沢へ。ここが中山道第18番目の軽井沢宿。信州最初の宿場で、旧軽のお洒落な銀座通りが中山道ということになる。

軽井沢宿からは旧碓氷峠まで行く。峠上の熊野神社は信濃・上野の国境をまたいで建っている。本殿の向かって右半分は上州、左半分は信州ということで、神社の祭りは上州と信州が仲良く共同でおこなっている。

2468_上州(右)と信州の国境に建つ旧碓氷峠の熊野神社▲上州(右)と信州の国境に建つ旧碓氷峠の熊野神社

バイクで走れるのはここまで。熊野神社前の茶店「しげの屋」では碓氷峠名物の「峠の力餅」を食べた。「あまみ」(500円)と「からみ」(500円)を食べながらカソリ、碓氷峠を考えてみた。

江戸時代の中山道の旧碓氷峠は明治になると南に移動し、国道18号旧道の越える碓氷峠になった。昭和46年に完成した碓氷バイパスはさらに南の入山峠を越えている。

新碓氷峠といってもいいこの入山峠は、じつは中山道以前の東山道の越えた峠なのだ。一番古い碓氷峠が一番新しい碓氷峠になった。このあたりがじつに面白いではないか。

不動の山と違って峠は移動する。碓氷峠はその典型だ。山はいつの時代も山だが、峠は人が越えて初めて峠になるので、時代とともに越えやすい峠へと移り変わる。峠には栄枯盛衰がある。そんなことを考えながら「峠の力餅」を食べるのだった。

2481_旧碓氷峠の「しげの屋」で「峠の力餅」を食べる▲旧碓氷峠の「しげの屋」で「峠の力餅」を食べる

当時の面影を残す宿場たち。「よくぞ残った!」

旧碓氷峠から軽井沢宿に戻ると、「沓掛の時次郎」で知られる中軽井沢駅周辺の沓掛宿を通り、日本各地に伝わる「追分節」発祥の地の追分宿へ。ここは中山道と北国街道の追分で、分岐点には常夜灯や「分去れの碑」が建っている。

2486_追分宿の信濃追分。右が北国街道、左が中山道▲追分宿の信濃追分。右が北国街道、左が中山道

追分宿で国道18号と分かれ、地方道で小田井宿、岩村田宿、塩名田宿、八幡宿と佐久路の宿場をめぐり、八幡宿を過ぎたところで国道142号に合流する。

小田井宿には本陣や問屋の古い屋敷が残り、中山道の宿場の風情が今でも色濃く残っている。岩村田宿は佐久市の中心で、長野新幹線の佐久平駅が近い。

2487_小田井宿の本陣。小田井宿には宿場の風情が色濃く残る▲小田井宿の本陣。小田井宿には宿場の風情が色濃く残る

岩村田宿から塩名田宿までの田園の小道からは浅間山がよく見える。塩名田宿は千曲川の渡しで栄えた宿場町。町並みが切れたところで千曲川にかかる中津橋を渡るが、橋の上からは北の浅間山と南の蓼科山を同時に見ることができる。「おー、これぞ信州!」といった風景だ。

八幡宿の次の望月宿からは芦田宿、長久保宿、和田宿と国道142号沿いの宿場をめぐっていく。これらの宿場は国道142号の旧道沿いに町並みが延びているが、どこも当時の宿場町の面影を残している。時代の流れに取り残されたかのようでもあるが、「よくぞ残った!」と感動してしまう。

2493_望月宿を行く。左手の本陣跡は今は病院▲望月宿を行く。左手の本陣跡は今は病院

2501_長久保宿の復元された高札場
▲長久保宿の復元された高札場
2506_長久保宿から見る風景。穏やかな風景だ
▲長久保宿から見る風景。穏やかな風景だ

望月宿では本陣跡の「歴史民俗資料館」を見学する。望月宿と芦田宿の「間の宿」の茂田井宿には古い家並みがつづき、中山道の脇には澄んだ用水が流れている。

その中に2軒の造り酒屋。白壁の土蔵の美しさには目を奪われる。本陣の残る芦田宿を出ると笠取峠を越えるが、峠道には中山道随一の松並木が残っている。

長久保宿の歴史資料館は中山道の旅籠を利用したもの。和田宿では宿場内を歩き、本陣と旅籠の「河内屋」、男女倉遺跡を見てまわった。男女倉遺跡は古代日本の黒曜石の一大加工場跡だ。

「雪の峠道」と「お助け小屋」

和田宿を出ると、中山道最大の難所、標高1520メートルの和田峠に向かっていく。国道142号は有料の新和田トンネルで峠を抜けているが、ここでは旧道に入り、曲りくねった峠道を登っていく。V-ストローム1000は見かけ以上に小回りのきくバイクなので、旧道の峠道を楽々と登っていく。

2512_和田峠旧道。ビーナスラインが頭上を通っている▲和田峠旧道。ビーナスラインが頭上を通っている

和田峠の積雪は冬期間だと3メートル以上にもなる。そのため雪の峠道で命を落とす旅人は多かった。旅すること自体が命がけの時代だった。

そんな和田峠の「お助け小屋」だったのが峠の茶屋の「東餅屋」と「西餅屋」。和田宿側ではつい最近まで「東餅屋」は営業していて、「峠の力餅」を食べられた。

餅はやわらかく、餡はほどよい甘さ。それに野沢菜が添えられていた。その「東餅屋」も今では閉店。何とも残念だ。こうして日本各地から「峠の茶屋」が次々に消えている。

和田峠は和田トンネルで貫かれているが道幅が狭いので一方通行。トンネル入口の信号に従って走り抜ける。トンネルの上をビーナスラインが通っている。ここでは峠道の中山道と山上道のビーナスラインが交差している。和田峠を越えて下諏訪側を下ったところには「西餅屋」があった。

諏訪大社下社巡り。中山道と甲州街道の合流地点に立つ

和田峠を境にして信州は大きく変わり、東信の佐久から南信の諏訪に入っていく。国道142号の新道に合流すると、下諏訪宿へと一気に下る。

中山道の第29番目の宿場、下諏訪宿に到着すると、まずは諏訪大社下社の春宮に参拝する。その近くからは下諏訪宿の町並みと諏訪湖を一望のもとに見下ろした。八ヶ岳の右手の大きく落ち込んだところが富士見峠になるが、富士見峠越しに富士山が見えた。

2530_下諏訪宿の諏訪大社下社の春宮▲下諏訪宿の諏訪大社下社の春宮

つづいて中山道と甲州街道の合流地点に立った。そこには「甲州道中・中山道合流之地」碑。

甲州街道との合流地点に近い本陣の岩波家を見学し、諏訪大社下社の秋宮を参拝すると、下諏訪温泉の共同浴場「旦過の湯」に入った、猛烈に熱い湯。歯をくしばって湯につかったが、湯から上がると体は真っ赤になっていた。

下諏訪宿は中山道では唯一の温泉地。ということで諏訪大社下社の秋宮に隣り合った下諏訪温泉の「ホテル山王閣」に泊まったが、昔の旅人たちも下諏訪宿で温泉に入るのをずいぶんと楽しみにしていたことだろう。

賀曽利隆の「街道を行く!」中山道編(3)に続く

【関連コラム】
◆Webikeバイクニュース 賀曽利隆コラム バックナンバー
賀曽利隆

賀曽利隆冒険家・ツーリングジャーナリスト

投稿者プロフィール

1947年東京生まれ。
1968年から2年間をかけてアフリカを一周したのを皮切りに、バイクで世界の6大陸を駆け巡る。
1982年には「パリ→ダカールラリー」に日本人ライダー初の参戦。1987年には「サハラ砂漠往復縦断」。7度の「日本一周」を成しとげ、「70代編日本一周」を目指している。
ツーリングマップル東北の担当ライダーで、東北の道という道を精力的に走っている。
モットーは「生涯旅人!」

この著者の最新の記事

関連記事

編集部おすすめ

  1. 今年の819(バイク)の日は土曜日!【8月19日】に「WebikeCAFE Meeting」…
  2. アライは、高品質を追求したスタイリッシュでモダンクラッシックなオープンフェイスヘルメット、C…
  3. アメリカンなバイカーアパレルを扱うモトブルーズは、「US Route66 アンティーク エン…
  4. バイク用品店Webikeで、フルパワー化 、スピードリミッター(180km/hリミッター)を…
ページ上部へ戻る