賀曽利隆の「街道を行く!」奥州街道編(1)

【賀曽利隆:冒険家・ツーリングジャーナリスト】

前回:賀曽利隆の「街道を行く!」日光街道編

6869_本宮宿に残る土蔵。見事な造り

北へ、北へと津軽海峡まで。奥州街道を行く!

奥州街道は日本最長の街道だ。日本橋を出発すると、津軽半島の三厩までは117宿もある。北へ、北へと津軽海峡まで、ただひたすらに走りつづけるこの「長さ」こそが、奥州街道の一番の魅力といっていい。

「片雲の風に誘われて、漂泊の思いやまず」の芭蕉ではないが、奥州には抑えようがないほど旅心をかきたてられる。

日光街道を走った翌5月20日、宇都宮を出発。相棒はスズキV-ストローム1000。まずは下野国の一宮、二荒山神社を参拝。旅の安全を祈願して白河に向かう。

6637_宇都宮宿を出発。ここが奥州街道(右)と日光街道(左)の分岐点
▲宇都宮宿を出発。ここが奥州街道(右)と日光街道(左)の分岐点
6655_宇都宮駅前の交差点。奥州街道は左折し、県道125号を行く
▲宇都宮駅前の交差点。奥州街道は左折し、県道125号を行く

時代から取り残されたような、旧街道の風情

東京から宇都宮までの奥州街道(日光街道)はほぼ国道4号に沿っているが、宇都宮から白河までは国道4号から大きく外れている。そのため「宇都宮→白河」間の旧奥州街道は、時代から取り残されたような区間になっている。そのおかげで旧街道の風情が色濃く残っている。

一里塚が残り、宿場の家並みに昔のたたずまいが見られる。「街道のカソリ」にとって「宇都宮→白河」間というのはじつに面白く、興味深く走れる区間なのだ。

6659_宇都宮宿の旧篠原家住宅は見学可。国の重要文化財に指定されている
▲宇都宮宿の旧篠原家住宅は見学可。国の重要文化財に指定されている
6667_白沢宿の水路と水車。ここは奥州街道の風情の残る宿場だ
▲白沢宿の水路と水車。ここは奥州街道の風情の残る宿場だ

芭蕉も訪れた、西行ゆかりの「遊行柳」

宇都宮宿から白沢宿、阿久津宿、氏家宿、喜連川宿、佐久山宿と通り、那須野原の中心の大田原宿へ。ここまでは県道125号→国道293号→県道114号→県道48号というルートになる。大田原はこの地方の交通の要地で、現在でも何本もの街道がこの町に集まっている。

大田原宿からは県道72号で鍋掛宿、越堀宿を通り芦野宿へ。ここには西行ゆかりの「遊行柳」が残されている。西行を熱烈に慕っていた芭蕉は、「奥の細道」では当然のようにこの地に立ち寄っている。

今でも「遊行柳」は残されているが、山際の水田の中にある柳で、特にどうという木ではない。この柳はすでに何代も植え替えられているからだ。「遊行柳」の奥に小さな祠の湯泉神社があるが、その祠の前には大銀杏。こちらは樹齢400年とのことだが、根回り6メートル、樹高は35メートルというとてつもない巨木だ。

6670_芦野宿を行く。うなぎ屋の「丁字屋」は元旅籠
▲芦野宿を行く。うなぎ屋の「丁字屋」は元旅籠
6672_芦野宿の「遊行柳」。「奥の細道」にも登場するので今でも多くの人が訪れる
▲芦野宿の「遊行柳」。「奥の細道」にも登場するので今でも多くの人が訪れる

古代日本北方警備の最前線「白河関跡」へ

芦野宿から国道294号で寄居宿へ。ここが関東最後の宿場。寄居宿を過ぎると栃木・福島県境の明神峠に到達。いよいよ「みちのく」だ。峠には「境の明神」がまつられている。関東側に玉津島神社、奥州側には住吉神社。両社が国境を境にして隣りあっている。

6697_栃木県と福島県の境の明神峠。峠には「境の明神」がまつられている▲栃木県と福島県の境の明神峠。峠には「境の明神」がまつられている

この奥州街道の峠には「二所ヶ関址」碑もある。明神峠を下っていくと東北最初の白坂宿に入っていく。ここから「白河関跡」へと寄り道をする。東山道の旗宿にある白河関は太平洋側の勿来関、日本海側の念珠関と並ぶ「奥羽三関」のひとつ。古代日本の北方警備の最前線だった。

白河関跡には白河神社がまつられている。白河藩主、松平定信の「古関蹟」もある。定信が「この場所こそ、白河関のあったところですよ」とお墨つきを与えた碑、それが「古関蹟」なのだ。

芭蕉の「奥の細道」でも白河関跡はきわめて重要なポイント。「心もとなき日数かさねたるままに、白河の関にかかりて旅心定まりぬ」と、白河関跡までやってきて芭蕉は「みちのく旅」への気持ちを新たにしたのだ。

6699_白河関跡。白河関は勿来関、念珠関と並ぶ「奥羽三関」のひとつ▲白河関跡。白河関は勿来関、念珠関と並ぶ「奥羽三関」のひとつ

さらに北へ。目印を辿り、宿場を”ハシゴ”する

白河関跡から白坂宿に戻ると、南湖公園に寄って奥州街道30番目の宿、白河宿に入っていく。白河宿までが「江戸五街道」になるが、奥州街道の面白さは白河以北にあるといっていい。

白河は奥州街道の宿場町であるのと同時に、奥州玄関口の城下町。中心街の道幅は狭く、敵の襲撃を防ぐためのクランク道がいまだに残っていたりする。

白河宿を出るとすぐに阿武隈川を渡り、根田宿、小田川宿、太田川宿、踏瀬宿と、奥州街道の宿場にひとつづつ立ち寄っていく。地図と睨めっこの頭の体操のようなもの。目指す宿場にたどり着いたときは、何ともうれしい。

根田宿には「根田の醤油」、小田川宿には小田川郵便局、太田川宿には愛宕神社があるが、これらがちょうどいい目印になる。踏瀬宿を過ぎると奥州街道の松並木に入っていく。「おー、こういう所も残っているんだ!」と、V-ストローム1000に乗りながら感動するカソリだった。

6734_踏瀬宿近くの奥州街道の松並木。通る車は少ない
▲踏瀬宿近くの奥州街道の松並木。通る車は少ない

大和久宿、中畑新田宿を通って矢吹宿の町中に入っていく。ここで目についたのは「大木代吉本店」の看板を掲げた造り酒屋。奥州街道の矢吹宿の歴史を感じさせた。

「奥の細道」の重要な舞台、須賀川宿

矢吹宿からは久来石宿、笠石宿と通り、須賀川宿に入っていく。ここは「奥の細道」の重要な舞台。芭蕉はこの地で7泊もしている。ということで須賀川市役所前の「芭蕉記念館」を見学し、芭蕉も参拝した市内の十念寺に行った。

さらに芭蕉も見たという阿武隈川の名瀑、乙字ヶ滝にも行った。乙字ヶ滝は「ミニ版ナイアガラ滝」。滝のわきには芭蕉と曽良の石像が建っている。

6774_芭蕉も見た阿武隈川の乙字ヶ滝は「ミニ版ナイアガラの滝」だ▲芭蕉も見た阿武隈川の乙字ヶ滝は「ミニ版ナイアガラの滝」だ

須賀川宿を出るとすぐに須賀川市から郡山市に入る。郡山といえば今では福島県内でも一、二の大都市だが、江戸時代の郡山といえば奥州街道の寒村程度の宿場でしかなかった。

郡山市内には笹川宿からはじまり日出山宿、小原田宿、郡山宿、福原宿、日和田宿、高倉宿と7宿あるが、拡大する郡山の市街地に飲み込まれ、ひとつづつの宿場を見極めるのがけっこう難しい。ここで頼りになるのは『ツーリングマップル東北』。それら宿場の地名がひとつのこらず全部、出ている。

郡山市から本宮町に入り、本宮宿へ。町の南側の旧奥州街道は「南の本陣通り」、町の北側の旧奥州街道は「北の本陣通り」と名付けられている。宿場らしくていいではないか。

6869_本宮宿に残る土蔵。見事な造り▲本宮宿に残る土蔵。見事な造り

10万石の中通り最大の城下町

本宮にはツバメが多い。ツバメの鳴き声を聞いていると心が癒される。ここにはカラスは少ない。対照的なのは郡山。カラスは中心街を荒しまくっていた。カラスが多くなるとツバメは急速に減ってしまうが、それ以上に荒んだ印象を与えるものだ。

本宮宿を過ぎると、左手には奥州街道の名山、安達太良山が見えてくる。杉田宿を通り、二本松宿に入っていく。ここは奥州街道の宿場町であるのと同時に、10万石の中通り最大の城下町。「霞ヶ城」と呼ばれた二本松城を歩く。

箕輪門前には「二本松少年隊」の像。戊辰戦争の時、官軍と戦って散った二本松少年隊の像だ。城跡を歩き、見晴らし台から安達太良山を眺めた。そこには「智恵子抄」の碑。本丸跡からは二本松の町並みを見下ろした。

6878_二本松城の「二本松少年隊」の像▲二本松城の「二本松少年隊」の像

二本松宿の次は油井宿。奥州街道沿いには「智恵子記念館」がある。ここは詩人、高村光太郎の妻、智恵子の生家。このあたりでは一番の造り酒屋だ。東京での生活に病み、故郷を激しく想う智恵子の生涯に胸が痛んでしまう。「東京には空がない」といって嘆いた智恵子。そんな智恵子がこよなく愛した安達太良山は目の前だ。

6883_油井宿の「智恵子」の生家▲油井宿の「智恵子」の生家

油井宿から二本柳宿、八丁の目宿、淺川新町宿、清水町宿と通り、福島宿に到着。奥州街道はまだまだ北へとつづく。

6887_阿武隈川を渡って福島宿に入っていく
▲阿武隈川を渡って福島宿に入っていく

賀曽利隆の「街道を行く!」奥州街道編(2)に続く

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賀曽利隆

賀曽利隆冒険家・ツーリングジャーナリスト

投稿者プロフィール

1947年東京生まれ。
1968年から2年間をかけてアフリカを一周したのを皮切りに、バイクで世界の6大陸を駆け巡る。
1982年には「パリ→ダカールラリー」に日本人ライダー初の参戦。1987年には「サハラ砂漠往復縦断」。7度の「日本一周」を成しとげ、「70代編日本一周」を目指している。
ツーリングマップル東北の担当ライダーで、東北の道という道を精力的に走っている。
モットーは「生涯旅人!」

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