【賀曽利隆 コラム】賀曽利隆のバイク旅(5)「一宮めぐり」

【賀曽利隆:冒険家・ツーリングジャーナリスト】

》【前回】賀曽利隆のバイク旅(4) 「島めぐり」

「30代編日本一周」(1978年)、「40代編日本一周」(1989年)にひきつづいての「50代編日本一周」(1999年)では、スズキDJEBEL250XTで3万8571キロを走った。
このときの一番のテーマは「国」。日本を県単位で見るのではなく、国を意識し、日本の全部の国をまわろうとした。

「県」じゃない。「国」だ!!

我々、日本人のDNAには千何百年もの旧国の歴史がしみついているので、各国には国独特の文化や気質が色濃く残っている。

そこでたとえば静岡だと、静岡県で見るのではなく、旧国の伊豆、駿河、遠江の3国で見ようとした。国境にもこだわることにした。ちなみに東海道の伊豆と駿河の境は境川という小さな流れ。境川を境にして、東が三島で西が沼津になる。三島から沼津というのは町つづきのようにも見えるが、三島は伊豆で沼津は駿河になる。国を意識すると三島と沼津は性格が異なる町だということがわかってくる。バイク旅の良さは、境目がじつによくわかることなのだ。同じく東海道の駿河と遠江の境は大井川。大井川を境にして、駿州人と遠州人では気質がずいぶんと変わる。駿河人には穏やかさを感じ、遠州人には「やらまいか精神」の進取の気性を感じる。
とはいっても国に焦点を当てての旅の仕方は難しい。各国の中心の国府に今ではほとんど何も残っていないし、各国に造られた国分寺もほとんど残っていない。

いろいろと考えた末に、一宮に焦点を当て、「一宮めぐり」をすることにしたのだ。

20160803_kasori01▲「塩竈神社(陸奥国)」表参道は202段の階段。豪壮な社殿は伊達藩主が9年の歳月をかけて造営。航海安全、安産の神として厚い信仰を集める。

全国68ヵ国のすべてに一宮は残っており、その数は103社!

信じられないことだが、日本全国68ヵ国のすべてに一宮は残っている。1国1社とは限らず、2社以上の国もあるので、全国の一宮は103社になる。「50代編日本一周」は1999年4月1日から10月29日まで、「西日本編」と「東日本編」の2分割でまわった。旅の正味の日数は122日。
「西日本編」では東京を出発すると西へ。相模の寒川神社、伊豆の三嶋大社、駿河の浅間大社、遠江の小国神社…と一宮を巡った。
「東日本編」では東京を出発すると東へ。安房国の洲崎神社、安房神社、上総国の玉前神社、下総国の香取神宮、常陸国の鹿島神宮…と同じく一宮を巡った。

20160803_kasori02_▲「寒川神社(相模国)」相模川の東側にある。祭神は寒川比古神と寒川比女神の男女2神。相模川の治水の神であり、相模国開拓の神。相模には二宮、三宮、四宮もある。

一宮と共にある自然に魅了される。日本の魅力を再確認

「一宮めぐり」をしてすぐに気のつくことは、鳥居をくぐって一歩、神域に入ると清浄な空気が流れているということだ。思わず深呼吸して胸いっぱいに空気を吸いたくなる。これは一宮の大きな魅力。一宮は自然の宝庫といっていい。

20160803_kasori03▲「事任八幡宮(遠江国)」国道1号のすぐ脇にある。境内には樹齢千年の大楠。樹齢千年の大杉もある。神社のすぐ近くが東海道の日坂宿。遠江にはこのほか小国神社もある。

20160803_kasori04▲「真清田神社(尾張国)」一宮の中心街にある。一宮の町は真清田神社の鳥居前町として発展。本町の商店街は鳥居前から延びている。一宮市の市名も一宮に由来する。

20160803_kasori05▲「都波岐神社(伊勢国)」伊勢には鈴鹿の都波岐神社(写真)のほかに、鈴鹿山脈山裾の椿神社がある。祭神はともに猿田彦。天孫降臨に際して道案内をした神だ。

手つかずの森、原生林、湧水に癒される

たとえば京都の下鴨神社(賀茂御祖神社)は山城国の一宮だが、境内林の「糺の森」は関西圏では一番の手つかずの森になっている。紀伊国の一宮の日前神宮と国懸神宮は和歌山市内にあるが、深い森にすっぽりと囲まれ、和歌山市内にいることを忘れてしまう。紀伊山地のどんなに奥に入っても、これだけの自然林はない。
能登の一宮は気多神社。ここの本殿の奥は昼でも暗い「いらずの森」と呼ばれる森になっているが、北陸では随一の原生林。常陸の一宮、鹿島神宮の神宮林も広大なもので関東随一の原生林になっている。

20160803_kasori06▲「敢国神社(伊賀国)」名阪国道の伊賀一宮ICのすぐ近くにある。神社の前方の南宮山が御神体。山頂からは上野盆地を一望する。

20160803_kasori07▲「上賀茂神社(山城国)」山城には上賀茂神社(写真)と下鴨神社の2社がある。上賀茂神社の御神体は神山。下鴨神社には豊かな自然の「糺の森」がある。

阿波国の大麻比古神社や薩摩国の枚聞神社には樹齢千年を超える大楠がある。豊後国の柞原八幡宮の大楠などは樹齢3千年。このように一宮には日本有数の巨樹が何本もある。

駿河国の浅間大社の湧玉池は富士山の膨大な水量の湧水で、そのまま川となって駿河湾に流れ出ていく。今回の熊本地震で大きな被害を受けてしまったが、肥後国一宮の阿蘇神社には九州屈指の名水の「神乃泉」がある。門前のあちこちから湧水が湧き出ている。これは阿蘇山の湧水。一宮は水の宝庫でもあるのだ。

20160803_kasori09▲「大麻比古神社(阿波国)」四国八十八ヵ所1番札所の霊山寺のすぐ近くにある。境内には樹齢千年の大楠。背後の大麻山が御神体になっている。

20160803_kasori08.1▲「薩摩国 枚聞神社(薩摩国)」国道226号の脇にあり、御神体の開聞岳が目の前だ。境内には樹齢千数百年の大楠。薩摩にはもう1社、新田神社がある。

20160803_kasori08▲「厳島神社(安芸国)」海に浮かぶ朱塗りの鳥居と社殿は見事な造りだ。本殿、拝殿、拝殿前の高舞台が全長300メートルの回廊で結ばれている。世界遺産に登録されている。

「一宮めぐり」で日本の精神文化に迫る

古代日本は「五畿七道」といわれるように大和、山城、河内、摂津、和泉の畿内の5国を中心に、東海道、東山道、北陸道、山陰道、山陽道、南海道、西海道の7道から成っていた。現在では東海道や北陸道というと街道名として使われているが、もともとは行政地域名。日本は「道州制」を敷いていた。「五畿七道」には全部で68ヵ国の国があった。

「50代編日本一周」では、「一宮めぐり」をすることによって日本本土の63ヵ国を巡った。その後の「島めぐり日本一周」(2001年~2002年)では、淡路国の伊弉諾神宮、佐渡国の度津神社、隠岐国の水若酢神社と由良比女神社、壱岐国の天手長男神社、対馬国の海神神社と「一宮めぐり」をして、島国の5国を巡った。こうして日本の68ヵ国に足を踏み入れたのだ。

「一宮めぐり」はその後もつづき、現在までに100社を巡っている。残りはあと3社。全社を巡るのはもちろんのことだが、これからもことあるごとに各国の一宮には参拝しようと思っている。「一宮めぐり」をすることによって、日本の精神文化の神髄に迫っていきたいのだ。

賀曽利隆のバイク旅(6)に続く

賀曽利隆

賀曽利隆冒険家・ツーリングジャーナリスト

投稿者プロフィール

1947年東京生まれ。
1968年から2年間をかけてアフリカを一周したのを皮切りに、バイクで世界の6大陸を駆け巡る。
1982年には「パリ→ダカールラリー」に日本人ライダー初の参戦。1987年には「サハラ砂漠往復縦断」。7度の「日本一周」を成しとげ、「70代編日本一周」を目指している。
ツーリングマップル東北の担当ライダーで、東北の道という道を精力的に走っている。
モットーは「生涯旅人!」

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